亡国の第三王子は従者と穏やかに暮らしたい

toto

00.プロローグ〜長い夜〜

どうしてこうなってしまったんだろう...


最初に倒れたのは、第二王子のフォル兄様。

次に毒味役、そして第一王子のフリード兄様。

次々と鮮紅色の血を吐きながら倒れていく。


メイド達が悲鳴を上げて慌てふためく中、母様が声を振り絞って叫んだ。

「ノアを安全な場所へ...!」

瞬時に乳母のアンネマリーが応え、僕を抱えて走り出す。


僕は何をしているんだろう?

まだ家族と一緒に食事ができない僕は、乳母から食事の指導を受けながら夕食を済ませ、就寝の挨拶をしに食堂へ向かった。


暖かな空気の中、兄様達が僕の頭を撫でながら就寝の挨拶をし、父様は「あと1ヶ月だ。共に食事が出来る日を楽しみにしている」と、穏やかに微笑んでくれていたはずなのに...


それなのにどうして...


フォル兄様、フリード兄様、母様、父様と次々倒れていく中、僕は駆け寄って無事を確認する事すら出来なかった。


この時の僕には、何が起きているのかわからなかったんだ。


◇◇◇


アンネマリーがノアを抱き上げた時、ノアは譫言のように家族の名前を呼んでいた。


「...とうしゃま...かあしゃま...ふりーどにぃしゃま...ふぉるにぃしゃま...」


「ノア様...大丈夫...大丈夫ですよ。ノア様の安全が確保出来次第、私が皆様の安否を確認して参りますから...」


未だメイド達が慌てふためく混乱の中、アンネマリーは必死にノアを宥めた。


ドッゴゴゴゴ.....ドカーンッ


食堂を出た直後、正面玄関ホールがある方角から地響きの様な轟音が鳴り響いた。


アンネマリーは咄嗟にノアの頭を抱き抱え、その場に踞る。


「結界内からの攻撃なんてッ...!」


そう呟いたアンネマリーの顔は苦渋に染まり、子供部屋への最短ルートを諦めた。

アンネマリーは惑わしの術式が刻まれているルートを通り、新月宮の子供部屋──ノアの部屋を目指すことにした。


アンネマリーが選んだルートは、最近ノアが教わり始めたもしもの為の“逃げ道”だった。

場内の限られた者しか知らされていない、非常時用の秘密の通路だ。

正しい順番で魔力を込めることで術が重なり、幻術がどんどん強くなる仕組みになっている。


この術式の良いところは、『起動した術の数だけ重ねがけされ、強固になっていく』という点だ。

術式を解除するためには毎回手間と魔力が必要となるため、それこそがこの術式の強みだった。


ノアは1ヶ月後に開催される予定だった自身のお披露目式のために、この逃げ道を教わっていた。


通常の王家であれば、第三王子である幼いノアが知る必要はなかっただろう。

しかし、シュテルンインゼルの王家には特殊なスキルが存在する。

そのため、幼い第三王子のノアであろうとも、万が一に備え隠し部屋や逃亡用ルートを叩き込まれる必要があった。


ノアは時折何処からか放たれる攻撃魔法の爆ぜる轟音にびくりと肩を震わせていたが、その度アンネマリーは抱きしめる力を強めてノアを宥めた。


ひたすら離れにある子供部屋へ向かって走り続け、あと1つ角を曲がれば子供部屋!というところで、騒ぎを聞き付け駆け付けた青年と鉢合わせた。


鉢合わせた青年はアンネマリーの三男、アーデルヘルムだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る