喫茶店で
──Rは過去の元彼の浮気が脳内を過ぎり、心臓が壊れそうなほど激しく打っていた。
「違うんだ!……」
Kは必死にRに訴えた。
──話の途中でRは席を立ち上がり、食事代をテーブルの上に強く置いて店を出ようとした。
「Rさん!話を最後まで聞いて!」
──Rは立ち上がって店を出ようとしたものの、こんな事をしたらKの事を好きな気持ちがバレてしまうかもしれないと思ったがもう引き返せないでいた。
──Kは恥も外聞も捨てて店の中だがRに向かって叫んだ。
「何で話を最後まで聞いてくれんのよ!Rさんを思う気持ちに偽りなんかないよ!」
──KもRも思った。
(これは告白では?……)
──他の客は思った。
(コロナ禍でマスクなしに叫ぶとは?……)
──Rは立ち止まり、少し俯きながら席に戻ってきた。
「ごめんなさい……過去のトラウマで...それにそれに、Kさんが誰と何をしていても私が責められる立場じゃないし……ほんっとうにごめんなさい」
──Rは頭を深く下げていた。
いや、Rさんは責める権利があるよ。俺はそう言いたかったが我慢した。
「謝らんんでね。こうやって席に戻ってきてくれたから、もう大丈夫よ」
そして俺はバイト仲間の林田と自分の事も誘ってきたファンシーの事を話した。
「そんな事があったんだ。その人、怖いね。早く後輩くんに教えてあげてね」
「そうだ、今、林田にその件について送るから見ていて」
──そして、ファンシーという女性の写真と俺の事も誘ってきたSNSのDMのスクショを貼り付けてメッセージを送った。
「DMも見せてもらったし、本当に私の勘違いで恥ずかしいよー」
「あはは、俺もあんな写真保存しとったし、ごめんね」
「全然、全然、後輩くんの為だし、改めて素敵だと思ったの」
俺は照れながら、もう飲み終えていたアイスコーヒーをストローで啜った。
「ねぇ、Kさん」
「ん?何?」
「もし良かったらこれからカラオケ行かない?」
Rは軽い男性不信だったがKの真面目さや内面の温かさに心を開き、先程の勘違いをどうしても謝りたい気持ちもあり思い切ってカラオケに誘ったのだ。
「え?いいけれど、Rさん明日仕事よね?」
俺は平然を装っていたが天井まで舞い上がってしまいたいくらい嬉しかった。
「いいのいいの、私、若いからオールでも平気なんだぞー笑 さっきの謝罪も込めて驕らせてもらうから」
「わ、悪いよ!年下の女の子に」
「こらー、今どき年齢なんて関係ないよー。奢らせてくれないと拗ねるぞー笑」
「あはは、じゃ、じゃあ、ここは俺が出すよ」
「はーい、お言葉に甘えてご馳走さまです。お兄様ー笑」
「お、お兄様!笑 おじさんやけれど...」
「またー、年齢に縛られないでね。私はKさんだから会いたかったんだよ?」
──俺はもう胸がはち切れそうだった。
「それとそれと!」
Rは囁きながら言った。
「私への思いに偽りはないってどういう事?」
──Rは微笑みながらKが話し出すのを待っている。
「あ、じ、実は俺……」
「待って!」
「え?」
「Kさんの気持ちを詩にしてほしいの。愛媛に帰るのは明日って言ってたからカラオケが終わってからでも......何てわがままかな......」
「そ、そんな事ないし、必ず詩にして渡してから帰るよ」
──Kは河田がRに送ったラブレターに負けたくなくて、闘志を燃やしていた。
そして、遅くなったら心配だからという事でRの住むマンションの近くのカラオケ店に行く事にした。といっても喫茶店から2駅ではあるが、終電の事も考えていたからだ。
「もー、私が住んでる所がオジサンにバレるー笑」
「おいおい、さっきは年齢を気にするなって言よったのに笑」
──そして月も微笑んで2人を見守る夜にビルの2階にあるカラオケ店に着き、受付を済ませてカラオケの部屋に入る2人。
──落ち着いたムードのある部屋でRさんのテンションが上がったように思えた。
「キャー、オジサンと密室だー、こわいー笑」
「こらこら笑」
「キャー、襲われるー笑」
「こらこら笑」
「あ、ほら、私の胸見てるしー笑」
「ち、違うっ……」
──だけど初めて会ったのにカラオケに来るなんてよっぽど信用してもらえてるんだな。Rさんは男性不信だし、尚更にそう思った。
「ねぇねぇ、何歌うー?」
「あ、んー、じゃあ先にRさん歌ってよ」
「私も決まってないよー」
「あはは」
──結局、Rさんが先に歌うことになり、Rさんは俺の知らないアイドルの歌を歌った。
「えー、すっごい上手いやん!もうプロやん」
「えへへ、実は地下アイドルやってたんだよ」
「え?何でやめたの?可愛くて歌もそんなに上手いのに」
「実は大分前の元彼にやらされていたの……2年近く……」
「えー!そんな事あるんや……」
「元彼が芸能事務所の偉い人で、どうしても売りたいグループだったんだって……」
「で、でも自分の彼女にアイドルなんて、俺には分からんよ……地下アイドルってよく知らんけどファンと触れ合ったりせんの?」
「……するよ……水着みたいな格好でチェキを撮ったり……凄く嫌だったの。そうよね、別れた今はおかしな事だったと分かるわ……ストーカーまでいたし……」
「す、ストーカー!?……今は大丈夫なん?」
「うん、接近禁止命令が出てからずっと見てないし大丈夫よ。ありがとう」
──Rさん、君はその小さな身体には抱えきれない悲しみを抱えて生きてきたんだね……
Rさん、俺は君を心の底から幸せにしたいと思ったよ。芸能事務所の偉いさんやメルヘンのような稼ぎはないけれど、君を想う気持ちは誰にも負けないし、負けたくないんだ
──Rは申し訳なさそうに話し出した——
「コロナ禍だから、カラオケは迷ったんだけれど、さっきの喫茶店での事を謝罪したい気持ちもあったし、どうしても私の過去の事もKさんに直接伝えたくて誘っちゃったんだ。こういう場所じゃないと言いづらくてね。ごめんね」
──俺はRさんの過去を知れて嬉しかったし、それを伝えようとしてくれたことも嬉しかった。ただ、嫌々、地下アイドルをやらせられていたことには胸が痛んだ。
結局、歌ったり喋ったりしてあっという間に朝の5時になっていた。Rさんは帰ってシャワーを浴びたり着替えたりしないと、同じ服で会社に行ったら怪しまれるからと、先に店を出て行く事になった。
「じゃあ、今日の夕方に帰るなら、お昼をまた一緒に食べましょ?」
「うん、勿論、俺、まだここにおってええん?Rさんの奢りやのに?」
「いいのいいの、ゆっくり休んでてね」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、このままここで詩を書いたり仮眠を取ってまた連絡するよ」
「はーい、すんごくKさんの詩を楽しみにしてるよ!ゆっくり休んでね。といってもそんなに時間がないけれど」
「Rさんこそ、寝れんのやない?無理せんといてね」
「もー、私は若いから平気だよー、オジサンが心配なのー」
「こらこら、オジサンって言ったりお兄さんって言ったり笑」
「あはは、じゃあまた後でね」
「はーい、また後でね、気をつけてね」
──そして俺はカラオケ店の下にあるコンビニに便箋セットと筆記用具を買いに行きRさんに渡す詩を考えた。
──詩という名のラブレターになるなこれは……
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