第34話 炎の神アハウ



「君たちの邪魔にならないよう隠れていたんだが、そんなことがあったなんて……ヤンくんは……動けそうにないね。」


 魔人ジャンが去ってから数分間が経ち、コナーたちの元へジル王子たちが合流していた。

「すみませんジル王子……ご迷惑をおかけして。」


「何を言っているんだ。今回、私たちが生き残れたのは間違いなく君のお陰だ。謝らなくてはならないのは私の方だ。君が、夜一人で獣人の長が使っていた技を特訓していたのは知っていたが、ここまで大きな代償を払う技とは知らなかった。君にその技を使わせたことを私は後悔している、本当に申し訳ない。」


「そんな、頭をあげてください!ジル王子が来てくれなかったら、俺たちだけじゃクロエさんとシルヴィさんを守ることができなかったんですから……お互いダメダメですね。」


 ジル王子はヤンと共にクスリと笑うと、真剣な表情でコナーへと顔を向けた。

「コナーくん、すまないが、ここから先は君一人で行ってくれ。私とクロエくん、シルヴィさんはヤンくんの体の回復に専念しなくてはならない。リザードマンが殺された今、アハウ様までの道に障害はない。頼んだよ。」


 コナーはジル王子の頼みを了承しリザードマンの森をぬけた。森を抜けると目的地の山が目の前に現れ、山の麓には小さな洞窟が存在していた。

「うるっさいのう……人の眠りを妨げおって……死ぬ覚悟はできて……っん?貴様の体からはチャクの気配がする。貴様何者だ?」


 洞窟から出てきた声の主はまるで猫の獣人のような姿をしていた。だが、その威圧感は相対しただけで膝まつきたくなるほど凄まじく、人目で炎の神アハウであることがわかった。

「俺の名前はコナー・エイベル。父 アラン・エイベルと母 ネリー・エイベルの息子で海洋調査ギルドに所属しています!」


 コナーは緊張のあまり、どういう意味の質問か考えることができず、ただの自己紹介をしてしまった。

「そんなことを聞いてるんじゃ……はぁ……その様子じゃ満足に話をするのも難しそうだな。着いてこい、洞窟の中で座って話そう。」


 コナーは言われた通り炎の神アハウと洞窟に入り岩肌にしりをつけた。

「どうだ?少しは落ち着いたか?」


「はい……お気遣いありがとうございます。」


「では、もう一度質問するぞ。何故貴様の体からチャクの気配を感じる。」

 

 洞窟の中に座ってから三分程が経過し炎の神アハウは再び質問を開始した。コナーは今までの経緯と雷の神チャクの気配を感じる理由を説明した。

「だいたいはわかった。だが光の神ルミエルとは何者だ?俺はそんなやつ見たことも聞いたこともねぇぞ。」


「そんなはずは……」


 人魚の国で女王に聞いた七柱の神の伝説。光の神の眷属エクレレ。人間の信仰の対象であること。その全てが光の神ルミナスの存在を示しているはずなのに炎の神アハウはその存在を知らなかった。

「まぁ、お前のやろうとしていることは理解できるから協力はしてやる。それにチャクの魔力は俺の体に合わなくてな、たまに無性に暴れたくなるんだ。恐らく他の神もそうだろうさ。それはそうと、ほらよ、これを飲み込めばチャクの魔力が手に入るぜ。」


 炎の神アハウは自分の体の肉をむしり取るとコナーに手渡した。

「火は通してあるから安心して食いな。」


 そう言った炎の神アハウの体は既に再生を終えており、まるで何もなかったような風貌をしていた。

 (これを食べる……ヤンが命懸けで戦ってくれたんだ、俺もこれくらい……)


 コナーは手渡された程よく焼けたアハウの肉を噛まずに飲み込んだ。

「あ……ああああああああぁぁぁ」


 コナーが肉を飲み込むと、額に激しい激痛を感じ、痛みが引く頃には額に小さなこぶのようなものができていた。

「小さいがチャクと同じだな。」


「これは……いったい……。」


「なんだ、聞いてないのか?お前がチャクの魔力を取り込むということは、お前自身がチャクになるということだ。チャクの魔力を取り込むことで肉体にはチャクの特徴が現れ、最後にはお前の自我はなくなり新たな体でチャクが蘇る。」


 コナーは衝撃の事実に激しく動揺した。恐らくエクレレは断られると思い、わざとコナーに隠していたのだろう。コナーは必死に冷静になり自身の責務と最後を想像し、それでも前に進むことを選んだ。


「……驚いた。泣きわめいて投げ捨てるかと思ったけど、君は勇敢だな。そうだな……。」


 炎の神アハウは洞窟の中に転がっていた石を拾いあげ、その石にありったけの魔力を込めた。

「君の旅の成功を祈って、この石を授ける。」


「これは?」


「その石はサラマンダーの石。まぁ卵と言ってもいいね。その卵から産まれる子は神の眷属としての素質を持って産まれてくる。君の育て方によって君を守る盾にも君を襲う獣にもなりうる。大事に育てなさい。」


 コナーはサラマンダーの卵を受け取った。サラマンダーの卵は先程までただの石だったというのに、心臓の鼓動を感じ、驚くほど暖かかった。

「ありがとうございます!きっと魔物たちを一掃してみせます!」


 コナーは、炎の神アハウの洞窟を離れ、ジル王子たちと合流すべく、リザードマンの住んでいた森へと再び入っていった。

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