第7話 おじさん、健康診断後に教会

 クレイ爺特製緑のぶくぶく薬を我慢して辿り着いた教会。だが、おじさんはもうヘトヘトだ!


「あ、あ、あ、あ、あ…………ふぅぅぅぅううう、すぅううう、あの、解呪、を、お願いしたいんですが……」

「あ、おっさんじゃん!」


 話しかけてきたのは茶色い髪を頭のてっぺんで結んだ少女、ヒナ。ここで世話になっている孤児で顔見知り。

 教会は孤児院と併設されており、俺は時折ここに来ていた。なので、孤児院の子供達とも顔見知りで気さくに話しかけてこられる。


「よお、ヒナ。お出かけか?」

「そうよ! 弟と一緒にお使いにいってくるの! えらい?」

「えらいなー、じゃあ、そんなえらいヒナに小遣いをやろう。えらい?」

「おっさん、えらいね! ありがと!」


 俺はこうやって寄付やこづかいをあげて自己肯定感を上げている。

 Gランクのおっさんはお姉ちゃんのいる店に行っても馬鹿にされる。だが、子供達やシスターは喜んでくれる。おっさんは幸せである。


「ところで、ヒナ。シスターは誰かいるか? ちょっとお願いしたい事があってな」

「ああ、シスターならね、今日来たばっかりの人が……あー!」

「おっさん、何か用?」


 ヒナが言い終わる前に、伝えたかったシスターを発見したようで指をさす。

 教会の中から出てきたのは水色髪の物静かそうなシスター。おっさんと呼ばれた気がするが多分俺の耳が悪いせいで聞こえた幻聴だろう。だって、シスターだよ。シスターそんな事言わない。


「おっさん、聞こえてないの? おっさん」


 シスターそんな事言ってた。幻聴じゃなかった。


「シ、シスター、はじめまして。俺の名はカイエン。オッサンじゃないんだ」


 子どもは言ってもいい。だが、そこそこ大人なシスター、テメーは駄目だ。


「カイエンのおっさんね。よろしく、おっさん。私の名は、シア」


 シアは真っ直ぐな目で俺を見て、言った。澄んだ眼で言った。すごく滑舌良く言った。

 やだー、おっさん、この子苦手ー。

 振り返ると、ヒナは弟と一緒にもう遠くへ行ってしまっている。


「で、おっさんどうしたの? なんの用?」


 この子、止まんないんだけど。


「あ、ああ……あの、解呪をお願いしたくて……」

「解呪? ……ふーん、偽装の呪いまでかけられてるのね。えい」


 シアが指を振ると、一気に身体が冷えたように感じた。


「【偽装の呪い】を解いたわ。この呪いは呪いを気づかなくさせる為の呪い。じわじわとなぶり殺すために使われることが多い。その呪霊は今消した。ふーん、おっさん、ずいぶん呪われてるね」


 シアの青い瞳が妖しく輝く。

 本来、解呪は長い祈りを捧げ神の力を身体に宿し、呪いをかける呪霊を払っていくもののはず。それをこのシスターは指を振っただけで一つ呪霊を消した……? そんなことが出来る解呪の使い手なんて初めて見た。いや、なんか昔いたような気がするけど忘れた。忘れたい。


「よかったね、おっさん」


 この子の発言もちょっと忘れたい。

 まあ、一旦置いておこう。それよりこんなとんでもない力を持つシスターが何故こんなところに?


「……ぅ」


 俺は急激に冷たくなっていく身体を抱え震えながら膝をつき、シアを見上げるとシアは薄く微笑む。


「神様に言われたの。ここに来れば面白いものがみられるって。神様のいうとおりだった」


 ヤバい奴だった。呪いをおもしろいものって言うなよ。こっちはとんでもなく呪われてるんだぞ!


「おっさんの周りを取り囲んで呪霊が踊ってる。ぷぷ。おもしろい」

「こっちは全然おもしろくねーんだけど!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る