第2話

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 最初に撃ったのはスチュー。彼らしい堅実な狙いで、先に二人を間髪入れず狙撃する。因みにスチューの左手は高性能マシンガンだ。私も改造モーゼルで応戦する。しかしプレッシャーの力は弱まらない。

「上だ」

 ニックがテレパシーで呼び掛ける。私のカメラアイが近くのビルを捉える。確かに強いネジレを感じる。フォーカス。

 そこに見えるのは意外なほど若い女。ただ黙ってこちらを窺っているように見えるが、実際には強烈な殺意が向けられている。

「スチュー」

「了解だ」

 スチューのマシンガンとトムの強化ライフルが同時に火を吹く。一瞬少女の姿がぶれた。「やったか?」

 プレッシャーは途端に消えたが手ごたえはなかった。すると突然目の前に刺客が現れる。私は咄嗟に構えを取り応戦する。相手は蹴り技が得意な様子。左右から自由自在に襲ってくる。私は周囲にも目を配る。数的にはこちらの方が不利だ。いつまで持ち堪えられるか。

 私の身体がテンション・アップするのが感じられる。やれやれ。自分でもこの力をコントロールできないのが何とも厄介だ。私はモーゼルを放り投げる。私の中に押し留めようのないネジレが生まれるのが分かる。

「ジョグ、程々にしとけよ。後片づけがコトだ」

 ニックの声が言う。

「このボデーに言ってくれ」

 私はそう応えるや否や、目の前の敵を素手でなぎ倒す。相手の顔が一瞬驚いたように揺れたが、すでにその身体は四散している。そして私は他の敵に立ち向かっていく。

 一人残らず始末してやる。お前らが殺し屋なら、私はお前らを狩るケダモノだ。覚悟しとけ。

 私の身体が咆哮した。


「で、この辺の連中はアンタがやったの?」

 地元警察の男が私の身体を舐めるように見る。私はそうだと頷く。ニック、スチュー、トムの三名もそれぞれ現場の一角で状況確認を受けている。周囲には私たちが狩った者たちの死体があちらこちらに横たわる。例の少女はおそらく逃したと思う。しかしそのことは敢えて警察には告げない。

「だから程々にしとけって言ったろう?」

 ニックがテレパシーで割り込んでくる。見るとにやけた顔をこちらに向けている。

「正規の指令を受けて処分した。あとは上に聞いてくれ」

 私は目の前の警官に応える。

「この際言わせてもらうが」

 警官は私を真っ直ぐに見る。「アンタらのやってることもこいつらと大して変わらんだろう。少なくともオレには同じ人殺しにしか思えんけどな」

「問題発言だな。上申を希望するか?」

「勝手にしろ」

 警官は踵を返し、処理班の元へと去っていく。これでまた地元警察から嫌われた。毎度のことだが私の心はそれなりに沈んでいる。相手の言い分は少なからず尤もだ。職務とは云え、ここまでする必要があるのか。しかし一方でこうも考える。だったら警察で手に負える相手なのか?今や警察ですら一(いち)治安行政機関に過ぎない。たとえ殉職しても区分に因って支払われる手当は、キャリア官僚の初任給に毛が生えた程度だ。誰がそんな境遇に命を張れるだろうか?そこで生まれたのが私たち、改造もしくは実験人間で構成されるマンハント・チームではなかったのか?

「気にするな。引き上げるぞ」

 スチューが近寄ってくる。「大事なのは、まず生き残ったことだ」

「分かってる。しかしこれじゃあチーフに大目玉だな」

「そうでもないさ。敵の数があれだけだったんだ。地元警察にも面子ってものがあるからな」

 私たちはエアプレッシャーを浴びた後、それぞれの車に乗り込む。見るとカナンの遺体が運ばれていく途中だった。彼の身体には一見外傷はなかった。しかし何の為にカナンは殺し屋連中に襲われる羽目になったのか。前例がないだけに釈然としない。

「おい」

「何だ?」

 私はニックの方を見る。

「さっきの連中、本当に殺し屋か?」

「どうして?」

「俺にはあいつらの心が読めなかった」

「確かに初め連中にはネジレはなかった。しかし…」

 私は胸騒ぎを覚える。

「人間じゃなかったってことか?」

 トムの声が流れる。「話に聞いたことがある。どうやら中身カラッポの人間を作って流通させてる業者がいるらしい」

「中身カラッポって、どう云うんだ?」

「入れ物としての人間ってことだよ」

「入れ物?入れ物って、何の?」

「記憶だよ」

「記憶…」

 私は上手く想像できない。記憶人間。しかしそんなものを作ってどうすると云うのだ?

「そんなもん、どうするんだよ?」ニックが代わりに問う。

「よく分からん。大体人間の記憶能力なんて大したことない。ロボットギアならともかく、酔狂にしか思えんな」

 スチューの声が呟く。

「元々は老人の痴呆対策だったようだ。合成記憶をインプットされた、オーダーメイドの茶飲み相手としてな」トム。

「それが?」

「最初は記憶の墓標代わりだった。ところが次第にそこへ魂が乗り移るようになった。まあ、錯覚だろうがな」

「分からないでもないが…」

 私はいぶかしむ。現代の都市伝説。「それが何の需要を生む?」

「想像だが、亡くした人間を傍らに置きたがる者はいる」

「ん?」

「しかし見た目は他人だ」

「だから良いのかも知れん。精神性が保たれる」

「もしそうだとしたら、何故そいつらが刺客になる?」

 スチューの言葉で一瞬皆の音声が静まる。

「それ以上の詮索は無用だ」

 車内にチーフからの音声が響く。「帰還しろ。今後の対応について話し合う」

「了解」

 二台のホバークラフターは一路、速度を加速させる。

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