禁書庫 4

 そしてまた数日後、私は郊外入口へとやって来ていた。あの日は結局何の問題も解決しないし、対策もたたぬまま昼休みが終わってしまった。よく考えてみればサクラさんはそれを狙って長々と話していた気がする。

 解散間際私が文句を言う前に彼女は私の予定を聞いてきた。放課後時間がとれないなら休日時間を貰えないかと。

 休日は本を愛でる時間にあてていたのだけど私の願いの為とこうして足を運んできたわけだ。


「まだサクラさんは来てないみたいね」


 呼び出す側なんだから早く来ればいいと思うのは私だけだろうか。あとで軽く注意しておこう。そう思ったところでちょうど一つの人影がこちらに歩いてくるのが見えた。

 サクラさんだろうか。そう思って声をかけようとしたがその姿を見て私はでかかった言葉を飲み込む。


「待たせて、すみません」

「……誰?」


 その声は昨日会ったサクラさんのものに間違いなかったが見た目が全然違っていた。彼女が着ているのは制服は制服でも夕映学園のものではないし、昨日は髪結んでたのに今日は下ろしてるし、それに眼鏡どこ行った?


「昨日話したサクラだよ。潜入する学園によって見た目は変えていて、これは黎明学園のときの姿。ちなみに昨日の眼鏡は伊達ね」


 他の学園にも潜入していることは置いておいて学園の特色に合わせた着こなしをしているというわけね。それにしても垢抜けた感じがするね。


「学園の外なのにその恰好する何て男にでも会いに行くの?」

「……な、え、そ、そんなわけないから!」


 冗談のつもりだったのだけど思った以上の動揺っぷりは怪しく思えてくる。


「本当に違うから! 禁書庫の問題解決に協力してくれそうな人を紹介しようと思ったの!」


 サクラさんは私の疑いの視線を遮るように手を振ってそう言った。なるほど。嘘ではなさそうだし今はそういうことにしておこう。


「それってもしかして噂の怪異屋って奴かな?」

「……知ってたの?」


 私の口からその名が出てくるとは思っていなかったのか彼女は驚いて私の顔を見ている。昨日サクラさんに噂がどうとかいう話を聞いたので色々と調べてみたのだ。そう言った話は今の時代現実で聞き回るよりSNSで聞き回った方が早い。

 というわけで昨日の放課後学園都市の裏掲示板を巡回したのだ。遊んでないで仕事しろ、そう思ったやつ今日のおやつはあげません。


「郊外と聞いてそう思っただけ。どういうわけかここに関する噂はほとんどなかったし」


 五つの学園に関する噂は色々あったのにここ郊外に関する話は怪異屋のことと幻の第六学園とかいうものしかなかった。メインに調べてたのは禁書庫の話だけなので深くは知らない。


「ここは何だかんだで人の出入りがないからそもそも噂をする人がいないんだよね。怪異屋については意図的に噂を流してるから認知されてるようなものだね」


 噂を流している? まるで彼女はその裏についてよく知っているような口ぶりだ。いや、普通に知ってるのか。私をそこに連れて行こうとしているし、怪異に詳しい人みたいだし、もしかしたらその怪異屋の人間なのかもしれない。


「一応言っておくけど私と怪異屋とは無関係だから。今回のように偶に人を紹介するくらいだから。あくまで私は学園都市のエージェントだから」


 怪異屋の一員とされるのは相当不本意みたいで割と丁寧に否定してくる。そんな風に必死に言われるとこれから向かう私は少し不安に思っちゃうんだけど。


「それはそうとエージェントとか明かしていいのかな?」

「……学園の生徒ではないのはバレてるし。それより立ち話は何だしそろそろ行こう」


 サクラさんはそう言うと歩き始めたので私はその後に続いた。

 私が調べた限りは怪異屋の存在は書かれていたが行き方はどこにも書かれていなかった。


「入る方法は色々その時々によって変わるかな。今回は怪異は連れていないから正面から入ろう」


 私はサクラさんと共に時計台に向い、制御室らしき場所に入る。


「サクラさん、勝手にいじっても大丈夫なの?」

「怪異屋に入るには必要なことなの。怪異屋に入るには時計台の鐘の音を

 聞かなきゃいけないから」


 サクラさんは何やらいじると鐘の音が鳴り響いた。それを聞くと私たちは2階に移動した。そこには不自然な位置にドアがあった。


「もしかしてここが怪異屋?」

「そうだよ。最初は私が相手をするから静かにしていて」


 そう言うとサクラさんはドアを開けて中に入ったので私もその後に続く。中に入るとそこは異様な部屋だった。

 中は薄暗く、無駄に広く、何にもない部屋にぽつんと大きな椅子がこちらを見下ろす形で置かれていた。ファンタジーでよくある王座の間、または魔王の部屋みたいな感じの部屋だった。


「ふふふふ、待っておったぞ、勇者よ」


 玉座にふんぞり返るように座っているのは奇抜な服を来た少女だ。これがここの普通なのかと思っていたら先に入ったサクラさんが唖然とした顔をしていた。


「なんで君がいるんだ、ミトラ。それにこの状況は?」

「うむ。ここに第2の拠点を作ろうと思ってな。占拠したところであるぞ。もちろん冗談であるが」


 ミトラと呼ばれた少女が玉座に座ったままそう返す。こちらのリアクションを見る前に冗談と明かしたら意味ないのではないかな。そうツッコミたかったがサクラと黙っている約束をしたのでどうにか口を閉じる。


「本当は?」

「今はしがない店員である。ちなみにであるがこの部屋の現状は一つの実験結果である。ヒロト殿の力を試しておったのだ」

「……当のヒロトは?」

「ここにいるよ」


 玉座の後ろから一人の少年が顔を出した。その表情が少し疲れているように見えるのは気のせいだろうか。


「怪異屋の内装を無理やり変えたんだね。ツクヨミの支配が及んでいるのに無茶をするね」

「ほんとにね。人の家の中で勝手しないで欲しいわ」


 私の背後から急に声がしたので驚いて振り向くとそこにはいつの間にか黒衣の女性が立っていた。ミトラさんよりこの女性の方が魔王役にてきにんじゃないかな。彼女にはすごみというものが感じられる。


「これはツクヨミ殿来ておったのだな。ヒロト殿、元の部屋に戻してもらえぬか?」

「え⁉」


 そう言われたヒロトくんは苦労して今の部屋の形にしたのに、というような顔をしていた。


「……いいわ。私がやるから」


 黒衣の彼女がパチンと指をならすと書き換わるように端から順に瞬く間に部屋の様子が変わる。そして気づけばいくつも空の棚が並ぶ異様な部屋になっていた。玉座だった場所はカウンターに変わっており、そこにミトラさんが座っている状態だった。


「それでサクラ、あなたが連れてきたのは客ってことでいいのかしら」


 いつの間にか後ろに彼女の姿はなく、カウンターの手前の棚の上に座っていた。


「そうだ。ちょっと禁書庫について相談があるんだ」


 私の代わりにサクラさんがそう切り出したのだった。

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