第43話 親の顔より見た痴話喧嘩



『なぁ、これってマジでなんなんだ?』


『わ、わかんないけど、話はちゃんと聞いた方がいいって』



 おっと、俺のテンションに引っ張られることなく、警戒心を強めたチリメンジャコの二人。

 まぁ、そりゃそうだろう。

 この二人は、精霊さんに釣られてホイホイやってきたところで、急に閉じ込められて急に試練とか言われたわけだからな。


 まずは緊張をほぐすのを目標に、この辺で彼らの冒険心をくすぐる情報の一つでも落としてやろう。



《先に説明しておこう。俺は昔、このダンジョンを隅から隅まで調査し、ほぼ全てのギミックを解明した男だ。だが、そんな俺がどうしても解けなかったギミックが、この試練ギミックになる》


『どう思う?』

『うさんくさくない?』



 まだ俺を疑っているがそのくらいは予定通り。

 ここで、俺は『精霊の使者』という手札を切る!



《結局俺は試練を攻略できずその地を去ることになった。だから、俺は俺と交流のあった『精霊さん』に、この試練攻略の夢を託したんだ。もし試練を乗り越えられそうな二人組がいたら、この試練まで案内してほしいと》



 俺の言葉に合わせて、さっきまで姿を消していた精霊さんが、再び二人の目の前にポップする。

 ふわふわ、ぴかぴか、と幻想的な雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりと二人の周りを飛び回ってみせる精霊さん。


 するとどうでしょう。



『え、精霊さん!?』

『ほ、本物、ですよね?』


『じゃあ、あのウィルって人の言っていることは……!?』

『本当なんだ……ギミックのことも、きっとこの、試練のことも……』



 あんなに俺に疑いの目を向けていた二人が、あっさりと俺の話を信じるのです。

 人類クソチョロすぎん?

 マジで、この世界のやつら精霊さんに弱すぎない?

 精霊さんの協力を得られたらどんな詐欺でも簡単に成功できそう。


 まぁ、精霊さんを利用して詐欺なんぞやろうとしても、よっぽど面白くないと乗ってくれないし、そもそも一方的に利用しようとした時点で頭パーンされるだろうけど。

 今回のこれが許されているのは、それだけ『じれ恋応援隊』が、この二人をどうにかしたいと願っているからだ。


 というわけで、精霊さんマジックが効いている間に畳み掛ける。



《今そこに精霊さんがいれば、俺の言うことは信じてもらえると思う。俺が突破できなかったその試練は『二人でなければ攻略できない』ものだ。一人でも、三人以上でもだめだ。必ず二人の、それも男女ペアでなければいけない》


『な、なるほど』

『確かに、このダンジョンを攻略している男女ペアは、ほとんどいない』


『だから精霊さんは俺たちの前に現れた?』

『辻褄は合うわよね』



 もちろん、俺が試練を突破できなかったという事実はないし、二人でなければ挑めない試練など、このダンジョンには存在していなかった。

 だが、今はある。作ったからだ。

 この二人のためだけの試練が、ここにある。



《だが、それだけなら協力者を募れば済んだ話。もう一つ、試練を突破するためには条件があるんだ》


『もう一つ……』

『それが私たちに当てはまったってことよね』



 ほうら、こうやって特別感を煽ってやれば、冒険者っていうのは途端に選ばれた自分たちみたいな雰囲気に酔ってしまう。

 気持ちいいだろう? 選ばれし者になりたいだろう?

 さぁ、その雰囲気に酔ったところで、最初の爆弾を食らうがいい。


 これが、俺が、俺たちがお前らに言ってやりたかった言葉だ!!



《その条件が【お互いに相手に好意を抱いていながら、まだカップルが成立してない若い男女】という最高に難しい条件なんだ!!!》



『はぁ!!!???』

『ちょっっっ!!?!??』



 言ってやった、言ってやったぜ。

 もうね、俺たちも最後まで我慢しようか悩んだんだけどね。

 ここで変に意識させたら、試練挑戦中の動きが鈍るかなとか思ったからね。


 でもね、我慢できなかったの。

 一週間、溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたかったの。

 じゃあもう、最初にかましちゃおっか、ってテンションで決めちゃったの。


 ──────

 そうだそうだ!

 お互いに好き合ってるのは分かり切ってんだよ!!

 いつまで喧嘩してんだ素直になりやがれ!!

 じれ恋応援隊:これが俺たちからお前らへの最初のプレゼントだ!!

 じれ恋応援隊:この先もたっぷり用意してあるからなぁ!!

 じれ恋応援隊:覚悟しろよこのカップルがぁ!!

 ──────


 精霊さんたちもイケイケノリノリである。

 いやほんと、よく我慢したよ俺たち。

 マジで辛かったもん。ラノベだったら破り捨ててたもん。


 さて、俺の口撃を食らったこの二人はというと。



『ち、違うからな!? これはきっと何かの勘違いっていうか!?』


『わ、私だってそうよ!! せ、精霊さんでも間違えることはあるってことでしょ!? 誰があんたなんか好きになるかって!!』


『はぁ!? お、こっちこそ、こんなガサツな女誰が好きになんだよ!?』


『なんですって!?』



 そりゃそうだよな。

 こんな一言でくっつくくらいなら、ここまでこじれてねーよな。

 わかってたよ。全然気にしてない。

 むしろ、これで解決してたら拍子抜けしてたところだ。


 ──────

 はい

 い つ も の

 親の顔より見た痴話喧嘩

 然り

 然り

 もっと親の痴話喧嘩見ろ

 親の痴話喧嘩たくさん見るご家庭はお辛そう

 ──────


 精霊さんもノーダメである。

 まぁ、試練はまだ始まってすらいないからな。

 今回はひとまず、クールダウンといこうじゃないか。



《とは言っても、俺は二人がその条件に当てはまっているかは分からない。精霊さんはあくまで精霊さんであり、人の心を完璧に理解しているとは言い難いからな》


『そ、そうだよ、な……』

『う、うん……』


 さっきまで喧嘩してたのに、ちょっとトーンダウンする二人。

 この『言い過ぎちゃったかも……』『あいつ、気にしてたりしないかな……』みたいな状態もいつも見る。

 ここで後悔するなら言わなきゃ良いのに、って言うのは野暮ってもんだな。

 さて、それじゃそろそろ第一の試練に行ってみようか。



《俺は二人がこの試練を突破してくれると信じて、俺が調べられた限りの試練の情報を伝えよう。まず、最初の部屋のルールを説明する。よく聞いてくれ》



 俺の言葉に、落ち込むのをやめてじっと聞く態勢に入る二人。

 こういうところの判断は、息ぴったりなんだよな。

 というわけで、最初はその息ぴったりっぷりをテストしていくことになる。



《最初の部屋は、音声認証で開く扉だ。俺が残したこの記録魔術が消えたら、モニターにお題が表示されるはず。そのお題に対する二人の回答が、三回連続で一致すれば、扉が開いて次の試練に進めるはずだ》



 とまぁ、最初はバラエティとかでよくある感じの試練だ。

 例えば『赤い果物』というお題が出されて、二人が同時に『りんご』と答えれば正解になるみたいな。

 ここで『いちご』『さくらんぼ』みたいに分かれてしまうと不正解になる。


 ぶっちゃけ、ここはチュートリアルみたいなもので、二人が力を合わせないと試練は突破できない、と理解してもらうためだけの部屋だ。

 別に不正解でもこの部屋だけペナルティはない。



《ただ、最初に言っておく。この試練は決して安全なものではない。試練に挑むというのは自分の命をかけるということ。試練に敗れればそこには死すら待っているということ。攻略済みダンジョンとはいえ、その覚悟はあるか?》



 これも提示しておかなければならない。

 いかにこの二人をくっつけるために作った試練だろうと、試練は試練だ。

 俺も精霊さんも、その点で手は抜かなかった。


 確かに遊びでやってたが、本気の遊びだ。

 最後に報酬を用意するんだから、それを手にするための掛け金は必要だ。

 ましてやここは攻略済みダンジョン。

 自分の死すら賭けられないやつに、試練に挑む資格はない。



《今一度自分に問いかけてほしい。もしその覚悟がないなら、精霊さんに頼めばどうにかしてもらえるはずだ》



 一応ね。

 一応、こっちから不意打ちで巻き込んだので、最低限の礼儀で逃げ道は提示しておかなければならないだろう。

 別に二人がやめるのなら、俺たちの一週間が無駄になるだけだ。

 慎重な冒険者であれば、撤退するという選択肢もなくはない。


 だが。



『へっ、冗談! この先にお宝が待ってるなら、挑まない冒険者はいない!』


『ちょっと、考えなしに言わないでよ。でも、私も同じ気持ちよ』



 だが、この二人は違った。

 冒険しないのなら、冒険者以外の真っ当な仕事に就けば良い。

 ここで挑まなきゃ冒険者じゃない、それは確かに、的を射た言葉なのである。


 ましてや、信頼しあう二人なのだから。



『二人で力を合わせれば!』

『越えられない試練なんてない!』


『……へへ、信じてるぜ相棒』

『……ふふ、こっちこそ相棒』



 そう言って、チリメンジャコの二人はお互い見つめあって、ちょっと照れ臭そうに笑った。


 俺は、そっとワインを含む。


 あまずっぺええええええええ!

 だれだよ勝手に砂糖混ぜたやつ! え!? 混ざってない!? これで!?

 あまずっぺえええええええぇえええええええ!


 ──────

 じれ恋応援隊:こういうのが見たかった

 この一瞬の輝きがあるから二人の視聴をやめられねえんだ

 なんで最初から最後までこうじゃないんですか?

 恋愛にはな、山と谷があったほうがいいんだよ

 山と谷が険しすぎるんですがそれは

 それは恋愛じゃなくてラブコメの理論なんよ

 ──────


 精霊さんも、二人の滅多に見れないデレに目を焼かれている。

 普段喧嘩ばかりの二人とは思えない、眩しい姿だった。

 愛は全てを救う。今だけはそんな綺麗事を信じてやりたい。



 ……ごめん、いま不意に、レイコの勇ましい姿思い出しちゃった。

 何回見てもあの切り抜き笑えるんだよ。

 あと、お一人様優遇試練ってタグつけたやつ誰だよ。ニコらせろ。



《でゅふ──では、俺は次の試練で待つ。二人がこの試練を突破し、俺が手にできなかったお宝を手にすることを願っている。健闘を祈る》



 やべ、ちょっと笑いが漏れちゃった。


 そして、俺は二人が試練を越えることを信じて、そっとその場を後にする。

 ていうか、ただ精霊さんプレゼンツの投影魔術を切っただけ。

 ここからは、この二人の息のあった攻略を眺めながら、次の試練まで優雅に飲ませてもらうだけだ。


 ──────

 なにちょっと笑ってんだよ

 いま一瞬キモオタの声入りましたけどー

 やる気あんの?

 ウィル:ちゃうねん、ちょっと二人を見てたらレイコの試練思い出しちゃって

 悲しい、試練だったね……

 もう一回! もう一回!

 愛を忘れた悲しき戦士レイコ

 やめてさしあげろ

 ──────


 精霊さんに普通に突っ込まれたが、レイコの名前を出したら許してもらえた。

 全精霊的コンテンツと化したレイコの明日はどっちだ!


 さて、俺たちがレイコの未来に希望を託したところで、配信画面の向こうでは俺が言っていたように、モニターにて試練の開始が告知される。

 この時間に、チリメンの方がドアを叩いたり押したりしていたが、当然精霊さんパワーで施錠されたドアはびくともしない。

 早々に諦めたチリメンが、肩を竦めながら言う。



『やっぱりドアは開かないみたいだ』


『仕方ない。とりあえず、やってみましょう』



 二人が、ここを通るには試練を突破するしかないとわかってくれたところで、いよいよお題が表示される。

 まぁ、ぶっちゃけチュートリアルって言った通り、長年連れ添った二人ならここは早々に突破するだろう。


 あのメニューを選ぶときの熟練夫婦みたいなコンビネーションなら難しいことは何もない。

 俺は次の試練に向けてのイメトレをしながら優雅にグラスを傾け──



 ──お題──

 デートの待ち合わせ場所に遅刻してしまった。あなたはどうする?

 ──────


『誤魔化す!』

『謝る!』


『えっ』

『は?』




「あれ、大丈夫かなこれ」


 ──────

 おい、初っ端から不穏な空気流れ出したぞ

 MK5(マジで喧嘩する五秒前)

 最初の試練は簡単なチュートリアルって聞いてたんですけど???

 じれ恋応援隊:い、言うてこれからっしょ

 し、然り

 然り

 ──────



 と、出だしから大爆発の予感を感じさせながら、二人の試練はスタートした。





 ──────

 ──────

 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 やっと試練が始まるシーンで申し訳ないのですが、もしかしたら明日(というか今日……)ちょっと更新できないかもしれません。

 なるべく頑張りますが、更新できない場合近況ノートにて報告します。

 すみませんがご了承ください。


 おかしい、ソロのレイコさんより試練に手こずりそうな気がしてならない。

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