転生の神 失敗する
ナカノツバサ
純平の場合
プロローグ
ここは天界。その一角、荘厳な雰囲気から離れた場所に、少し異質なスペースがあった。煮物の香りが漂い、小さなキッチンでは、エプロンを着た中年の女性が鍋の蓋を開けている。「よし、煮込みはバッチリね!」と満足そうな声を上げる彼女の名は福代。転生業務をバイトで請け負っている、主婦歴30年のバイト神だ。
「さてと、次の転生者はどんな人かしら。」
福代は手元の転生管理パネルに映る魂のデータを確認する。転生者の希望は明確だった。**「勇者になって異世界を救いたい」**。福代はニコニコと微笑みながら、「いいわねぇ、夢があって」と呟く。そして、手早く転生先を設定しようとした――が、その瞬間。
「あれ…醤油、足りなかったかも?」
煮物の味が気になった福代は、ほんの一瞬視線をキッチンへと移した。その間に、彼女の指は誤って隣のボタンを押してしまう。**ピッ!** 転生先の表示は「スライム」となった。画面には「確認しましたか?」という警告が出ているが、福代は気にせずこう言った。「まぁ、スライムも楽しいもんよね!」
---
異世界の湿った洞窟。純平は目を覚ますなり、自分の体がプニプニと柔らかいことに気づき、絶叫した。
「な、なんだこれ!?俺の体が透明で、しかも丸い!?」
彼は必死に周囲を見渡すが、そこには同じくぷにぷにしたスライムたちが群がっている。「おー、新入りか!そこの掃除でもやっとけよ!」と雑に命令され、純平はさらに混乱を深めた。
そのとき、洞窟内に突然光の柱が立ち上る。その光の中から現れたのは――エプロン姿の女性だった。「はい、転生後の様子を見に来たわよ!」と明るく声をかけるその女性を前に、純平は呆然とする。
「えっ、誰だお前!?…まさか神様?」
「そうよ、あたしがあんたを転生させたの。名前は福代、転生神のバイトやってるの!」
福代は得意げに微笑むが、純平はその言葉に怒りを爆発させた。「おい!俺、勇者になるはずだったんだよ!なんでスライムなんだ!?」
「まぁまぁ、そんなに怒らないの。スライムもかわいいし、なかなか味わい深い人生になるわよ!」
福代はおもむろにおにぎりを取り出し、純平に差し出した。しかし、スライムの体で受け取れるはずもなく、そのまま純平の体に吸収されてしまう。
「これ、食べたことになるのかよ…」と呆れる純平に、福代はこう言った。「ほら、スライムライフを楽しむのよ。あたしがちゃんと面倒見てあげるから!」
「あんた、まるで俺の母親みたいだな…かあちゃんかよ!」
こうして福代は、転生者の純平から「かあちゃん」と呼ばれるようになり、奇妙な冒険が幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます