転移したら温泉だった件

翆雨 ユイカ

第1話 「いやもう‼無理無理‼こんなの現実じゃねえ――――――‼‼‼」

 「おい…………………。」


 ある一人の男性が温泉につかり絶望している。


 「この人がヤクモさんっス?」


 通称「けもみみ」と呼ばれる狐の耳と人間の耳を持つ金髪の女性。

 尻尾らしきものも後ろに見える


 「ぶち不健康でひょろっとした男じゃのぉすごく不健康でひょろっとした男だな。」


 中国地方のどこかの方言だったか。

 そんな方言が目立つ赤髪に筋肉ムキムキで耳が明らかに人間と違う大きい図体の男性。


 「ヤクモを読んだはずでしたが…………。違いましたね。」


 あたり周辺が蛍のようにキラキラ光る白髪の女性。

 ヤクモって俺の爺ちゃんか?


 「そうなんスか。」

 「ええ。ヒョロヒョロですし、それに小さいです。「何が」とは言いませんが。」


 失礼な確かに爺ちゃんはデカいけど。


 ちなみに俺は風呂に入っていたのでスッポンポンだ。


 「まあ…………見るなぁやめちゃってくれ見るのはやめてやってくれ同じ男としちゃ恥ずかしい同じ男として恥ずかしい。」


 「少し待ってくれ。なぜ俺はここにいる?ここはどこだ?お前らの格好はコスプレかなんかか?」


 動くけもみみ、明らかに人間と違う耳、あたりを飛び交う蛍のような明かり。

 そんなものを俺は聞いたことがない。


 なぜ俺はここにいるだろうか。

 さっきまで何をしていた……………?

 俺は誰だ…………?

 俺の爺さんとは誰の事だ………?


 「ヤクモの世界……。彼は現実界と言いましたね。私たちからしたら異世界ですが。とにかく、あなたには我が宿泊施設、湯ノ瀬ゆのせ温泉の経営者となっていただきたいのです。」


 「湯ノ瀬………温泉⁉」


 思い出した。

 俺の名前は湯ノ瀬わたる

 そして俺が驚いている理由としては温泉の名前が名字と一緒だからではない。

 俺の職はだ。


 先ほど言った通りここは俺から見て異世界なのだろう。

 ならここは2号店か?いや、それとも1号店だろうか。


 俺はここに来る前は風呂に入っていた。

 俺は一人で湯ノ瀬温泉を回していた。

 湯を沸かし、客の対応をして生活する。


 祖父から受け継いだ家であり、店である湯ノ瀬温泉を継いで生活している。

 なので風呂はいつも営業が終わった1時に店を閉め、一人で広い風呂に浸かる。


 いつもどうり営業を終え、風呂に浸かっていた所だ。

 突然あたりが光だし、光が消えたと思うとそこは木の中に出来ているかのような場所にある湯舟の中にいた。


 「ところであなたに質問ですが、ユノセヤクモをご存じですか?」

 「湯ノ瀬八雲やくも。」


 まさに俺の爺ちゃんの名前だ。


 「知らないなら良いのですが。」


 すごいがっかりされているのが初対面でもわかる。


 「俺の爺ちゃんです‼湯ノ瀬八雲の孫、湯ノ瀬渉です‼」


 「ユノセワタル……………。」

 「というかここ、本当に湯ノ瀬温泉ですか?俺、その現実世界?で湯ノ瀬温泉を経営してました‼」


 さすがに爺ちゃんの名前が出てきた湯ノ瀬温泉。

 爺ちゃんが過去にここで何をしたか知らないが、こんな異世界温泉‼面白そうじゃないか‼‼


 「………その声のトーン的に乗り気という事ですか?」

 「はい‼」


 実際現実世界の方はめちゃくちゃ気になっている。

 だが、それはそれ!これはこれ!何とかなる‼‼


 「わかりました。経営者と言いましたが、ゆくゆくは支配人、マネージャーも兼ねてほしいと思っております。」

 「………………………え?」


 え?いま、この蛍さん(仮)なんて言った?今から仕事を初めて、慣れてこれば支配人、マネージャーも務めろと?



 説明します。

 支配人、マネージャーは旅館の最高責任者です。


 1つ目 業務改善。

 この仕事は業務のオペレーション目標を改善、効率化する事が仕事の一つである。

 たとえ不測の事態が起きたとしても、変わらずおもてなしサービスをお届けできるようにするのも仕事である。


 2つ目 従業員の管理。

 従業員の育成、管理するという役割が与えられています。

 旅館の幹部と共に従業員の育成をし、人材の適正も見分け、最適な配置、採用活動をすることがある。


 などなど。


 「いやいや、ゆくゆくってどのぐらいの範囲ぐらいですかね……?」

 「それは姐さんねえさんが決めるっス‼」


 ねえさん。

 こことここ兄弟なの⁉

 なんか似てない………。


 「…ちなみにいうけど兄弟ではないわ。血もつながっていない。」


 じゃあ、親しみを込めて、〝姐さん〟なのかな?

 …………………。

 じゃなくて‼


 「なんで3つの役割をやることになってるのか説明を‼」


 「そりゃあなそれはなここ3人で仕事を回しとるけぇじゃここ3人で仕事を回しているからだワタルさんにもてごしてほしゅうてワタルさんにも手伝ってほしくて呼んだんじゃ呼んだんだ。」


 「………ここで断ったら、俺は帰れるのか?」


 ここにきて断らないわけではないが、一応帰れる手段は聞いておいて損はないだろう。


 「…………姐さん。どうなんスか?」


 コンちゃん(仮)は知らないようで首をかしげている。


 「帰れません。この人を魔物が入りびたる、ここの外に放り出すことになります。………そのままで。」


 最後の『そのままで。』これの意味は今の状態でということになる。

 俺は今、服が元の世界にあるため、相変わらず湯船につかりながら聞いている。

 つまり、もう一度言う。

 俺はスッポンポンだ。


 「(もともとやるつもりではいましたが、)全力で取り組まさせていただきます!」

 「では。よろしくお願いしますね。ご主人。」


 ご主人?


 「自己紹介をさせていただきます。私はセラと言います。もとではありますが、温泉の精霊でした。」


 なるほど。

 その蛍は精霊の力とかそういうのかな?


 「現在、仲居、女将、支配人、配膳の仕事をさせていただいています。」


 すごい掛け持ちだな。


 「グエン言うグエンと言いますドラゴンじゃがドラゴンですが料理長、配膳を務めさしてもろうとる料理長、配膳を務めさせてもらっています。」


 この筋肉質もドラゴンなら納得。

 一人で作って配膳してる感じです?


 「フィズっス‼清掃と雑役やってるっす!狐の獣人っス‼」


 清掃か。

 確かに着物の裾をたくし上げてるしそれっぽいな。


 「何か質問はありますか?」

 「………いろいろありますけど、それは言わないでおきますね。」


 こんなところに来た理由なんて聞いていたら長くなりそうだ。


 「まず一つ目。皆さんの事なんて呼んだらいいですかね。」

 「どうぞご自由に。」

 「………じゃあセラさん、グエンさん、フィズさん。でいいですか?」


 とりあえずさん付けでいいかと思ったら………。


 「やっス。さん付けはムズムズするんでやめるっス。」

 「ええ?………………じゃあ、フィズちゃん?」


 おじさんがちゃん付けなんて図々しいかと思ったが聞かねばどうにもならない。


 「おけっス。」


 まるをもらったのでそれでいいだろう。


 「とにかく。ここは人数は増えたとはいえ、お客様の人数はそんなに変わらないです。どの仕事もサポートにまわれるように二人ともいろいろ教えてあげてください。」


 「「はい」っス‼」


 服はこれからの仕事服である和っぽい服をもらうことになった。


 湯舟の中で話を聞いていた俺以外に人がいなかった理由としては風呂の閉鎖時間だったからだ。

 に加えて温かかったのは閉鎖時間直後。

 なので昼だ。

 そして俺がいた現実世界では1時半だった。


 大人なので?風呂が開くころまで眠らさせてもらって?そこからいろいろ研修させてもらうわけですよ。

 3人で回してたっていうから客の人数が少ないのかと思えば?

 んなことね~んだよ‼忙しい‼‼


 現在、渉は風呂に人数制限をかけているところだ。

 人が群がりすぎているので一時間先まで風呂の入場禁止という事になっている。

 そこの警備だ。


 「現在、人が大変混雑しておりますので、一時間お待ちください‼」


 この湯ノ瀬温泉は広い。

 あれが埋まるほどの人数とはどのぐらいなんだ……。


 「ワタル~こっちっス。あとは姐さんの魔法で入れないようにするっスから看板置いてきてくださいっス。掃除のお手伝いっス。」


 全然人じゃない相手に説明するより、こっちの方がいいと思った俺は飛んで行った。


 「ここっス。土属性の子供らが5名いる部屋なんで泥んこですね。」

 「わ――――――――――――――。」


 酷いとしか言いようのない泥んこぐわいだった。


 「ワタル~こっちのおてごしできるかこっちのお手伝いできますか?」


 料理をするわけではないし、配膳だけなら、大丈夫だろう。

 15時だし、まあ何とかなる。


 飲食の仕事をしたことがない俺は甘く見ていた。


 「あんさん。こっちに生‼」「こっちゃおかわり!」「おい若造はよせい!」


 などなどが一斉にさんは必ず来る酒場に俺はいる。


 俺は若造と呼ばれるほど若造ではないですよ~って思っている暇もない。


 グエンさんに聞いたが、温泉に入れなかったオッサンズはこちらに集まり、酒を飲むと。


 「掃除終わったっス。お手伝いに来たっス。」


 掃除が終わったフィズがこっちに来た。


 え。早。


 「お困りっスね。早くしないと棚がいっぱいになるっスよ。」


 確かに注文されたものを置くところは(運ぶのが遅すぎて)いっぱいだけど。


 「必要なものは目で見て盗めっス。よ~く見てるっスよ?」


 そう言うとフィズちゃんはびゅびゅびゅっと音がなるほど早く動いて見えないうちに運ばなきゃいけないものが消えて目的地に到着し、洗う皿が回収されていく。


 そんなこんなでバタバタが止まらない上に睡眠不足の中3時間後、一番仕事が少ないという時間帯(らしい)。

 この時間は十分だと言われて


 「お疲れ様ですご主人。3時間働いてどうですか?」


 セラがベランダに来た。


 ちょうどいい今はセラさんが支配人をやっているんだったよな?


 言いたいことが沢山ある渉は息を吸った。

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