王女のカトラリー

桜串 あや(おうぐし・あや)

王女のカトラリー -1-

 土曜日のお昼、食事が終わり自室に戻ろうとした妹に、母が声をかけた。


 「14時に佐々木さんがいらっしゃるから、そのときには下りていらっしゃい」


 妹は一瞬立ち止まって母を見て、何も言わずにその場を立ち去った。母は妹がいなくなってから、困ったわね、と言いたげな表情を私に向けた。


 「佐々木さんが来てくれるの? 土曜日なのに?」


 私たち王室と同じように、佐々木さんも土日はお休みだと思っていた。


 「カトラリーを持ってきてくださるのよ」

 「そっか」


 王女が、カトラリーを選ぶ。これは王室の伝統のひとつだ。


 「14時、私も一緒にいいかな」

 「ええ、もちろん」


 14時までまだ時間があるので一度部屋に戻った。ソファに座る。


 佐々木さんは渡月屋とげつや百貨店の王室用達ようたつ部門の人で、妹を担当している二十代の若い女性だ。

 私たち王室と渡月屋百貨店の付き合いは、150年以上に渡る。王室行事のときに着用するドレスから友人へのプレゼントまで幅広く相談にのってくれる。電話をかけるとすぐに来てくれるが、用もないときに押しかけてくることはない。

 しかし、あるとき私に連絡もなく、突然やってきた。そう、カトラリーを持ってやってきたときだ。

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