第25話 跳ね返る違法的契約

「……まさか、たった4日で私の下に訪れるとはな」


 アルガスでの情報収集の後、契約履行の準備も整え、俺たちは皇都にあるダンダルト家の屋敷へ訪れた。


 ル=メギア皇国の首都『ファンダ=ル=メギア』。

 ここへの移動にはさすがに半日もかけてしまったが、何事もなく辿り着けて内心ホッとしている。


 ミーミルもソファーに座ったまま大人しくしてくれている。

 なんだか目を血走らせてはいるが、きっと貴族相手に緊張でもしているのだろう。

 レンタルドレスも着崩れていないし、失礼は無いはずだ。


「それでどうしたのだ? まさか今さら契約を無かったことにしたいなどとは言ってくれるなよ?」


「いえ、契約金が用意できましたので、すぐにでも成立させたいと思いまして」


「何……!?」


 こう告げた途端、ダンダルト候の目の色が変わった。

 やはり吹っ掛けていた認識はあったのだろうな。


 しかしそれでもこちらは用意してやったぞ?

 これ以上の文句を言うことはできないはずだ。


「ギルド直営銀行の銀行印入りの金塊、五千万ディラ分です。どうかお確かめください」


「ぬ、ぬう……わかった」


 それで一緒に抱えてきた巨大ケースを開き、相手に示しながら机越しに渡す。

 あまりの重さに机が軋みを上げるが、そんなことはお構いなしだ。


 そんな金塊の一つ一つをダンダルト候が手に取り、ルーペで確認していく。


「よもや偽物ではあるまいな?」


「そう思うのでしたらギルド直営銀行ならびル=メギア国庫に登録番号を確認してみては如何でしょうか? ダンダルト候なら調査権限をお持ちのはずです」


「くっ……!」


 まぁ偽物であることはない。

 なにせこの金塊は今朝、皇都のギルドから直接受け取ったものなのだから。


 しかもその金塊は皇国の国庫から引き出されたもの。

 侯爵なら自国の金の流れくらいは容易に想定できるだろう。

 すべての金塊に登録番号も刻まれていて詐称のしようもないのだと。


「……冒険者にしては随分と良い稼ぎをしておったのだな?」


「ええまぁ。戦うことしかできませんでしたから、自然と節約になったものです」


「まぁいい。真偽は後で確かめるとして、真金であることに違いはないようだから契約成立に支障はなかろう」


「ありがとうございます」


 どうやら金を見る眼だけは確かなようだ。

 錬金術が普遍化した現代では、錬成金――魔金も出回ることが多い。

 その真贋を確かめる知識は貴族にとってとても大事なことだろうからな。


「これでコナリア村は貴殿の物だ。あとは好きにするがいい」


 そう言いつつも金塊を眺めてニヤけるダンダルト候。

 しかし俺はすかさず懐から一つの封筒を取り出した。


「では契約を成立させる前にこちらもお渡ししておきますよ」


「うん? なんだこれは?」


 この封筒は今朝、金塊と共にギルドから受け取ったもの。

 ギルドマスターに「ダンダルト候に渡すように」と言われた時は驚いたものだ


「こっ、これはあーーーっ!!?」


 封筒を前にして、ダンダルト候が驚愕を露わにした。

 ま、驚くのも無理はないか。


 なにせ八翼の極楽鳥の紋章は、この国の絶対的な権威たる皇族の印。

 偽造するだけで死刑となるほどに重要とされている代物なのだから。


 そして表には〝ダンダルト候へ〟としっかり記載もしているから逃げられはしない。


「ぜひここで開けて読んでみてください」


「なっ……くっ!?」


 ダンダルト候にも事実が認識できたのだろう。

 途端に苦い顔を浮かべ、懐から出したナイフで封を解き、中身の書状を無言で読み始める。


 読むうちに彼の顔が青ざめていく。

 内容は既に前日の伝文に記載していたからな、心情さえ読み取れるようだよ。


 確か中にはこう書かれているはずだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 リアン殿と土地売買契約を交わしたジード・フォル・ダンダルトへ告ぐ。

 本契約履行においては、ル=メギア皇帝の名の下に以下の追加処遇を課すものである。


1.当契約はル=メギア皇国における資産運用法に則り、成立した時点で以下の皇国批准の契約形態へと変更されるものとする。


2.ル=メギア皇国当該領地の価格は不当と判断し、五千万ディラから五百万ディラへと適正価格に改定するものとする。


3.差額分は当該地を中心とした貴殿所有の領地を譲渡する形で等価交換され、またその領域内に含まれる街・村・集落・施設などの所有権は購入者へと自動的に移るものとする。


4.当契約内容はル=メギア皇国が認められないものである。しかしリアン殿との個人的契約につき無効とはしないこととする。


5.ル=メギア皇国の定める法律に則り、当契約の不履行は許されない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……つまり、ダンダルト候はもう逃げられないということだ。

 村だけでなく領地をも売却したこととなり、領土外縁部の領地をほぼ失う。


 その割合、支配領土の約7割。

 既に侯爵を名乗れるかどうかすら怪しくなるレベルだな。ま、自業自得だが。

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