勇者召喚から落ちこぼれ、異世界で私立探偵という何でも屋を立ち上げてみた。Ver.k

@308WIN

異世界で探偵事務所設立! 推理? 謎解き? なにそれ?

第1話 夏休みの思い出に……異世界? 1

 その女はこのトリアーノ王国、王都イオタニアに訪れた事は過去に2~3回あった。

 ただ、故あって一般臣民が居住・商いを行う城下町を歩くのは初めてだった。

 イオタニア市は大きく東西南北の四ブロックで区分けされており、それぞれが地方のちょっとした街以上の賑わいを見せる、如何にも「王都」の名に恥じない大都市を形作っていた。

 そんな賑わいのせいだろうか。その女はグレー色の地味な外套で身を包み、人目を避けるようにフードを目深にかぶっていてその表情は窺い知れないほどであったが、それに気を掛ける者はいなかった。

 

 彼女はその王都の内、北地区の表通りに面した、ある建物の前に辿り着いた。

 そこは一階は大衆向けに酒や料理を提供する食堂であったが、彼女の目的地はそこではなく、その二階であった。

 とある冒険者ギルドで渡された紙に書かれている屋号。それと、二階の窓上に掛けられていた屋号は一致している。ここに行けば、自分の要望する案件を引き受けてくれる冒険者がいると聞かされて来たのである。

 しかしその屋号の看板。彼女はそれに使われている文字を寡聞にして見聞した事が無かった。いや、これが文字なのか記号なのか? 彼女はその辺りの判断すら出来ていなかった。

 

 一階の正面入り口は食堂用だ。その横には案内表示板が貼られていた。そこには例の奇妙な文字の屋号と矢印で入り口を案内している。

 女は懐から小瓶を取り出して足元付近の地面に中の液体をパッパッと振り撒いた後、案内に従って建物横の通路に入った。

 一番奥まで進むとやがて裏口らしき扉が見えてきた。開けると正面に階段、右にもう一つ扉が有り、その扉の先はどうやら食堂の厨房らしい。料理人が鍋だかフライパンだかをコンロ上で動かしている音がする。

 目的地は正面の階段を昇ったところにあるはず。

 女は周りの造りを落ち着かない目で見回しながら階段をゆっくり昇り始めた。 



「冒険者ギルドじゃ……ない?」


 目的の事務所を訪れた恐らくは20歳前後の女性。グレーな外套のフードを外すと、ピシッとそそり立つ見事な狐耳が現れた。

 そのケモ娘は眉間に、どことなく愛らしさも感じ、尚且つ「?」マークが湧いて出て来そうなビミョ~な縦ジワを寄せてきた。

 斯様に眉を顰めたまま、事務所内をグルっと一瞥したところで、


「ええ。ご覧の通り、ギルドじゃ定番の受付もリクエストボードも、サロンも有りませんでしょ?」

と一番奥の机に座っている、中年に入り込んで久しそうな男に説明される狐っ子。


 その中年男が言う通り、いわゆる一般的な冒険者ギルドに比べるとこの部屋は随分と狭く、ギルド長クラスの執務室程度――三十平米くらいかそれ以下の広さしかない。今まで耳にしていたギルドの様相とは随分と違っている。


「で、でも、王都の冒険者ギルド『ジャック・ヴァイス』の方が、ここは『当ギルドの下部組織』だと!」

「あ? なによ下部組織って。そんな言い方したん? 大体が、あたしたちのギルドへの入会にダメ出ししたの連中じゃないのよぉ~」


 対して、中年男が座る机の前にレイアウトされた応接用の長椅子に座って一緒に依頼内容を聞いていた、年齢的にそろそろ少女のエリアを卒業しそうな女性が不機嫌丸出しで零した。


「え? と言う事は、皆さんは冒険者ですら無いと?」

「まあ、そういう事になるんだよなァ?」


 狐っ子の問いに、年齢的にそろそろ少女のエリアを卒業しそうな女性の隣に座っている男、あずま 光一こういち(18歳)が、斜め右上に目線をくれながら答えた。


「ど、どういうことですか!? 私はジャック・ヴァイスの方に、こちらの事を聞いて依頼のお願いを!」


 話が違う! と、ばかりに、椅子から身を乗り出して中年男に詰め寄って来る狐っ子。焦燥感がどんどん昂って来ている御様子。

 そんな彼女の気を削ぐように、


「どうぞ……」


目の前にお茶を差し出す物静かな雰囲気の少女が。


「あ、ど、どうも……」


 狙い通り、かどうかは不明なるも、虚を突かれて思わず頭を下げる狐っ子。そんなケモ娘に動じるそぶりも無く、一礼して下がる少女。この中では一番若く、一番小柄である。

この事務所内のギルドメンバー――と言うか職員(?)はどうやらこの4人だけの様であった。


「所長。お客様には……我々の、立ち位置、等……より詳しい説明が、必要かと?」


 小柄な少女は所作と同様に、物静かながら些かノンビリ過ぎる口調で所長と呼んだ中年男に促した。


「そ、そうだね真鈴まりんちゃん」


 少女――かつら 真鈴まりん(17歳)の助言に気を取り直す所長。

 だが狐っ子はその説明を待たずに続けた。


「私は冒険者の方に依頼をお願いしたく伺ったのですが……故あってギルドでは受けられないと言われて、代わりにエルフ族の事務員さんに、こちらをご紹介いただいて!」

「エルフの事務員……シオンさんかな?」


 光一の推測に、


「仕事、回してくれたって事~?」


年齢的にそろそろ少女のエリアを卒業しそうな女性――北川きたがわ由美ゆみ(18歳)が反応。


「まあ、あの人には親身になって相談、乗って貰えたもんねぇ。ここで開業できたのも彼女の口利き、有ったからだしぃ~」

「あの……一体、何がどうなっているんでしょうか? こちらでは私の、私の依頼は受けて頂けないのですか? それならどこに行けば受けて頂けるんでしょうか? ギルドにも断られ、ここでもダメなんて事になったら私……」

「ままま、お嬢さん落ち着いて」

「私はヘレナ・エウロパと申します!」

「あ、はい。ではヘレナさん。え~、どうやらお互いの認識に少々齟齬が有るようですが、そこはまあ安心してください。我が事務所は、お客様のご要望には出来る限りお応えできるように所員一同、真摯に対応させて頂きますので!」


 揉み手と”これでもか”てな愛想笑い全開。所長は眼尻を下げるだけ下げたビジネス・スマイルを浮かべながら、ヘレナと名乗る狐っ子に説明を始めた。


「先程申しましたように、当『アーリウム探偵事務所』は正式ギルドとしては登録されていませんもんで」

「タ、タンテイ?」


 話が見えてこない。その上聞き慣れない"タンテイ"などと言う職種ジョブ名まで飛び出して来て、相も変わらずヘレナの眉は曲がったままだった。ホームポジションに戻るいとまも無い。


「それって……もしや、闇ギルドとか、反社組織ファミリーのような? さすがに、そう言うところとはちょっと……」

「いえいえ、もちろん私らは全員カタギの一般市民ですよ。諸般の事情で冒険者としての登録もギルドの設立も認められませんもので、こういう体裁を取っておりまして」

「た、確かに。タンテイ……と言う職種名も初めて耳にいたしましたわ。でも、それならなぜ冒険者ギルドに入れなかったのです?」

「いや、実はですねぇ。所長のわたくしヘイゾウ平蔵ゴトー後藤を含む、ここの所員は全員……」

「この世界の人間じゃないのよね~」

「はい?」


 由美の割り込みに、ヘレナは目を丸くした。


 ――この世界の人間じゃ、な い ?


 冒険者ギルドじゃない、に続いて今度は、この世界の人間じゃない、と来た。

 予想外の事情・情報が交錯し、眉毛も眼玉も忙しく動かしまくるヘレナが何とか隣に目を移すと、腕を組んだままの光一が口を真一文字に結んで「うんうん」と頷いていた。


         ♦


 ここで時は、ちょほぉいと遡る。場所は光一たちの住む、とある地方都市だ。

 光一は現在高校三年生。その日は高校生活最後の夏休みの最終日であった。

 光一は夏休みの打ち上げとばかりに同級生たちと連れ立っての映画鑑賞を皆で計画。そのあと食事会で締めくくろうと、巨大なシネコンのある隣県の繁華街に向かう電車に乗り込んでいた。

 平日の午後でもあり、電車内は空いていた。おかげで光一ら8人はみな座る事が出来た。他にも光一や由美らのように夏休み最終日を楽しもうとする中高生と思しき連中も見られる。


 目的の駅に近付くにつれ、商用の勤め人や御隠居さんと言うにはまだ早そうな初老の人たちも順次乗り込んで来て、降車する駅の手前である現在、この車両に乗っている乗客は40人ほどになっていた。


 その内の、他の高校生グループから光一らと同じく映画を観に行くような、そんな話題の会話が聞こえてきた。


「あたしたち以外にも、他県よそまで行って映画観ようってのが居るとはね~」

「目当ての映画館も同じだったりして。あそこは昔から最新設備に拘ってるから、画も音も、座席でも最高なんだよな!」


 由美の呟きに光一が反応した。常に最先端の設備を導入するその隣県の映画館を強く勧めたのは光一本人であった。


「東みたいに音だの画質だのに拘る奴が、他校にもいるって事かしらね~?」

「地元のシネコンでもいいと思うんだけどな。電車賃だって馬鹿にならないしよぉ」


 ちょいとボヤキ気味に言う、同じく同級生の松山隆司たかし


「そこは同意~。東ぁ、会食ン時にみんなに何か奢りなよ~。あんたの希望、聞いたんだしさ~」


 由美もチャチャを入れてきた。


「いや、ただ俺は! みんなが最高の仕様で映画楽しんでもらうためにだな!」

「だから~、あんたが一番こだわってんだってば~」

「東のオタ魂炸裂ってとこか? そう言うの話し出すと、目が生き生きしてやがるからなコイツ」

 と、同じく山田すぐる。ニヤニヤと笑みを浮かべながら。

 確かに光一は動画や音楽等、画質・音質にはこだわる方だと自分でも思っている。幼少の頃に、親に連れて行かれた劇場の設備が当時最新鋭と言う事で、その迫力に圧倒された記憶が影響しているのだろう。

 しかし、AVオーディオ・ビジュアルマニアでもない限り、光一レベルまでこだわる観客は少数派ではある。


「言われ放題だな! でも、どうせなら少しでも良い環境で楽しみたいのが人情ってもんだろう?」

「だから、あんたはこだわり過ぎだって」


 吉田仁美《ひとみ》も参戦。捉え方は由美に近そうだ。


「ね~。みんな言ってるでしょぉ? んじゃドリンクバー、東の奢りな? ほれほれ~?」

「おいー!」

「まあ、いいじゃない。高校の最後の夏休みだし。それに予約取ったステーキハウスも、すごく評判良いんでしょ? そこの割引クーポンとか、そう言う情報も東くんが教えてくれたんだしさ。いい思い出になるかもよ?」


 安藤和沙かずさ。数少ない擁護派か?


「部活も引退だし、受験までの束の間の息抜きって事でね」

「部活と言えば由美。県大会、惜しかったね。もうちょっとで全国行けたのに」

「全国って言っても高校で射撃部なんて少数だからね~」

「でも部でNO.2でしょ? 謙遜すること無いじゃん」

「大学行ってもやるんか?」


 光一も混ざってみた。自分の趣味、アニメやコミック、ゲーム等でも銃は馴染みである。


「そのつもりだよ~」


 ニッコリしながら答える由美。全国大会こそ届かなかったものの、それを狙えるくらいの結果を出せた事には彼女自身、満足していたようだ。


「そういや由美ってば、射撃始めてから気が長くなったよね?」

「自分の短気なところ、治すためにってのも始めた理由だしね~」

「おまえBRビームライフルだったよな? ARエアライフルSBスモールボアとか、やんないのか?」

「もちろん興味あるけどぉ~。てかあんたそっちの知識も有んの~?」

「ゲームとかコミックとかでね。気に掛かったものはネットでググって」

「ホント、オタって知識だけは豊富だもんね~」

「オタオタ言うなよな! そりゃ趣味がアニメや異世界ファンタジーラノベに偏っちゃいるけど、他人ひとよりちょっと深いだけだし! 知識はその時のついでだし!」

「それを世間一般ではオタっつーんだよ。お、もうすぐ着くな?」


 最後に田中ひとしが纏めると、光一らも窓の外をチラ見した。電車は下り勾配に入り、街の風景が段々と視界の上にあがっていった。 


 目的の街の駅は地下駅であった。

 トンネルに侵入宜しく地下路線に入り、やがて減速が始まると同時に乗客たちは降りる準備をし始める。

 光一たちも「そろそろだな」と声を掛け合った。しかし……


 ――ん?


 今日は何か雰囲気が違った。即座に感じたその違和感に急かされるように、光一は窓から車外に目を向けた。


 ――あれ?


 車内はいつも通りの照明具合なのだが、車外――構内は何故か通常より暗い、と言うか真っ暗なのだ。

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