3話 歪みの中心へ
空気の歪みが、じわりと強くなる。
乾いた風に混じって、わずかな異形の匂いが漂ってきた。
鉄錆びにも似た、だがそれだけではない、どこか生臭い気配。
セリオスは、無言で周囲を見渡す。
「……来るわね。」
ミレアが盾をわずかに傾け、前へ出る。
ライゼは低く呼吸を整え、風の流れを読む。
ガルドは二振りの斧を構え、腰を低くして前線に備える。
シュリオは後方での癒しに備える。
小隊の動きは、すでに自然だった。
誰が声をかけるでもない。
だが、必要な行動が、必要なタイミングで整っていく。
(……いい連携だ。)
セリオスは静かに息を整えた。
次の瞬間――
地面が、かすかに震えた。
「左前方、接近!」
ライゼの短い声。
すぐに視線を向ける。
砂を巻き上げ、異形の影が数体、こちらに向かって迫ってくる。
ねじれた四肢。異様に膨れた胸郭。
通常の異形とは異なる、歪な進化を遂げた存在。
「隊形、維持!」
セリオスの号令とともに、小隊が即座に陣形を整える。
ライゼが風を裂き、敵の動きを制限する。
ミレアが盾を前に出し、正面を受け止める。
ガルドが側面から斬り込む。
シュリオは癒しの波を全体に広げ、絶え間なく支援する。
セリオスは、中央を突破しようとする異形に正面から対峙した。
(速い。だが、読み切れない速度じゃない。)
一歩踏み込み、剣を振るう。
刃が異形の肉を裂き、血しぶきが乾いた空気に散った。
だが――異形は倒れない。
裂かれた傷口が、異様な速さで収束していく。
「……面倒な再生だな。」
セリオスが低く呟いた。
(守ろうとしている……?)
異形たちは、ただ暴れているわけではない。
何かを「囲う」ように、小隊の道を塞いでいる。
(この先に、何かがある。)
セリオスは、自然と剣を握り直した。
「突破する!」
短い号令に、小隊が即座に呼応する。
ライゼが風を切り裂き、敵の動きを断つ。
ミレアとガルドが盾と斧で押し開き、
シュリオが癒しの波を重ねて小隊を支える。
前へ。
歪んだ異形の群れを、蹴散らしながら。
そして――
空間の向こうに、黒く歪んだ、巨大な影が姿を見せた。
だが、セリオスたちはまだ、その「正体」を知らない。
ただ、確かにそこに、強大な悪夢が“胎動”していることだけは――
五人の本能が、はっきりと告げていた。
(……行くぞ。)
セリオスは剣を構え直し、仲間たちと共に、一歩を踏み出した。
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