第16話 変われ、ボルク!

 蒼髪の少年との約束から七日が経った。

 長いようであっという間だったが、待ち遠しい日がやっときた。


 なにせ今日は例の〝ゲーム〟の日なのだから。


「さて、今日は特訓ではないことをしたいと思う。これまでの特訓の成果が出ているかどうかを確認するちょっと特別な催しだ」


 そんな訳で朝食を済ませた所で、子どもたちに今日の予定を打ち明ける。

 特別と聞いた途端、子どもたちが目を輝かせ始めた。

 好奇心旺盛なおかげで、俺としても仕込んできた甲斐があったというものだ。


「リアンさん、今日はいったい何を始める気なのかしらぁ?」


 ギャラリーとして村長さんや酒場のマスターなど村の人も呼んである。

 後はあの少年が来るだけでゲームは始められるだろう。


 ほら、思ってみればさっそくとやってきたぞ。


「お、おい、あれって……!?」

「ウソ、あの子サシェじゃない!?」

 

 少年がゆっくりと歩いてこちらに向かってくる。

 それで俺の前までやってくると、ムスっとした不機嫌そうな顔で見上げてきた。


「来てあげましたよ。それで、ゲームってなんです?」


「よく来てくれたな。まぁ今説明する所だから聞いてくれ」


 周囲からざわめきが聞こえてくる。

 それだけこの少年の存在が異質だってことがわかるな。


 ――だからこそ際立つ。

 催しのメインキャストとしては十分だ。


「さて、人が揃った所で……これより、子どもたちによる決闘ゲームを始める。互いに木剣で戦い、決定的な一発を入れた方が勝ちというシンプルな遊びだ」


 説明を聞いた途端、少年が鼻で笑う。

 きっとくだらないとでも思っているのだろうな。


 ま、それならそれで今は構わない。

 参加してくれただけでも良しとしようじゃないか。


「そのデモンストレーションとして、まずはこのサシェ君と対決してもらおうと思う」


「……やっぱり来るんじゃなかった」


「まぁそう言うな。いい退屈しのぎになるかもしれないじゃないか」


「そうですかね。僕はそう思えませんけど」


「はは……という訳でだボルク、君の出番だぞ!」


「へっ?」


 真偽はともかくとして、やってみないと結果はわからない。

 そこで俺はすかさずボルクを指差し、指名してみせた。


 呆然とするボルク。

 注目する他の人たち。


 そして視線を浴びたことでボルクがようやく事態を理解したようだ。


「え? え? オレええええええええええええええええ!!!!!?????」


 なにせ必殺技を覚えたいと願ったのだからな。


 死闘を乗り越えてこそ技は輝く。

 だったらボルク君にもしっかりと不可能を可能にしてもらわないと、ね?


「マ、マ、マジかぁ……ほんとにオレがサシェと決闘すんのかよ!?」


「楽勝だね。僕が君に負けたことは一度も無いんだから」


 才覚者の少年――サシェ・フォル・ダンダルト。

 彼はこの一帯の領地を仕切るダンダルト侯爵家の第六子だという。


 貴族の実子である彼がどうしてこんな辺鄙へんぴな場所にいるのかは全くわからない。

 しかしそのことを彼が嘆いているのだけは村長に聞いて理解した。


 ただ、出生などは正直興味が無い。

 サシェを思いとどまらせなければ、彼はいつか力に溺れて命を落とすだろう。

 自身の命を大事にできない者が生き残れるほど、戦いの世界は甘くないのだから。


 そのために俺は今日、決闘という名のゲームを仕組んだ。

 サシェの対戦相手としてチャンバラ少年ボルクを据えて。


 ゲームだからといって俺自身が出張っては、サシェの身にはならないからな。

 彼と同等の歳であるボルクが相手だからこそ、このゲームは成り立つのだ。


「リ、リアン先生、せめてさ、ほら、ミーミルと替えてくんね!?」


「ははは、強い男になるって言っていたボルク君が何をいまさら」


「別に僕は誰が相手でもいいけど」


 どうやら二人は同い年らしく、多少なりに面識もあると聞いた。

 しかもボルクはサシェに対してトラウマまで抱いている感じだ。

 昔よほどこっぴどくやられたのだろう。


「センセ、アタシ代わろっか?」


「いや、ボルク君はここで一度男として剥けておかないとな!」


「ひええ……」


 いつもは張り切っている強気なボルクも、サシェの前では引き気味。

 剣先もブレているし、正直見られたもんじゃあない。


 そう呆れていると、エルデがまた背後から気配を殺して近寄ってきた。幽霊かな?


「なぁにを始めるかと思えばまた殺し合いか。いつになっても人は変わらんな」


「なら見なくても平気だぞ。あと、これは模擬戦だから死にはしない」


「しかし勝敗を決するものではあるのだろう? フフン、ならば私はあの小柄な青髪に賭けよう。あの威風堂々とした構え、嫌いではない」


「だったら俺はボルクに今日の夕飯を賭けるとするか」


「二人とも無責任な賭けなんてよしてくれよぉー!?」


 はは、いつにない弱気なボルクが逆に面白く見えてきた。

 なにせ当人は怯えているが、下半身はしっかり据わっている。

 今日までの鍛錬が活きている証拠だ。


 その苦労も今回の戦いで報われるだろう。

 俺は努力をしっかり続けたボルクを信じているからな。


「ではボルク君、そんな君に一つアドバイスをしよう」


「えっ!?」


「サシェ君を見る必要はない。相手の剣だけを見て、後は教えたままに動け」


「剣だけを、見る……」


「今日までに教えたことだけを活かすんだ。この七日間で特別授業まで組んだのだからな、無駄にならないと思うぞ?」


 まだ迷いを見せるボルクに笑顔で檄を飛ばす。

 自信が無いのは当然だ。あとはその足りない自信をどう気迫でカバーするか。


 それが出来るだけで、ボルクはまた一つ変われるだろう。


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