第48話 〝味〟に懸けた情熱、その差とは

「そう。オーガトリュフと言ったら〝餓死するくらいなら食べて死んだ方がいいくらい美味しいキノコ〟として有名だろう?」


 最初、エルデがオーガトリュフを持ってきた時は正直焦った。

 あのキノコは俺でも知っているくらいに有名で、それにかかわる逸話すら知っていたのだから。


 だけどそれと同時にきっかけも与えてくれたのだ。

 なぜエルデに食べられて、俺たちには食べられないのか、という些細な疑問を。


「じゃあなんで美味しいのに人間は食べられないのか? 一方でどうしてドラゴンなどの一部生物は食べても平気なのか、とな」


「毒の耐性があるからではないのか?」


「俺も最初はそう思った。だけど違ったんだ。あの毒はな、実は熱に弱いんだってね」


 こう気付けたのはきっと、俺が魔法のことを知っていたからだ。

 毒も魔法の属性と同じく、何かしらの根本的な対処方法があるのではないか、と。


「何をバカな!? オーガトリュフを焼いて食べようなど、昔から何度も試してきたことだ! 我ら調理者ギルドだって――」


「そう、焼いても食べられはしない。なぜならそれは、旨味である毒素が冷めた途端に活性化してしまうからだ」


「!?」


「もちろん解毒魔法を使えば、旨味も消えてスカスカの綿が残るだけだから意味がない。じゃあどうしたらいいか。その答えが〝食せる種族の特徴〟にあったんだ」


「なん、だと……!?」


「ドラゴンなどの体温は人間よりもはるかに高い。つまり、彼らの体内であれば毒素が延々と旨味だけのままになる。消化された後も、無害化するまで熱され続けることでね」


 ここまで説明した所で、食材を入れた皿を手に取り皆に見せる。

 細かく刻んだチップ状の食材……ぱっと見じゃこれが何かはわからんよな。


「これはオーガトリュフを三日三晩燻し続けて刻んだものだ。ドラゴンの体温に近い温度でじっくりとな」


「ま、まさか、それじゃあ……!?」


「そうさ、これが無害化を経て出来上がったオーガトリュフチップ。栄養価と旨味を閉じ込めた、地上最強の滋養強壮食材だ!」


 途端、場が沸き上がった。

 誰しもオーガトリュフが食べられるだなんて思ってもみなかったのだろうな。


「それらを混ぜたこのパンを名付けて〝オーガトリュフロール〟! フィリングを投入することで子ども受けも狙える自由自在の惣菜パンさ」


 確かに味は高級食材には敵わないかもしれない。

 しかし栄養価ではどんな料理相手にも負けない自信がある。


 これから働く人たちのために。

 このフレーズこそがオーガトリュフロールの生まれた理由だ。


「ふふっ……恐れ入った。リアン、やはりお前は職人だ。探求することを忘れず、追い求めて結果さえ出したその姿勢には感服しかない」


「ありがとうフェンディア、その一言だけで俺は嬉しいよ」


「しかし一言だけで済ますつもりはない」


「?」


「職人のあるべき姿を見せたリアンに対し、与えられたモノだけで満足するエセ職人もここにいるのでな」


「「「!?」」」


 途端、いつの間にか緩んでいたフェンディアの眼が再び妖しく光る。

 ああ、これは怒りに打ち震えた眼だ。間違いない。


 これは、相当にキレているな。


「……パンとは庶民の味である。その優れた栄養価であるがゆえ、戦乱下の飢餓時代をも食い繋がせた優れた食品だ」


「そうだな、そのパンのおかげで人が生きてこられた時代が確かにあった」


「そう。よってパンが庶民の手を離れることがあってはならぬ! たとえ高級であろうと、それが手に入らないのであればもはやパンである必要はない!」


「「「ッ!?」」」


「その前提を、貴様らは私利私欲と権威欲で汚し、高級志向によって手に取る相手さえ選んだ! 今の我が皇国において選民主義など愚の骨頂、その選択をした貴様らにパンを評する資格などあるものかあッッッ!!!!!」


 フェンディアの怒号が響く。

 一瞬にして鳥の囀りさえもが消え去ってしまった。


 なんという威圧感。

 これが支配者、皇帝を名乗る者の強さか。


 あまりの怒号に、あの審査員3人が震えて尻もちを付いてしまっている。

 ジーデルさえも立つのがやっとな状態だが、目は震えたままだ。


「そしてファジド、メイネス、アリヤン、貴様らの調べは付いている! 調理者ギルド関係者の名をいいように使い、界隈の調和を乱しているとな!」


「「「ヒッ!?」」」


「その権限を与えた我にも非があろう! よって、我自らがその権限の永久剥奪を宣言する! 家に帰り次第、覚悟せよ!」


「「「ひいいいい!!!??」」」


「特にファジド、メイネス! 自分たちのために用意された食事も信じられぬ愚か者よ、お前たちにはもはや二度と食に関わる仕事はできぬと知れ!」


「「は、はひ……」」


 この感じだと、どうやらフェンディアの真の狙いはこの3人組だったのだろうな。

 既得権益をむさぼり暴利を得る、その結果が凋落とは悲しいことだ。

 皇国自体も歴史が長いし、ダンダルトから続く病巣はまだまだ無くなりそうにない。


「我の話は以上だ。なお審査員3名の欠員により、ジーデル票3点分を無効とする」


「そ、そんな!?」


「結果、得票3対2で勝者はリアン。審判よ、それよかろうな?」


「え!? あ、はい、そうですね! 色々ありましたが、勝者はリアンさんとなります! おめでとうっ、リアンさぁーーーん!」


「あ、お、おう……」


 なんだか素直に喜べないが、これがフェンディアなりの筋の通した結果なら従うしかない。

 ともかくとして、この家を失わずに済んだことを安堵しよう。


 飛び込んでくるテティを受け止め、抱き上げる。

 そんな中で村人たちに囲まれ、祝福を受けた。


 みんな、俺のことを随分と心配してくれていたようだ。

 彼らの願い通り、この勝負に勝てて本当に良かった。


 そう思えて初めて、俺はやっと笑うことができたのだ。

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