第14話

身体を包む疲労を振り払うように、俺はひたすら泳ぎ続けた。

狩りは順調だったが、心の奥には焦りがあった。


進化条件はまだ三〇パーセントを少し超えた程度。

レベルもようやく九。

このペースでは、もっと強い敵と戦わなきゃいけないのは目に見えている。


(今の俺でも勝てる相手……それでいて、うま味があるやつ)


そんな都合のいい獲物が、この海に転がっているとは思わない。

それでも探さなきゃいけない。

俺が上へ行くためには、弱者を狩るだけじゃ足りない。


感知スキルを全開にして周囲を探る。


遠くに、微かだが強い気配を感じた。

殺気はないが、ずっしりとした存在感。


(あれは……間違いなく、強い)


慎重に近づく。

海流に乗って移動しながら、気配を感じ取る。


やがて、見えた。


大きな影。

鋭いヒレ。

獰猛な牙。


【シャークフィンリザード】

【レベル:10】

【特徴:俊敏、高攻撃力】


(リザード……サメとトカゲの合いの子みたいなやつか)


見た目はサメに近いが、四肢があり、岩場を這うこともできる厄介な相手だ。

水中でも陸上でも対応できる万能型。


しかも、レベルは俺より一つ上。


普通なら戦わない。

逃げる。


だが、俺は拳を握った。


(やるしかねぇ)


ここを越えなきゃ、進化なんて夢のまた夢だ。

弱者狩りばかりじゃ、先へは行けない。


牙を食いしばり、全身に力を込めた。


水圧噴射、水中遊泳、硬鱗化、感知。

持てるすべてのスキルを駆使して、こいつを倒す。


作戦はシンプルだ。

スピード勝負に持ち込む。

真正面からの力比べじゃ負ける。

だから、攪乱して、急所を突き続ける。


俺はそっと水を蹴った。

気づかれないように距離を詰める。


シャークフィンリザードが大きく尻尾を振り、海底の砂を巻き上げた。

動きは速い。

一度でも見失ったら、即座に逆襲されるだろう。


(でも、俺には感知がある)


奴の気配は逃さない。

たとえ視界が遮られても、殺気の動きを読んで避けることができる。


シャークフィンリザードがこちらに気づいた。


目が合った。


次の瞬間、信じられない速さで突っ込んできた。


(速い!)


だが、読み切っていた。


俺は反射的に横に飛び、水圧噴射を放った。

勢いを殺しきれなかったリザードは、海底に激突した。


その隙を見逃さない。


俺は一気に間合いを詰め、首元に噛みついた。


硬い鱗。

だが、硬鱗化で強化した牙は、それを貫いた。


「ぎぎぎゃっ!」


シャークフィンリザードが激しく暴れる。

鋭い爪が俺の体をかすめたが、硬鱗化のおかげで浅い傷で済んだ。


ここで離れたら、逆に食われる。


俺は食らいついたまま、全力で牙を食い込ませた。


ズズンと震えるリザードの体。


それでも、まだ抵抗する。


(まだだ……まだだ……!)


俺はさらに力を込めた。

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