ロスト・スマイル──まぎれもない愛

悠真

第1話

 フールは、眠らない。

 

 そのせいか、彼はずっと眠かった。

 それで、学校に行っても周りの会話が頭に入ってこないし、授業もついていけなくなっていた。

 昼夜逆転しているかと言えば、そうではない。

 朝や昼になれば寝るというわけでもない。


「夜、起きたままで何やってるの」

 ラッフィーは、彼の机に肘を付きながら首を傾げてみせた。

 彼女とは、中学校に上る前からの近所に住む友人同士だった。とは言え、週末一緒に出かけるほどではなくて、たまに休憩時間や放課後に話をするくらいだった。

 それでも、彼女は彼に馴染みがあって、温かい親しみを見せていた。


「考えてるんだ」

「何を?」

「いろいろ」

「ずっと?」

「そう、ずっと」

 フールが笑いかけて止めたのに彼女は気づいて「ふうん」と言ってから口先を極端にすぼめてみせた。

 それでも彼の顔はもう、風ひとつない湖面のように表情をなくしたままだった。


「寝てないから、つらそうだね」

 心配されたと感じたフールは、しっかりめに首を振った。「そんなことないさ」

「世の中いろいろなことが起きている。そういうのをネットで調べ直したりして、答えを考えていると、いつも朝になるんだ」

「ふうん。それで答えが出てきたの?」

「出るときと、そうでないときがある」

「たとえば、どんな答えが出たの?」

「いろいろだよ」

 ラッフィーは、良くない質問をしたと思った。いろいろ考えている人にそうきいても答えはそれぞればらばらに決まっている。

 彼の話への関心が薄いせいかもしれない。

 彼女は内心、フールに少し申し訳なく思った。


 やがてチャイムが鳴った。

 彼女が立ち上がって自分の席に戻ろうとしたとき、彼はつぶやいた。

「結局、まだ中学生の僕には、どうすればいいのか思いついても、できないことが多すぎて何だかつらくなってしまう」

「だよね」ラッフィーは頷いた。

「私たちは、とりあえず毎朝ここへ来て、ずっといて、夕方になったら家に帰らなきゃいけない」

「そうやって、ずっとこのまま中学生を演じ続けるわけだ」彼はため息とともにそう口にした。

 そこで扉が開いて教室内に歴史の教師が現れたので、彼女は足早に自分の席に戻った。

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