第1話
86xx年、夏。
科学者である私こと『志月 明(しづき あかり)』は大いなる発明をした。
そして、これは後に人類の文化に大きな影響を及ぼすものとなる。
今、世界では食糧不足が問題されており、その解決策として様々な装置の開発が進められている。
しかし、夢のような装置というだけあってなかなかに研究は進まなかった。
なにしろ毎回欠点が大きすぎる。
あるものは、有毒ガスの発生。
あるものは、材料の大量使用。
どれも実用化はあり得ないと言っても良いほどであった。
頭を抱える科学者たち。
発明してはボツ、発明してはボツの繰り返しであった。
「植物を短期間で大量生産できて、環境への影響が少ないものを作れって…流石に難しすぎでしょ…」
そんな中私は、欠点が小さく、効果が見込める装置の開発に成功した。
私はすぐにそれを学会で発表し、実用化まで持っていくことに成功した。
「よろしくお願いします!」
私は、たった一つとはいえ大きなことを成し遂げた。
「こんな…私でも…」
努力が実った。
頑張ってよかった。
そのような言葉だけが頭に浮かぶ。
「明日からもまた頑張ろ!」
明日のニュースが楽しみだと思いながら私はこの夜、静かに眠りについた。
しかし、その喜びもすぐに消えることになる。
契約した会社が、自分たちの発明だと言い出したのだ。
「は…?」
目を疑った。ただの見間違いだったと信じたかった。
けれど、どうしても、現実は違った。
学会で私の発表を見たものは皆、あの会社に買収されていて、私の言うことなど誰も聞いてはくれなかった。
「どうしてっ!どうしてっ!どうしてっっ!!」
あまりにもショックだった。
私が作った発明で、こんな私でも誰かの役に立てたんだと思える…私の努力の結晶なのに…
だから私は諦めず、様々な場所に訴えた。
あれは私の発明です。と
けれど、現実はそう甘く無かった。
私はホラ吹きだと周りからバカにされ、世間から、社会から実質的に追い出されてしまった。
「なぜ私が、こんな目に遭わなければいけないのだろう」
私は考えた。
今まで皆のために、人類のために、世界のために使ってきた脳を最大限に生かし考えた。
しかし、答えを見つけることはできなかった。
「なんで…どうして…私はこんなに努力をして、頑張って死ぬ気で取り組んで…」
目からは涙がこぼれ、力も入らず夜の森の中で座り込んでしまった。
ふと空を見上げる。
木々の葉に邪魔をされて、空に輝く星を見ることができなかった。
私は急に不安になった。
これから行くあてもなく、何をすればいいのかすら全くわからない。
「あぁ…」
私はもう何も打ち込むことができないのだと思う。
努力を否定されたくないから、希望を持つことが怖くなったから、もう人を信頼できないから。
「もういいや」
今死ねば楽になる。
もう辛いのは嫌だ。
そんな考えが頭の中をぐるぐる回る。
「あっ」
そんな時ふと、一つの考えが浮かんだ。
「時代が悪かったんだ」
今の、この状況だからあの会社は裏切ったんだ。
「そうだ、きっとそうに違いない」
だったらそんなことが必要のない世界に行けばいい。
「コールドスリープをしようか」
そんな考えを巡らせてみたがやはり、何にもやる気を起こせなかった。
もう何もしたくない。
何もかもが否定されるのであれば。
でももし、その先が私の居場所になることができるのであれば…
そんな考え方を叩き潰しやってやろうと思った。
結局何も変わらないそれで終了だった。
はず、だった。
未だ未来への希望を捨てきれずまた、研究を始めた。
しかし、その研究は人のためではなく自分のために。
それから1ヶ月だろうか?
装置とその発電機を完成させた。
天候を使い、効率よく発電するので設定した時間までしっかりと送ってもらえる。
「我ながらにいい出来栄えだ」
自分は頑張ればもっとできるんだと、今更ながら気づいた。
けれど、この時代は私のことを欲していない。
「ここまで未来ならきっと、誰もが優しく分かり合えているだろう」
私は装置に入り、静かに眠りについた。
「おやすみ世界、お疲れ明」
外には真っ白な部屋、部屋の花壇には彼岸花がよく咲いているのが見えた。
少し寂しく、もう少しだけ自然を見てきてもよかったなと思った。
そんなことを考えて、視界は真っ黒に染まっていった。
静かで淡い期待を、決して叶うことのない希望を、わずかながら胸に秘めて。
モニターにはこう表示されていた。
100xx年。
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