第8話「スーパーJK、戸郷結愛」


【本日はウワサのスーパー女子高生、戸郷結愛さんにお越しいただいています!】


【よろしくお願いします】


 画面の向こうで、男性インタビュアーに対してに笑顔を見せる結愛。

 

【いやー、ウワサ通りというか、ウワサ以上にお綺麗ですね】


 男性インタビュアーは結愛の美貌に圧倒され、感嘆の言葉をつむぐ。


【ありがとうございます。でも、ルッキズムだと批判されないですか?】


 結愛は余裕の笑みと切り返しを見せる。


【あ、やべー。今のはナシでお願いします!】


 会場からドッと笑い声が起こり、結愛もくすくす笑う。


【戸郷さんは女子高生でありながら現役ハンターであり、有名クランの運営もやっていて、さらにフォロワー数1000万人を超えるスーパーインフルエンサーなんですよ!】


 男性インタビュアーが説明すると、会場から大きなどよめきが起こる。

 箇条書きにすると、結愛がやってることやばいね。


 超人かな?


【ぶっちゃけ忙しくないですか?】


 男性インタビュアーの問いに、


【とても忙しいです! 大変です!】


 結愛は笑顔で答え、いっせいに笑い声が起こった。

 そんなそぶりを見せないところが恐ろしい。


【歯に衣着せぬ回答ありがとうございます。戸郷さんはたくさんのファンを抱えていらっしゃるのですが、実力に加えてこの美貌に飾らない性格だから、というのが大きな理由かもしれませんね!】


【ありがとうございます。でも、たくさんの人に支えられていて、運がいいなと思っています】


 持ち上げる男性インタビュアーに対して、結愛は謙遜を返す。

 

【謙虚ですねえ。そんな戸郷さんだからこそ、ファンが多いのでしょうね】


 男性インタビュアーは一人で納得している。


【ところで戸郷さんは現在ハンターランクはいくつですか?】


【五ですね】


 結愛が答えると、


【おおお! 素晴らしい!】


 男性インタビュアーは大きくのけぞた。

 わざとらしいほどのオーバーリアクションだった。


【ハンターランクは下から初級、二級、三級と続き、五級は現在最高峰なんですよ!】


 男性インタビュアーが説明すると、大きなどよめきが起こる。


【そうなんです。戸郷さんは史上最年少で五級ハンター! それも現在世界の中でも最強候補の実力を秘めていると言われているんです!】


【わたしなんてまだ未熟です。世界は広く、強い人はいます】


 男性インタビュアーの熱弁に水を差すような、結愛の冷静な発言だった。


【またまた。戸郷さんを筆頭に、『六冠纓リアファル』のみなさんはすばらしい成果をあげていますよね?】


【ありがとうございます】


 結愛は微笑みながら応じる。


【ところで戸郷さんが運営していらっしゃるクランは全員が女性ということですが?】


 男性インタビュアーの質問が不意に放たれる。


【今のところ構成員はそうなっていますね】


 結愛は笑顔で応じた。

 クランメンバーが見ても「嘘はついてない」と判断する言い回しだ。


【男性の加入を認める予定は?】


【今のところありません】


 ずばり切り込んだという様子のインタビュアーに対して、結愛は笑顔で即答する。




 どうやら俺に男友達ができるのは、簡単なことじゃないらしい、と動画を見ていて思った。


 男同士だからできる会話に憧れがあるんだけど……。

 インタビューはつつがなく終わった。


 さすがに結愛が有名になりまくったからか、礼を欠いた対応はされなかった。


「あら、見ていたの?」


 部屋にしれっとやってきた結愛が、俺のスマホ画面を背後から覗き込む。


「こういうこともやってるんだね」


「わたしの見た目で、愛想よくて、飾らない物言いとジョークに理解ある態度を見せたら、ちやほやされるの。単純なメディア戦略よ」


 と結愛は自分の髪を撫でながらしれっと言う。

 そんな単純なものじゃないだろうに、単純にこなしてしまうのが彼女だ。


「結愛ちゃんがモテるのはわかるけど、女性人気も高いのはすごいね。男ウケがよすぎてきらわれそうなのに」


 俺に左からくっつきながらハンナが不思議そうに言う。


「愛想はいいけど、けっして媚びないという態度なら、女性たちからも支持されるからね」


 狙い通りだと結愛は話す。

 さすがは結愛、あざとくてしたたかできっちり計算している。


「どう? イイ感じで褒められてるでしょ?」


 と言いながら結愛が珍しく俺の右腕に密着してきた。


「うん。さすがだ」


 と褒めるとうれしそうに目を細める。

 体のラインを見せないだけで、結愛はかなりある……これはF?


 なんでみんな俺にくっつきたがるんだろう?


 顔面つよつよ、スタイルつよつよ女子にそんなことされてしまうと、理性くんがすごくがんばらないといけないんだけど。


 俺の理性くんもつよつよじゃなかったら、今ごろ一線超えてるんじゃないの?

 みんな、自分の魅力を自覚して自重して欲しい。


「アンチはいないわけじゃないけど」


 ハンナが言うけど、


「それはそうだろ」


 目立つ人間でアンチを作らないなんてまず無理だ。

 味方が多いなら、それでいいんじゃないかな?


「ところで、戦闘カリキュラムって何をやったの?」


 密着したままの結愛に訊かれる。


「今日は大したことじゃなかったよ」


 答えながら一瞬、甘露寺とかいう女子のことを思い出す。

 言うべきか迷ったが、言わないほうがいいかな。


 何となくだけど。


「最初だったからか、ペアを組んで一緒に練習で終わったね。次からはダンジョン実習に入るらしいけど」


 他のことは全部しゃべってしまおう。


「なるほど。それで何を隠したの?」


 !?

 結愛に隠し事は本当に難しいね。


「結愛ちゃんがそう言うなら、隠し事したんだね」


 ハンナも俺よりも結愛を信じるという表情だ。


「教えて」


 と結愛にねだられる。

 うーん、そこまで隠すことでもないしなあ。


 ぺらぺらしゃべってしまおう。


「甘露寺? あの甘露寺家かしら」


「知ってるんだ、結愛?」


 結愛の反応が意外すぎて、思わず質問する。


「そりゃ大臣も輩出したことがある名家だもの。わたしが知っている家ならね」


 と結愛は話す。

 へー、そうだったんだ。


 すごい家の子だったのかな?

 プライド高そうだったけど、家の話は全然しなかったからわかんなかった。


 そもそも名乗ってくれなかったし。

 

「そうなの?」


「どんな子だったの?」


 なぜか二人から質問攻めにあう。

 「ティル・ナ・ノーグ」にも名家出身の子がいる影響だったり? 


「どことなく結愛に似ていたね」


 プライドは高いけど、世話焼きなところとか。

 理論をもって対話できるところとか。


 責任感が強そうな気配をまとっていたところとか。


「結愛ちゃんタイプか~。いるところにはいるものなのね」


 とハンナがちょっと驚いている。

 そりゃ性格的なタイプで言えば、似ている人くらいいるだろう。


「なら決まりね。リクと同い年の娘がいるらしいし」


 と結愛は言い切る。

 え、何でそれ知ってるの?


「ここまでがリクの計算通り?」


「ははは」


 結愛の質問に笑い出す。

 そんなわけあるはずないじゃないか。


 結愛のジョークは突拍子もないね。

 もしかしたら、彼女のほとんどない弱点と言っていいかもしれない。


 まあ、弱点あるほうが可愛らしいものだよ。




 リクは用があると言って結愛たちと別れる。


「次の布石は名家ということかな?」


 ハンナは移動しながら首をかしげ、結愛を見た。


「おそらくね。名家どもはハンター嫌い、あるいは警戒してるところが多いし」


 と結愛は答える。

 計算通りかと聞いたら余裕の笑いを返してきた。


 何も考えていないようでいて、しっかり布石を打っているのだと二人は解釈する。


「新興勢力はいつだって嫌われるよねえ」


 ハンナはのほほんと言った。


「それに甘露寺家は千年近くの歴史を誇る名家で、【霞会】にも所属しているのよ」


「あら」


 結愛の言葉を聞いたハンナの顔から優しさが消える。


 【霞会】とは世が世なら、皇室の藩屏として権力をふるっていただろう一族の親睦団体だ。


 鷹塚家、十条家、松多良家といった、歴史書に名前が出て来る家系ばかり。


「カノンが荒れるかもね」


 というハンナは言う。

 結愛がうなずき、


「あるいは闘志を燃やすか」


 カノンの本名は六条カノンといい、かつて藤原道長とも政争をくり広げた過去を持つ伝説的名家だ。


「今後のことを考えれば、たしかに【霞会】に食い込みたかったのよね」


 と結愛は言う。


「あそこは閉鎖的だものね」


 ハンナは相槌を打ち、

 

「何も考えてないようでいて、しっかりクランのことを考えてくれていたのね」


 と続けた。


「当然じゃない。わたしたちのボスだもの」


 結愛は幸せそうな表情で応じる。

 

「はいはい。そうですね」


 とハンナは言ったが、表情は同じレベルでゆるんでいた。

 彼女たちは似た者同士である。


 正確には「ティル・ナ・ノーグ」の構成員全員がだろう。


「一応、甘露寺家の娘の調査もしてみようかしら」


 気を取り直して結愛は言った。


「戦力は多いほどいいものね。ボスのためにも」


「ええ」


 二人はうなずき合う。

 

「ところで男性インタビュアーから連絡先を聞かれた話をしなかったのね」


 とハンナが言った。


「彼に話す意味なんてないもの」

 

 結愛は肩をすくめる。

 心配させるなんて駆け引きはくだらないと彼女は思う。


 二人の話は仕事のものへと変わる。


「美羽と凛が【お試し君】が足りないって言っていたんだけど」


 とハンナが言う。


「? わたしじゃないわよ?」


 結愛は怪訝な顔をする。


「となるとボスかな?」


「おそらくね」


 なら問題ないと二人は結論を出す。

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