第6話

柔らかい肉が口いっぱいに広がる。

小魚の小さな身体は抵抗もできず、あっけなく喉を通った。

食べ終えた直後、身体の内側からじわりと温かさが満ちてきた。


【経験値を獲得しました】


この感覚、悪くない。

生きるために食べ、食べることで強くなる。

理屈は単純だが、俺にとっては、何よりもわかりやすい指針だった。


ふと、気配を感じて身を翻す。

視界の端に、別のサハギンが映った。


俺と同じくらいの大きさだが、少しだけ筋肉質で、鋭い牙をむき出しにしている。


(……同族、か?)


だが、安心できる相手じゃない。

こっちを見据えるその目には、敵意しかない。


(縄張り争い……か)


海の中では、弱肉強食がすべてだ。

同族だろうと関係ない。

弱ければ追い出され、奪われ、殺される。


一瞬で、戦うしかないと悟った。


俺は身構えた。

相手もまた、低く体勢を落とし、こちらに向かってくる。


距離は五メートル。

水中遊泳スキルを使えば、先手を取れるかもしれない。


だが、下手に突っ込めば、逆に返り討ちにされるリスクもある。

俺は脳内で瞬時に計算し、最適な行動を選んだ。


(カウンターだ──!)


相手が突っ込んでくるタイミングを見極め、一気にかわして、逆に喉元を狙う。


手に汗ならぬ、鰭に緊張が滲む。

一瞬の読み合いだ。


サハギンが、鋭い爪を振り上げて突っ込んできた。


今だ!


俺は身をひねって水をかき、横に逸れた。

相手の爪が、俺の肩をかすめる。


痛みが走るが、耐える。

そして、すれ違いざまに、喉元目掛けて牙を突き立てた。


「ぎぎゃっ!」


サハギンの悲鳴が響く。

牙は深々と喉に食い込み、血の味が口に広がった。


そのまま、力任せに首を振り、引き裂く。


バタバタと暴れるサハギン。

だが、抵抗は長く続かなかった。

やがて動きを止め、力なく沈んでいく。


【経験値を獲得しました】

【レベルが4に上昇しました】


ウィンドウが浮かび、身体の芯から熱が溢れた。


(勝った……俺が勝った!)


勝利の実感が、全身にみなぎる。

同族を倒すという事実には、ほんのわずかな罪悪感もあった。

けれど、それ以上に、俺は生き延びたことを誇りに思った。


これが、この世界だ。

勝った者だけが、次に進める。


(もっと強くならなきゃ……)


俺は、死んだサハギンの身体をじっと見つめた。

もし俺が負けていたら、今頃、逆の立場だっただろう。


勝ち続けなきゃ、意味がない。

生き延びるために、俺は成長し続けなきゃいけないんだ。


あらためてステータスを開く。


【種族:サハギン(幼生)】

【レベル:4】

【HP:18/18】

【MP:3/3】

【筋力:6】

【敏捷:8】

【知力:2】

【耐久:5】

【スキル:水中遊泳(初級)、噛みつき(初級)】


(新しいスキル──噛みつき……!)


今の戦闘で身についたスキルだ。

水中での攻撃手段が増えたのは大きい。


スキル説明を読む。


【噛みつき(初級):対象に牙を突き立て、物理ダメージを与える。力加減により追加効果:裂傷を付与】


(裂傷……継続ダメージ、か。使える!)


これで、まともな戦闘ができるようになった。

逃げるだけじゃない。

戦って、狩って、力を積み重ねることができる。

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