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@keana0317

職場で起きた怪現象

【職場で起きた怪現象】


出典:本当にあった!?超常報告 2023年特別号掲載記事より(一部編集)

文責:編集部記者・滝沢



「私は仕事柄、写真データを扱うことが多いんです。この写真は職場のメールアドレスに送られてきたものでした」


 Mさんはそう切り出すと、A4用紙にプリントアウトされた一枚の画像を差し出した。

「滝沢さん(筆者)にメールでお送りしたものと同じですが……」


 写真は、とあるバラエティ番組のワンシーンを切り取ったものだった。動物の着ぐるみを着たキャラクターが、大きなフリップを手にして立っている。カメラはそのフリップを画面いっぱいに寄っており、掲示された画像がはっきりと映っている。

 そこには、老若男女が机を囲んで談笑している写真があった。おそらく三世代の家族写真だと思われる。

 

「この椅子に座っているおじいさん。最初に見たときは普通に笑っているように見えたんですけど……」


 Mさんが指を差したのは、中央の一人がけの椅子に深く腰掛けた老人だった。年の頃は80代くらい。柔らかな笑みを浮かべており、ごく自然な家族の一員という印象を受ける。


「最初は普通の家族写真だと思ってたんです。フリップ用に使うってことで、制作さんから何枚か画像データが送られてきて、その中の一枚でした。そこまで気にしてなかったんですけど……その日の業務中、ちょっと違和感があって」


 Mさんは当時、某テレビ局で派遣社員として働いていた。業務内容は、番組内で使用されるフリップボードの作成だ。


「その日も忙しくて、30枚くらいフリップを作ってたんです。で、この家族写真をレイアウトしようとPhotoshop(画像編集ソフト)で開いたら、レイヤーが分かれてたんですよ。視聴者からの投稿を扱うコーナーだったので、基本的にはJPEGとかの簡易な画像形式が多いんですけど」


 写真データは、通常であればJPEGやPNGといった形式で保存されており、画像そのものは“平面的な一枚”として扱われる。しかしMさんの話では、その画像はPSD(Photoshopの編集可能な形式)で送られてきたという。


「見た瞬間、なんでPSDで送ってきたんだ?って思いました。で、レイヤーを開いてみたら、パーツが2つに分かれてたんです。明らかに“編集されたあと”のものだったんですよ」


 中でも異様だったのが、“祖父”と見られる人物の写っているレイヤーだったという。


「上にあるレイヤーを外したら、一番下に“元の写真”と思われる画像があったんです。そのおじいさん、明らかに様子がおかしかった」


 Mさんは、そこでいったん言葉を止めた。


「首が、すごく傾いてて。口も半開きで、笑ってるっていうか……力が抜けたみたいな顔。

あれは、生きてる人の表情じゃなかったです。撮影された時点で、もう亡くなってたんじゃないかって思いました」


 恐怖と違和感を抱きながらも、Mさんは業務を優先した。


「怖かったけど、締切ギリギリだったし、上にも報告しづらくて……。何も見なかったことにして、もらった写真のまま印刷して使いました」


 そのまま番組は放送され、何事もなく終わった。

 しかし、視聴者からいくつかの反応が寄せられた。


『あの写真はよくない』

 

『霊感がある友人が、あのフリップを見て急に黙り込んだんです。ああいうのは放送しないほうがいいと思います』


 いずれも直接的な非難ではなく、どこか“忠告”のような内容だった。


「制作側は、特に気にしていませんでした。どこにでもそういう人はいるって感じで。でも私は、なんとなく気持ちがざわついて……」


 その後、番組は予定通り最終回を迎え、静かに終了した。Mさんはすでに局を退職しており、現在は映像業界とはまったく関係のない仕事に就いているという。


「直接の原因ではないんですけど……でも、あの写真のことがずっと頭に残っていて……なんとなく、もう映像に関わる仕事はやめておこうって」


 写真データは、テレビ局の共有サーバーには今も残っているらしい。ただ、正式な削除申請があったわけではなく、ファイル名も不明のまま、他の素材データに紛れ込んでいる状態だという。


 見せていただいたプリント写真は、確かに家族全員が穏やかな表情を浮かべ、楽しそうに談笑しているようだ。中央の老人も、ごく自然な微笑を浮かべているようにしか見えなかった。


 しかし、家族の誰とも視線が合っていないのは、この老人だけだった。

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