前世の記憶を思い出したタイミングが最悪だったけど、前世の家族と再会したからみんなで楽しく過ごしたいと思う。
日夜 棲家
第1話
『おはよう。いつもお料理任せちゃって悪いわね……』
水な母親が言う。
『おいし……っ。ちょっと! なんでまだ腕上がるのよ! 追い抜けないじゃない!』
服な妹が言う。
『ぼく、おにいちゃんのごはん、すきだよ?』
刀な弟が言う。
……何を言っているのかよくわからないだろう。
実際、俺にもよくわかっていない部分が多い。
けれど、これが今の俺たち家族の在り方だった。
服に宿るアンデッドモンスター・リビングクロスになってしまった妹。
人に化けられる刀・インテリジェンスソードになってしまった弟。
彼らは元々普通の人であったが、今はアイテムであったり魔物であったり武器だ。
そんなみんなと食卓を囲っている。
それでも、俺にとってはこの時間が何よりも特別なものに感じられた。
みんなとは一度、凄惨な別れ方をしているから。
嬉しいのだ。
またこうしてみんなと一緒にいられることが。
「……やっぱり美味しいな」
朝食としてつくったベーコンエッグのトーストを口に含み、今ある幸せとともに噛み締めながら、元騎士爵家の娘になってしまっている俺は呟いた。
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俺は転生者である。
元は、少しは名の知れた格闘家で、今いる世界ではない違う世界にいた。
元いた世界は魔法も魔物も存在しない世界で、そこで中学生になる妹と小学生になったばかりの弟、そして三十代の母親と四人で暮らしていた。
父親はいない。
俺が中学を卒業するという頃……弟が物心つくかつかないかという時期に不慮の事故で亡くなってしまっていた。
物静かで真面目が服を着て歩いているような人物だった。
融通が利かず喧嘩ばかりしていて、その日も喧嘩したままだったのが心残りだ。
母親は、俺たち子ども三人を育てるために必死に働いていた。
だから俺も、長男として下二人の面倒を見ていた。
学生時代はバイトもして、父親の代わりを果たそうとしていた。
幸いなことに、俺には格闘家としてのセンスがあったようで高校を卒業すると同時にデビューした。
デビュー後、四戦連続で一発K.Oを決めており、期待のルーキーと呼ばれるようになっていた。
父親が不在で経済的に苦しい状況になっていたのをどうにかできそうだ、と希望が見え始めた時だった。
事件は起きた。
――俺たち家族の人生は狂わされたのだ。
家に押し入ってきた一人の男によって――。
それで俺たちは死ぬことになった。
正確に言えば、俺と妹はその時に死んではいなかったのだが、その男が原因で死んだことは間違いない。
そして俺は転生した。
前に俺たちがいた世界とは異なる、魔法と魔物が存在する世界に、騎士爵の令嬢として。
ただ、その時は前世の俺の記憶は失われてしまっていた。
『俺(
当然、『俺』が死んだ理由や、母や兄弟たちのことを覚えているはずもなく。
『私』は貴族のボンボンに売られようとしていた。
より正確に言えば、今世の父が一代限りの爵位(この世界の騎士爵はそういう仕組み)では満足しなくて『私』を使って貴族に取り入ろうとしたのだ。
『私』を政略結婚の道具にしたのだ。
まだ年端もいかぬ少女だったというのに。
今世の父は自己顕示欲の塊だったが、騎士爵を与えられる功績を残せるほどの武は有していたからそんな父より弱かった『私』は従うほかなかった。
『私』は膨大な魔力は持っていてもそれを火や風などの属性に変換することができなかったから。
それで貴族の妾にさせられた『私』だったが……。
この貴族がなんとも曲者だった。
女性を苦しませ、その苦痛に歪んだ顔を見ることに性的興奮を覚えるサイコパスだったのだ。
行為をする前から相手の首を絞めて悦に浸るという性的倒錯者。
『私』も例に漏れず、そいつの部屋に呼ばれて行ったら、そいつはいきなり押し倒して首を絞めてきた。
「さあさあ!
脂ぎったパンパンの顔の肉で埋もれそうになっている目を厭らしく歪めながら。
そいつはもう裸でスタンバっていた。
苦痛と恐怖で最悪な気分だったが、よかったことが一つあった。
この時――この曲者貴族に首を絞められた時――に、
――『俺』の記憶を取り戻せたのだ。
きっかけとなったのは、その貴族のやったこと。
重なったのだ。
『俺』の家に押し入ってきた男が『俺』の妹に対してやっていたことと。
容姿もどことなく似ていたのも思い出す一助になっていたかもしれない。
その光景が頭の中にフラッシュバックして、『
『私』には力がある……とは言えなかったが、それでも格闘家だった俺の戦いの勘を駆使して曲者貴族を退けることに成功した。
……金的様様である。
不快なものを見せられたし触れることになってしまってすこぶる気分を悪くさせられたが、純潔を散らされる前にどうにかできただけ幸運だったと捉えよう……。
本当にギリギリだったが。
俺はその貴族の屋敷を走り回って命からがら脱け出した。
俺は彷徨った。
服はボロボロにされていたし、理由はどうあれ貴族に歯向かってしまったのだ。
表を堂々と歩ける状態ではなかった。
しかも、売られたも同然なため家に帰ることもできなかった。
まあ、俺を家政婦か奴隷の如く扱うあんな
こそこそと人目を憚りながら歩き続け……。
俺は閑散とした森の中にある一軒家を見つけた。
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