第一話 : なるべく大きな幸せと、なるべく小さな不幸せ
人は何故生きるか。
答えは簡単だ。偶然生まれてきたからだ。
何故人は生き続けるのか。
死ぬのが怖い、あるいは死ぬ理由がないからだ。
では人は何のために生きるか。
これについては意見が分かれるところであろうが、僕は“対崩壊特殊訓練中等教育機関”(あまりに長すぎるため、まず中等機関と略される)を卒業したあたりの時に、1つの正解を導き、今もなおその真理を信奉し続けている。
その答えは、幸せになるため、だ。
何を当たり前のことを、や、幸せだけが人間の全てであるものか、といった批判は、想像に難くなかった。実際僕はこの考えを口外したことはない。貶されるのが怖いから。
この主張において重要な点は、個人が幸せになることが重要なのであって、人類全体が幸せになることは必要条件ではないという点だ。
つまり僕は、ぼくが幸せになるために生きる。その点において、僕は自分が、生きるのが不得意であると分析していた。
究極の、幸福を。
「おいお前、早くとれよ!」
僕のほうを見ないで、肩の後ろでプリントをひらひらさせながら、前の男の子が声を荒げた。僕は自分が高等機関第三学年の教室にいるということを思い出した。
この子の名前、なんだっけ。
「申し訳ないです。」
僕は敬語で謝罪して素早くプリントを受け取った。
考えこんでしまうと、周りの世界が見えなくなってしまうものだ。よく、登校中に考え事をしていると、気づいたら学校に着いていた、なんてことがあり、その度に自分が貴族の馬車の通行を邪魔していなかったか心配になる。
一時間ほど走って家に帰ってからは、いつも通り機関で受け取った食事を摂り、最低限の家事を済ました。やるべきことは寝ることだけとなり、ベッドで考え事をしているうちに、その日口に出した言葉が「申し訳ないです」だけであったことに気づいて、「フヘヘ……」と笑った。
毎日こんな日々を送っているが、それは小さな幸せを感じる日々だった。一人で考え事をするのは好きだし、とても落ち着く。口先だけ――口にも出さないが――だとしても。
僕は、“まとも”だ。
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