第五章 転生面接の難解さ
その日、ヤガミはいつものように面接室で候補者を送り出し、次の書類に目を通していた。しのぶは相変わらずデスクで処理をしているが、ふと手を止め、ヤガミに視線を向けた。
「ヤガミさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?」ヤガミは視線を上げることなく返事をする。
「部署に配属されてから、何度も面接を見てきましたけど……一度も合格者が出たのを見たことがないんですよね。そもそも、どんな魂が合格するんですか?」
しのぶの質問に、ヤガミは軽くため息をついた。そして、ペンを持った手をしばらく止め、少しだけ顔を上げる。
「合格する魂か……」
しばらく無言で考え込んだヤガミは、ふっと表情を変え、しのぶに語りかけた。
「その質問、君らしくていいな。まあ、答えはシンプルさ。『運命に翻弄された』とか『努力が報われなかった』とか、そういう魂だよ。」
しのぶは目を細めて、少し考えるように頷く。
「でも、面接を突破する魂はその中でもごくわずかなんですよね?」
ヤガミはにやりと笑って言った。
「そうだ。なぜなら、彼らが選ばれる理由がないからさ。」
しのぶは首をかしげる。ヤガミは、その表情を見てから、さらに言葉を続けた。
「そもそも、この異世界転生制度が始まった理由を知ってるか?」
「え、創設神が生まれによる格差を可哀想に思ったから……って、聞いたことはありますけど。」
「その通り。創設神・カリーネ=ユグドラシルが、あまりにも生まれで格差がついてしまっているこの世界に“転生”というリセットのチャンスを与えようとしたんだ。」
しのぶは少し驚いたように目を見開く。
「でも、それってどういう意味なんですか?転生することがそんなに大きな意味を持つんですか?」
ヤガミは軽く肩をすくめた。
「転生するっていうことは、ある意味、人生が失敗に終わった魂に再チャンスを与えるってことだ。あらゆる可能性をやり直せる。そのために能力というか、願いまで聞き届けてね。自分が報われなかった理由を突き詰めることができる場所だろう?」
「そうですね…でも、それにしてもこんなに面接が難しいのはなぜなんでしょう?」
「うん、簡単に言うと、創設神が『チャンスを与えたんだから、あとは自分でどうにかしろ』ってスタンスだからさ。」ヤガミは冷静に答える。「だいたい、カリーネがこう言ったんだよ。」
ヤガミは少しだけ声を低くして、創設神のセリフを再現する。
「あなたたち、あまりにも可哀想に思えて、私が一度だけチャンスを与えるけれど……あとはあなたたち自身の力でどうにかしてほしいの。努力しなさいってことよ。」
しのぶは思わず吹き出す。「それ、かなり雑ですね。」
ヤガミもクスリと笑う。
「雑?創設神の言うことだからね。あれはあくまで慈悲から来たものだけど、実際はシステムの運用がかなり面倒くさくてね。現場の僕たちはかなりしんどいんだよ。」
「……でも、なぜこんなに面接が厳しいんですか?」
「それは簡単だ。カリーネは『平等にチャンスを与える』と言ったけれど、実際には転生後の生活が“チート”だとか“強すぎる”とかって問題が多発したんだ。昔は自分を愛してくれる存在が欲しいとか、可愛く生まれたいとか、今でいう”普通の幸せ”や”自分に自信をつけたい”感じの、生まれもったらラッキー程度の人間離れした要求はほとんど無かった。でも最近は現世で変に知識をつけてきて要求も膨らむばかりで止まることをしらない。チート能力なんて普通のチャンスですらないだろ?結局、みんなが転生しちゃうと、異世界がめちゃくちゃになってしまうから、現実的な選別が必要になった。だから、面接では候補者の心根や魂の本質をしっかり見極める必要がある。」
しのぶはうなずきながら、少し考え込んだ。
「それでも、面接を突破するのは難しすぎませんか?どうしてこんなに厳しいんですか?」
ヤガミは一瞬沈黙し、じっとしのぶを見つめた後、言った。
「このシステム、実は最初は『みんなが幸せになれるように』って思って作られたんだけど、意外とみんなが求める“成功”がバラバラすぎて。例えば、戦闘力が欲しい人もいれば、金銭的な成功を求める人もいる。でも、結局カリーネが言った通り、努力できる奴じゃないと転生しても意味がないわけよ。転生先でも人生が待っているわけだからね。能力だけ持っていても開花させないと意味がない。多くのここに流れてくる魂が努力するくらいなら『このままでよくね?』って気持ちを持っているのよ。やっぱり面接官としてはそんな奴を合格させる訳にはいかない。」
しのぶはしばらく黙って考えていたが、やがて口を開いた。
「だから、面接を通過した人は本当に少ないんですね。」
「その通りだ。」
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