【2025 GW特別編】とある侯爵家の執事の日記より
🐉東雲 晴加🏔️
とある侯爵家の執事の日記より①
4月26日
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本日の天気は晴れ。春のこの地方は気持ちがいい。この地に住み始めてからもう10年以上になるが、王都よりも遅く訪れる春の息吹を感じ、森が一気に芽吹くこの時期はなんとも言えぬ良さがある。
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「父上、今日は弓の使い方を教えてくれるんですよね!」
いつもはお忙しい旦那様も今日は久しぶりの休日。ライハルト坊っちゃんは今日は大分早起きされていたようです。
「おお。お前の体格に合う弓はないから、まずは弓作りから始めるか」
「弓から作るの!?」
ライハルト様の頬が紅潮して、これでもかと言う程ワクワクした顔をされています。
流石、旦那様。
公爵様が「彼は良くも悪くも永遠の長男坊だね」と仰っていたように、男児の心を掴む事に大変長けておられると私も感心しきりです。
「キーナも! キーナもやりたいぃ!」
お二人のやり取りを耳ざとく聞いていた御息女のキーナ様が旦那様の足にまとわりついて、……微妙な変化ではあるが、旦那様の眉が微かに下がったのを、私は見逃しませんでした。隠しておられるが、旦那様はキーナ様のお願いに弱いのです。
「キーナにはまだ早いよっ! 小刀も使うし、力がいるんだぞっ! 女には無理だ!」
おっと。ライハルト様がキーナ様の地雷を踏み抜いてしまわれたようです。キーナ様の目に見る見るうちに涙が溜まり、口元がわなわなと震えて息を吸い込んみ……。私が耳を押さえようと身構えた瞬間、旦那様がキーナ様を抱き上げ目を合わせられました。
「……キーナ。ライハルトが言うように弓作りは刀も使う。キーナにはまだ少し力が足らない」
旦那様の低い落ち着いた声でそう言われて、ますますその瞳に涙が溜まります。
「けれどな、女には無理だと言うのには誤りがある。今、は出来ないだけだ。ライハルトも6つの時には出来なかったしな」
旦那様の指摘にライハルト様が気まずけな顔をされ、旦那様はともすれば冷たく見えるすみれ色の切れ長の目を微かに細められました。
「……ライハルトとはずっと今日約束していたからな。キーナにももう少し大きくなったら教えてやる。お利口に見ているだけならキーナも作る所を見に来ていいが……どうする?」
キーナ様は目に溜まった涙をゴシゴシと拭き、小さく「……見る」とおっしゃいました。旦那様の口の端が、微かに上がります。
「……弓作りは無理だけどよ、昼からちょっと遠乗りでも行くか。キーナは俺と一緒の馬だ」
どうだ? と問われてキーナ様の顔がパッと輝かれて……。
「行く! キーナお利口にできる!」
キーナ様は旦那様の首にぎゅっと巻き付いて、先ほどまでの泣き顔は何処かへいってしまわれたようです。
旦那様と同じ、綺麗な赤い髪の毛がフワフワと揺れ、お嬢様の気持ちが手に取るようにわかって私も嬉しくなりました。
「ち、父上! オレも! オレも行きたい!」
少し気まずげな顔をされていたライハルト様もぴょんぴょんと飛び跳ねて主張されていおられます。
「んじゃ、午前の内に格好いい弓を作らなきゃな? お前は自分で馬に乗れるよなァ? こないだ大分上手く乗れてたもんな」
思いがけず旦那様に褒められて、ライハルト様の表情も一気に明るくなりました。
「乗れるよ! 早駆けしても大丈夫!」
そりゃ頼もしいなと旦那様が笑って、まずはメシだなーとダイニングに向かわれたので私は朝食の準備に取り掛かったのでした。
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