第18話 また勝負

「では、これより模擬戦を開始します。魔法、スキル使用可、一本勝負でございます。互い、騎士道を重んじることを誓っていただきます。」

「ソチエス・デカマラス。騎士道に誓います」

「カフェラ・エチエチル。騎士道に誓いますわ」


 互いの実力を見るため、俺と王子は、一か月ぶりの模擬戦を行うため、演習場でお互いに立ち会っていた。

……正直、今回の模擬戦は断ろうとしたがゲス王子は、相変わらず自信満々に俺との模擬戦を快諾したのだが一か月前とは色々変わっているうえ、師匠の手前、俺は手を抜くことができなかった。


「はじめ!」

「シー……」


ゲス王子が剣聖の盾系スキルを起動しようとした瞬間、すでに勝負は決まっていた。


「精霊の気まぐれ! メーン、ドウ!」

「ぐあわわあ!」

「ありがとうございました」


カトレアと開発した戦闘向きの新精霊魔法、精霊の気まぐれ、一瞬の制限になるが、非情に強烈なデバフ……体が動か無くなる、もしくは強烈な吐き気、めまいなどをランダムに起こす魔法。

その一瞬の隙で俺は、肉体改造の固有スキルで、足を強化し、王子が怯んでいる間に、俺の剣は、王子に二発入れ勝負はついていたのだが……。


「エクスリジェクトぉぉ……! まだ終わってない……です」

「あら戦場なら、死んで……」

「……カフェラ、エクスリジェクトは、剣聖の派生固有スキル、他の剣聖スキルを1つにつき24時間封印することで、死からの蘇生はできます。ちなみに剣聖スキルは派生するとたくさんのスキルがありまして、私の場合鍛えた結果100の派生スキルが……つまり試合再開でありますのう。ほほほ」


剣聖クラスのスキル、ずるくない? いやこのクラスに選ばれると、どんなものでも国賓級の扱いを受けるクラスだから、それくらいチートなのは分かるけど……。


「エクス……」

「簡易版精霊魔法、ミラーワールド。メーン、こてえぇぇ!」

「まだです! エクスリジェクト……」


コイツゲスの癖にまだやるのかよ……ちくしょう、これじゃ、眼鏡の男の子がネコ型ロボットを安心させるためにガキ大将と喧嘩した時みたいじゃないか。

俺、ジャイアンじゃないのに。

ミラーワールドの簡易魔法で二人になった俺で倒しても王子は起き上がる。


「エクスリジェクトおぉぉぉぉ!」

「ゲス王子、もう諦めては……」

「あきらめません! 僕だって、あなたに出会ってから、負けっぱなし! こんなに悔しいのは人生で初めてなんです。だから、ずっと寝る間も惜しんで修行と公務の日々……絶対に努力だけは、カフェラにだって負けないんだあぁぁぁ!」


あー、もう。

コイツ、本気かよ……少年漫画みたいな展開?



ナイナイ。



奇跡や、圧倒的戦力差を覆るほどの力や姫たるものなどこの世界には存在しない。

格闘技や戦いは、極めれば、数学だ。

努力、実力、才能、全てを効率的に調整し、本番でフルパフォーマンスを絶対に引き出すように調整する育成ゲーム。


王子は頑張りすぎだった。頑張りすぎて必要な時に疲労からフルパフォーマンスを発揮できていない。勝ちを確信した俺は、目くばせでアーサーさんに全力の許可を貰った。



一撃で全部吹き飛ばそう。



「精霊魔法! ミラーワールド! 鏡渡り! 精霊の気まぐれ! 使役スキル派生フルリモート! 肉体改造! 興奮派生スキル……クイーンアドレナ」

「な!」

「魔法スキル複合技『シンボル』」


今、使える俺の全力、神聖魔法以外のすべてを使ったありったけの魔法とスキル。

鏡の分身を千人単位で生成し、鏡渡りで三次元稼働を可能、全員の分身が精霊の気まぐれで、ゲス王子の思考を奪い、肉体改造で強化された分身は、完全な自立思考と操作が可能なフルリモートで、大量操作によるバグを修正し、クイーンアドレナで、全ての情報や感覚が俺に共有される。

全ての工程を一つにまとめた魔法スキル複合技試作1号『シンボル』


ゲス王子のスキルは、瞬く間に封印され続け、最後には、全てのスキル魔法を封印した王子が立っていた。


「ゲス王子、本当に死にますよ」

「しんでも……かちます……」

「全く……死んだら勝てませんのに……」


ゲス王子は、俺に近づくと、ボロボロになった体で俺に倒れこみそのまま意識を失った。

うーんやり過ぎた。しかし、全力相手に全力を出さないのは失礼。


「本当に意地の悪いお人ですわ……アーサーさん。私の負けですわ」

「かしこまりました。勝者、ソチエス王子」


つい俺は、笑ってしまった。

科と言え俺もオタクの端くれとして、努力の報われない物語より報われる物語が好きなんだから。どうしてか俺は、王子を応援したくなっていたので敗北を宣言した。

ああ気持ちい負け方だな。

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