4話 沈黙を裂いて
生を拒んだ村を越え、森の名残すら失われた空間へと踏み入れた。
木々は枯れ果て、幹は砕け、地面は黒く乾ききっている。
風も、音もない。世界が、息をすることをやめたかのような静寂。
その沈黙の中、空間がわずかに歪んだ。
「……来る。」
ライゼがぽつりと呟く。
次の瞬間――
枯木の裂け目から、それは現れた。
四肢を持つ歪な肉体。ねじれた肢体に、黒く腐食した外殻。
硬質な皮膚は、鈍い鉄のような光を放っている。
セリオスが前へ出て、剣を抜いた。
ミレアがその隣に並び、盾を構える。
氷の結界が展開され、空気が一気に張り詰める。
「支援入れるよ!」
シュリオが雷の癒しを展開、小隊全体を包み込んだ。
異形は咆哮も発さず、足音もなく、ただ殺意だけを圧のように放って突進してくる。
ミレアが受け止める。
氷の盾越しに、鈍い衝撃が響いた。
「……重い!」
ミレアが低く唸る。
「だったら、押し返してやるだけだろ!」
ガルドが踏み込み、両手の斧を振り下ろした。
土の力をまとった一撃が、異形の側面を打ち据える。
鈍い衝撃音とともに、異形の体がわずかに軋んだ。
「硬いな、こいつ……!」
ライゼが横合いから斬り込み、もう片方の腕を裂く。
肉の奥から粘性のある黒い液体が滲み出るが、完全には断ち切れない。
セリオスは斜め前へと踏み込み、剣を正確に構えた。
「これだけじゃない。周囲にも気配がある。」
森はすでに“死んで”いる。
それでも、そこにはまだ“蠢く”何かが潜んでいた。
「早めに片付けるぞ。油断するな。」
異形が再び跳ね上がる。
無音の殺意が、崩壊しかけた世界をさらに切り裂こうとしていた。
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