ファーストキス
記憶っていうのはふしぎだ。自分の身に一回しか起こってない、それが自分にとってどんな意味があるのかよく分からない経験のことを、なぜだかずっと覚えていたりするかと思えば、その反対に、何度も同じことをやっていたはずなのに、そのことで覚えていることっていうのが、ほとんど何も無かったりすることもある。
朝目が覚めたときに、見ていたはずの夢を思い出そうとするときにもよくあることだけど、夢を見ているそのときには、あるストーリーに沿って出来事が進んでいたと思うのに、起きて思い返してみるとストーリーの方はすっかり思い出せなくなっていて、ただある瞬間のある場面のイメージだけはけっこうはっきり思い浮かぶ、なんていうことがある。
昔の出来事を思い返すときにも、そんな夢と同じで、その場面の前後のことは何も思い出せないのに、その場面のイメージだけをはっきりと覚えている、っていうようなことがある。
そのイメージがあまりに突飛なものだと、それって実際に経験したことなのか、本当はそんな経験はしていなくて、ただあるときふっと妄想しただけのことなのか分からなくなることもある。
だからこれから書くことは、実際にあったことなのか、ぼくの妄想なのか、はっきりしてない。実際にあったことだとしても、その意味がよく分からないし、ぼくの妄想なんだとしたら、その方がさらにもっと意味がよく分からない。
その場面の前後のことは何も覚えてないから、小説みたいに起こったことを順を追って書くっていうようなことはできなくって、ひと言で「こういうことがありました」って書くしかないんだけど。
ぼくは小学四年のときに、小学校の校門のすぐそばにあったイチジクの木のそばで、ある男の子とキスしてる。そして、それがたぶんぼくのファーストキスで、その相手がKくん(高二の春にまた同じクラスになったあのKくん)だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます