第3話 令嬢の手習い
この国の良家の子女は8になる年に学校に上がる。
その為7歳になるとその準備を始めるのだ。
貴族の令嬢としての行儀作法に始まり、習字・教養といった上流階級に求められる資質の形成、そしてそれぞれの適性に合った就学前の基礎作り。
いかに我がままなレイチェルとは言えこれは義務であり、拒むことなどできない。
いくら娘に甘い父ダフネス=フォルンコート伯爵とは言えこの点については口を挟む余地はないのだ。
この日メイド長を務めるダリアはようやく訪れた機会に打ち震えていた。
我がままで何でも欲しがり、思い込みの激しい小さな主をようやく矯正する事ができる。もちろん貴族の令嬢として我がままぐらいどうということはない。
だが、ダリアが見過ごせないのは、いや気に病んでいるのは貴族らしからぬ破天荒な行動の数々についてなのだ。
ある時は庭中の植物を甘い果実のなる木に植え替えさせたり、お屋敷の中に飾られた国宝級の置物をわけのわからぬ不細工な動物の剝製に取り替えたり、何度注意しても寝る直前に破廉恥にも下着を脱ぎ捨てたり・・・。
淑女には程遠い日々の行動をどうにか改めさせねば後事を託された今は亡き奥様に顔向けができない。
それに加え最近では隙を見ては厨房に入り浸り料理人達と親し気に会話をする有様だ。目的はどうせ味見と称してのつまみ食いなのだが、格式と威厳をどうお考えなののだろうか。
お嬢様の将来を憂う日々を送っていたのだ。
こうして彼女は厳しい事で有名なお作法の先生に託すことに決めた。
初日。朝食後早速開始した授業で悲鳴が上がった。
「どうされましたか?」気になってレイチェルの部屋の前を行ったり来たりしていたダリアはすぐに室内に飛び込んだ。
「どうしたもこうしたもございません。淑女の挨拶カーテシーについてお教えしていたら、下着が見えそうなくらいスカートを引っ張り上げておしまいになりましたので、スカートを軽くつまむ程度で大丈夫ですとお伝えしたのです。
そうしたら、じゃパーティーの時はちゃんと下着を履かないとダメですわねと・・・。今はその・・・履いてないと仰られたのです。いつものように朝履くのを忘れておりましたと笑っておられましたが・・・・。これでは淑女がどうこう言える状況とは到底言えないのではないでしょうか。この先が思いやられて・・・私の手に負えるかどうか・・・」
先生のお話を聞いて私は顔から火が出るくらい恥ずかしい想いを致しました。
いつもの悪びれない様子で平然と言い放ったのでしょう。
素肌を見せる事すら厭う貴族のご婦人達に万一にでも知られたらどのような目で見られる事か。
されど、ここが正念場なのです。先生にはなんとかご指導いただかねば・・・。
必死に説得を試みるダリアなのであった。
翌日なんとか継続する事となり、授業が始まったお屋敷内に再び悲鳴が響き渡る。
昨日と同じくレイチェルの部屋の前で右往左往していたダリアが慌てて駆け込むと・・・
「ダリア様。大変申し訳ございませんが、私では務まりません。せっかくのお申し出でございましたが、本日をもってご辞退申し上げます。」
先生の決然とした様子に戸惑いながら小さな主に目を移すと、ダリアは思わず腰を抜かしてしまった。
「お嬢様どうしてそのような恰好を・・・。」
なんとスカートの中に下着ならぬズボンを履いていらしたのだ。
スカートをつまむ力加減が難しいからズボンを履いていれば注意されませんわと・・・
このような突拍子もない姿を見れば流石に呆れられるのも無理からぬこと。
こうして令嬢の手習いは早くも頓挫してしまったのだ。
頭を抱えるダリアとは対照的に付き物が落ちたような笑顔を浮かべたご令嬢なのであった。
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