3話 精神干渉の兆し

崩壊域の空間が、さらに歪みを強めていた。


乾いた風すら、どこかぎこちなく、断続的に吹き抜ける。


砂の感触も、靴底を通じてわずかに違和感を伝えてくる。


セリオスは、無言で周囲を見渡した。


ライゼも、ミレアも、シュリオも、それぞれに空気の異常を感じ取っている。


無音ではない。


だが、そこにある音――風の音、足音、剣の擦れる音――すべてが、どこか歪んで聞こえる。


(……精神干渉の前兆だな。)


セリオスは、内心で冷静に判断を下した。


崩壊域の奥深く、存在密度が高まる場所では、精神そのものを蝕む「干渉」が発生する。


錯覚。幻覚。現実感の喪失。


適応者であっても、無防備では飲み込まれる。


「こっちにきて。癒しを行うよ。少しでも、万全に近づけなくちゃ。」


シュリオが小声で呼びかける。


雷の癒し手らしく、静かに小隊全体へ精神耐性を高める癒しを流し始めた。


小隊の空気が、わずかに引き締まる。


それでも、空間の歪みは止まらない。


遠く、異形たちの動きが、さらに整然とし始めていた。


無秩序だった群れが、あたかも誰かの指令を受けたかのように、まとまって動き出す。


セリオスは、剣にそっと手を添えた。


(ノワヴィスが近い。間違いない。)


緊張が、乾いた空気に滲む。


小隊は、静かに、しかし確実に、戦闘態勢を整え始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る