えっ、吉常くん大学行かないの?~托卵で生まれた俺、大学に行かずに迷宮探索者で立身出世を目指す~

XX

第1章:俺の人生に絡んで来た女

第1話 俺はこれで生きていく

「えっ、吉常よしつねくん大学行かないの?」


 目の前には、苔むした石壁と薄暗い通路が続いてて。

 俺たちの足音がコツコツと響き、どこか遠くで水滴が落ちる音がこだまする。


 そんな中でパーティーリーダーの山田さんにそう言われた。

 ……マズいことを言ってしまった。


 俺の年齢の話になって、17才って答えると。

 来年受験だよね。大学何処を狙ってんの? って訊かれて


 つい言ってしまったんだ。

 行く気無いです、って。


 そしたら困惑と焦りみたいなものが山田さんの顔に浮かんて、そう返されたんだ。


「ええ、色々事情がありまして」


 曖昧に答えるのが精一杯だった。

 山田さんは少し眉を上げ、俺の返答に納得いかなそうな顔をする。


 ……テキトーな大学名を上げておけばよかった。

 調べてないからその後の話が出来ないけど、そこは俺が「ネームバリューしか見てない底の浅いヤツ」って評価になるだけ。

 大したことなかったのに。


 案の定


「大学には行くべきだよ。学歴は今でも就職でやっぱ有利に働くし。1回、学問に触れるのは人生を良くするよ」


 ……説教が始まる。


 これが嫌なんだ。

 

 彼はそう言いながら、熱心に語り始めた。

 まるで俺の将来を本気で心配しているみたいに。


 確かに、この人は良い人なんだろうな。

 この臨時バイトを始めてからずっと、俺に優しく接してくれたし。

 俺と同じ前衛クラスの戦士で、俺を気遣ってくれた。


 でも、内心で呟く。

 こっちにはこっちの事情があるんだよ。

 踏み込まないで欲しい。


「んー、まさかとは思うけど、芸能界だとかホストだとか目指してるとか? そういうのあまり良く無いよ?」


 今度は水元さんの声。彼女はパーティーの回復役クラスの僧侶で、若い女性だ。

 彼女の視線が俺をチラッと捉える。ちょっと上から目線な感じがして、俺の気分は一気に下がった。


「キミ、外見は確かに整ってる方だし、体型もクラスに戦士選ぶに相応しい引き締まった感じだけど、ああいう職業闇深いし」


 闇深いのは迷宮探索者も大差ないだろ。

 政府が「どうしても取り締まれないから」のゴリ押しで、強引に成立した職業なのに。


 心の中で毒づく。


 俺が黙っていると、さらに水元さんが何か言いたそうに口を開きかけた。

 でも、その前に別の声が割って入る。


「そろそろ戻ろう……」


 田中さんだ。

 彼はパーティーの後衛アタッカークラスの魔術師。

 ずっと無愛想で、俺にはほぼ無関心。

 自分の役割をきっちりこなすこと以外、興味がないみたい。


 正直、俺はそれがありがたい。

 山田さんや水元さんみたいに、絡んでくるタイプは面倒くさい。


 やれ大学行けだの、高校生が迷宮探索のバイトなんてやめとけだの。

 こっちの事情も知らないくせに、勝手に説教してくるのがうざったいんだよ。


 ……事情を話したところで、もっとウザくなるだけだし。


 俺は剣を握り直し、軽く息を吐く。

 石畳の冷たい感触が、ブーツ越しに足裏に伝わる気がする。

 迷宮の空気はひんやりと湿っていて、どこかカビ臭い。


 世界に迷宮が出現してから、もう30年以上が経つらしい。

 黎明期は色々あったみたいだけど、今じゃ迷宮探索者は立派な職業だ。


 危険だけど、稼げる。

 実力さえあれば、学歴なんて関係ない。


 だから俺はこの道で生きていく。

 それだけは、もう決めたことだ。


 俺の道はもう見えている。

 この俺……吉常よしつね天麻てんまは。


 プロの迷宮探索者として、自分の力でこの社会で生きていくんだ!

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