第12話 楽しい学園生活③

 学院での生活は、いざ始まってみると、案外と楽しいものだった。


 最初の二年コムパルソリーはいわば義務教育期間。貴族として身に着けるべき教養メイン。もちろん、本来の意味での基礎的知識及び教養はそれぞれの家庭で取得済みなのが前提。学院では、その上にさらに高度な教育が施される。

 希望すれば、剣術やダンス、歌唱やピアノ演奏などの科目も習熟度別に受講可能。

 専業教師だけでなく、超一流の学者や研究者による特別講義もある。集団討議やグループ学習など、個人主義に陥りがちな貴族の子弟がコミュニケーション能力を高め、リーダーシップを学ぶ機会も設けられている。


 学院内の図書館には、新旧あらゆる分野の文書が収められ、自由に閲覧できる。一部の希書や高額本を除いて、学院手帳を提示すれば無料で借りることができる。冷暖房完備の個別自習室も自由に使える。


 さすがに街中のような娯楽場はないが、巨大な敷地内にはカフェやレストランが複数あり、学院生はタダで街中以上にハイクオリティな食事を楽しむことができる。

 年に二回、筆記および実技の試験はあるが、落第制度はない。ただ、個人の成績は保護者宛に通達されるし、学院の記録簿に残る。各分野の上位50名は口内掲示板に掲示され、皆の知ることとなる。

 ちなみに保管された成績表の写しは、手続きを踏めば、発行してくれる。就職や仕官の際には大いにものを言うことになる。


 学院での過ごし方は自己責任。学びたい者への援助は惜しまないが、成績不振者に対して叱責することはない。


 最高の環境の下で、一族の庇護を離れ、自主自立の精神を学びつつ切磋琢磨し、社会性を育む場所ってところだろうか?


 義務科コムパルソリーが終われば、学院を去ろうが、選択科ハイセレクティブに残ってさらに四年、勉強を続けようが自由だ。

 まあ、ほとんどの学院生は将来のことを考えて、それなりの成績を残そうと、必死に勉強するらしけど。


 自他ともに認める好奇心と知識欲の塊、私みたいな者にとっては、まさにパラダイス。

 こんなことなら、もっと早く入学すればよかった。ホントに。


 第一皇子は学院を卒業済み。第二皇子は選択科2年生。なので、新入生の私と授業が被ることはない。出くわすことはなさそうだ。


 唯一の気がかりが『アリアドネ嬢』だが…。


『アリアドネ嬢』は、病弱のため一部の実技は免除。時おり授業も欠席するけど、どの令嬢の派閥にも~いくら平等を謳っても、出自や境遇でグループはできるものだ~まんべんなく顔を出し、それなりの関係を築いている。

 最高位の貴族には珍しいほど、人当たりがよく、穏やかで聞き上手。

 いわゆる八方美人ってやつ。

 『彼女』が『彼』だと疑う者は皆無状態。


 同室で仲良し(設定)の私は、おかげで、孤立することなく、同年齢の令嬢方とそれなりにお付き合いができている。


 部屋では、ご令嬢の仮面を脱ぎ捨てた『アル』と学問や趣味の話をする。

 そう。

 彼は、奇異な目で見られがちの私の趣味、魔道具の話で盛り上がれる稀有なお仲間だった。


 この若さで『秘密捜査官』をやっているだけのことはある。


 なんと偽令嬢アルは、魔道具犯罪を取り締まる国王直属『捜査官』の一人だったわけ。


 で、私が引き受けたバイトの主な内容は以下の通り。


 学院内の常設魔道具の確認と補修。依頼された魔道具の鑑定。『アリアドネ嬢』が学院生活を送るためのお手伝いと『アリアドネ嬢』が消え失せている間、その不在ををごまかすルームメイトとしての役割。


 例の魔道具うでわと同種の魅了効果付き魔道具も幾つか見つけ出し、成功報酬も弾んでもらった。

 男にも女にも、不心得者はいるらしい。


 秘密保持は面倒だけど、高収入と魔道具情報が得られる超おいしいバイト。


 私はお気楽にもそう思っていた。

 あの事件が起こるまで。










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