10
《るりー! ちほです》
《急に転校して連絡取れなくなって心配してたよ》
《沙耶から聞いた転校生の話を聞いて、瑠璃っぽいって思ったらやっぱり瑠璃だった。なんか事情はあったんだろうけど、元気そうってきいて安心した》
《イケメンボディーガードくんもいっしょだってね》
《なにかあったらいつでも連絡して》
戸黒さんに襲われた夜、私は誰にも何も言わずに椎堂家から姿を消した。
だから、千穂ちゃんと茉里に「さよなら」が言えなかったことが心残りだったけど……。
私を心配してくれる千穂ちゃんからのメッセージに、ちょっと泣きそうになる。
「稀月くん、私、千穂ちゃんに返事していい?」
千穂ちゃんから届いたメッセージを見せながら訊ねると、稀月くんは少し考えるように眉根を寄せた。
稀月くんは、私が前の学校の友達である千穂ちゃんと繋がることで、椎堂家やRed Witchに情報が洩れることを心配しているんだと思う。
でも……。
「千穂ちゃんは、魔女でも使い魔でもないんでしょう?」
前の学校で、千穂ちゃんと仲良くすることを稀月くんから反対されたことはない。それはおそらく、千穂ちゃんが魔女でも使い魔でもないふつうの人間で、私に危害を加えることはないと稀月くんが判断していたからだ。
懇願するようにじっと見つめると、稀月くんが額を押さえて「はあーっ」と深いため息をつく。
「わかりました。返事をしてもいいですよ」
「ほんとう?」
きらっと目を輝かせると、稀月くんがまたため息をついた。
「だけど、このことは伝えておいてください。瑠璃が今、訳あって椎堂家を出ていること、椎堂家に関わる人間から何か聞かれても瑠璃の情報は絶対に漏らさないでほしいこと」
「うん」
「どうしてか理由を聞かれても、『今は何も言えない』と黙秘をつらぬいて」
「わかった。ありがとう、稀月くん」
ふわっと笑いかけると、稀月くんが私の頭に手を伸ばしてきた。そのままグイッと引き寄せられて、稀月くんの肩におでこがくっつく。
さっきみたいに、ぎゅーっと抱きしめられるのもドキドキするけど、こんなふうにふいうちで引き寄せられるのも、すごくドキドキする。
緊張して固まっていると、稀月くんがため息ともつかないような吐息を漏らした。
「ほんとうは、瑠璃の安全を考えたら、この部屋から出したくないし、誰とも連絡をとらせたくないんですよ」
「……、うん」
「でも、おれは結局、瑠璃に甘いので。あなたの嬉しそうな顔が見たくて許してしまうんです」
ため息交じりに紡がれる言葉から、稀月くんが私を想ってくれている気持ちが伝わってきて。じわーっと頬が熱くなる。
「……、ありがとう」
そっと上目遣いに見上げると、稀月くんがふっと眦を下げる。私を見つめる琥珀色の瞳は、どこまでも優しくて甘い。その瞳をぼんやりと見つめ返していると、稀月くんの指が私の顎に触れた。
「その
「え……?」
わずかに目を見開いた瞬間、稀月くんの顔が近付いてきて、そっと唇が頬に触れる。
「香坂さんと連絡をとるのはいいけど、少しでも気になることがあったら、すぐにおれに言って」
唇が離れたあと、鼻先が触れるくらいの近い距離で私の目を見ながら、稀月くんが念を押してきた。
「うん、わかった」
稀月との距離が近すぎて、話が半分くらいしか耳に入ってこないけど……。
真剣な目で見つめてくる稀月くんに、ドキドキしながら頷く。
「約束ですよ?」
「うん、約束する……」
ぽわんと顔を熱らせながらうなずくと、
「いい子……」
稀月くんがちゅっ、と今度は私の額にキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます