第10話 戦いの日常(2)

「……クソ!痛―!」


 また敵の攻撃を正面から受けてしまった。

 光でまぶしく感じると同時に両腕で防御したから失明などはしてないもののまた体のあちこちをやけどしてしまった。


「――次が来る!急いで移動して!」


 敵からの攻撃の余韻に浸る間もなくサギッタからの第二射が向けられる。


 声が届くと同時に飛びのいたからよかったもののこんなのふつう死んでしまうぞ!

 先ほど僕の体中にまとわりついていたどろどろの気持ち悪いものが僕の来ていた服とともに炭化してやけどした肌にくっついてしまっている。

 これは早くこいつらをぶっ殺して清潔な状態に戻らなくては……


 確かにサギッタの攻撃の威力はとんでもない。

 とっさとはいえ、しっかり身体能力をあげていたのにもかかわらず、僕に攻撃が通ってるんだ。

 もしも不意打ちなんて喰らってしまったら僕は一撃で命を落とすことになってもおかしくない。


「亜樹!亜樹はスクーシムの対処を二体ともお願い!私は残りを引き寄せるから!」


 優衣さんはそう叫ぶと高くジャンプしながらスコルピウスとサギッタの注意を引き寄せる。


「石礫の舞!」


 スターダストと僕のせいであたりにできた大量の石礫を大量に高く巻き上げ、普段僕たちが慣れている重力加速度よりはるかに大きく、加速し僕を含めたスターダストに振り下ろされる。

 この技は一度やると、それにより、さらに石礫を作ることができて、永久機関岩出来上がることらしい。

 それに巻き上げて下すだけ、特に意識せずに攻撃できることがいいのだといっていた。

 だからと言って、僕がいる中でこんなことしても……微妙に痛いや。


 僕も早くスクーシムを倒して援護に行かないと。


「遠距離もないただのフィジカル勝負しかできないような奴なんてただのサンドバックじゃないか」


 僕は地面を蹴り上げ優衣さんに倣ってイシツブテを蹴り飛ばし、ツクーシムに攻撃するが、やはりただの石礫では脆すぎるのか接触した途端、粉々に砕け散ってしまう。

 だが、そんなこと承知の上だ。

 僕に注意を引き付けれさえすればそれでいい。

 優衣さんが命を張って作ってくれている時間で僕は能力的に相性のいいこいつらと戦うことができるんだ。


 何か一つの失敗でも命の危機に瀕する可能性が高い。

 一軒家二軒分ほどの体積のスクーシム。

 体中は分厚そうな外骨格で覆われ、サイのような太い角を備え付けたシンプルだが、それゆえ恐ろしいスターダスト。

 だが、僕の敵じゃない。

 遠距離攻撃の一つでも備えていれば、僕も遠くから鋼球を使ってちまちま攻撃しないといけなかったけど、機動力も、純粋な力も僕に劣る相手をただ殺すだけ……


 素早くスクーシムの外骨格の端に手をかけ、引き千切るように力を籠めればメロンパン外側のように大きく一枚の外骨格がスクーシムの体から引きちぎられていく。

 僕の体よりもはるかに大きなそれを持ち上げると、僕に向かって走って向かっているもう一体のスクーシムに向かって投げつける。

 僕が引き離した外骨格の下からどろどろとした気持ちの悪い液体がこぼれ出てくる。

 そこへ僕は力を込めてその液体ごとスクーシムを殴りつける。


「グゥゥァァアアアァァ!!」


 僕が殴りつけると同時にツクーシムの体が破裂したかのように飛び散っていく。

 そんなこと、僕の力からしたら当然の結果だ。

 僕のパンチの結果などには目もくれず、僕はもう一体のツクーシムに突っ込む。

 僕に向かって突進をしていたツクーシムに投げつけたもう一体のツクーシムの外骨格がぶつかった部分には亀裂が生じていた。

 そこに向けての渾身の飛び後ろ蹴り。

 当然のように爆ぜた。

 僕が僕の圧倒的な身体能力を用いて密かに練習していた必殺技。

 披露する場所があってうれしい。

 


 優衣さんの重力操作は自身にかかる重力や、対象にかかる重力を自在に変化させることができる。

 自身にかかる重力をゼロにし、辺りに発生した瓦礫を宙に浮かせれば即席でアクロバティックな動きを可能にすることができる。

 見ているだけで目が回るような動きをしているにもかかわらず、絶え間なく殴りかかったりしている。

 縦横無尽に空を駆け巡り、背後から一瞬だけ拳に大きな重力をかけ、殴りつける。

 これをやられてしまうとこれまでの人生、力では負けたことがなかった僕でも敗北という文字が頭によぎってしまう。

 いくら重い拳でも僕の力ならきっと耐えきることができるとは思うけど、僕は長期戦にめっぽう弱い。


 すでに僕の普段は立派な骨格に分厚い筋肉とそれを覆うようにして積まれてある脂肪が、脂肪が燃焼されてしまい、ただの筋肉質なイケメンになってしまった。

 今の僕ならボディビルの大会に出るにはバルクが足りないが、合コンで服を脱いだとしたら細マッチョとして通じるだろう。

 スターダストたちも当然のように優衣さんの動きについていくことができない。


 このまま僕が何もしなくても時間の問題のような気がする。

 だけど、そんなことをしてしまってはせっかく僕を仲間として誘ってくれたのに二人のソロが戦っているだけになってしまう。

 僕は援護をしてもらってるけど……

 優衣さんが相手をしていたスターダストの数は五体。

 どの個体も不公平にならないようにと同じようにダメージを喰らっている。

 ここはどうやって動くのが正解なのだろうか?


 とりあえず、一撃一撃攻撃してきて、不確定要素の少ないサギッタは放置してあたり一帯に毒をまき散らしているスコルピウスから狙おう。

 優衣さんはランダムに飛び回っているように見えるが、同じようなダメージ量になるように調整しながらある程度規則性がうかがえる。

 実際に攻撃を受ける側にはとてもその規則を理解する余裕はないかもしれないが、客観的にみているからこそわかる。

 スクーシムを殴り倒す際に地面に置いていた鋼球はすでに拾い上げている。


 どうしたものか?

 練習で振り回していた分には使いやすい武器だと思っていたが、実践で使うには僕のせっかちな性格には振り回すための時間のロスがとても惜しい。

 それに持ち運びがとても面倒だし。


 今後はあまり使おうとは思えない武器だ……そんなことを思っているからだろうか?


「オラァッ!」


 僕がこの鋼球をとても雑に扱ってしまうのは。

 僕は鋼球に取り付けられた鎖を握らずバレーボールのジャンプサーブの要領で鋼球をスコルピウスに向かってたたきつける。


 ――ドギャンッ!

 隕石でも落ちたかのように出来上がったクレーターの周りにはスコルピウスであった残骸がまき散らされている。


「……これはもう鋼球は回収できないな」


 優衣さんは突然の大爆発に驚きながらも残りのスターダストから目を離さない。




 十分後、僕たちは八匹のスターダストと戦う前の恰好をして近くの飲食店で二人話し合っていた。

 僕が身体能力を強化するためには大量のエネルギーを消費してしまい、戦いの後は何も話ができなくなってしまうほどお腹が減るので、自然と戦い後即食事という習慣がついてしまった。

 戦いで負った怪我についてはだんだんと慣れてきて、病院に行くよりも食事のほうが今では優先事項となっている。


「お疲れ、亜樹君。一週間毎日スターダストと戦うなんてなかなか体験できることじゃないよ。私自身初めて」


 僕がスターダストと戦うことはどんなものか体験させてくれるために出現した場所には県外でも走っていくようにしていたからか、僕はこれまでの人生で経験のしたことないレベルで体がガリガリに痩せこけてしまっていた。

 戦うことでただでさえエネルギーを消費するが、移動で消費するエネルギーについても馬鹿にはできない。

 いくら特殊体質の僕とは言え、今日みたいに身体能力を上げ続けていればこれまで蓄えていた筋肉まで分解するほどのエネルギーが消費されてしまう。


「僕もここまで肋骨が浮き出るようになるのは初めてですよ。もともと脂肪や筋肉が付きやすい体質でしたから……」


 僕たちがいるのは僕が最初スクーシムに飛び蹴りをした際に大きな被害をもたらしていた大人気ハンバーガーショップだ。

 こういったハンバーガーショップはセットメニューでもとても僕のお腹を満たすことができるようなものではないが、一度にたくさん注文できるし、繰り返し並べばさらにたくさん買い込むことができる。

 食べ放題店で大量に食べることもいいが、その場合は僕が出されている料理を根こそぎ食べてしまうからさすがにお店やほかのお客さんに対して罪悪感が沸く。


 問題は僕に大量の領収書が届くことだが、これに関しては今は優衣さんに遠慮なく立て替えてもらっているけど今後僕がコスモスに所属すれば経費として援助してもらえるらしい。

 これがあれば僕は今では不健康な食事でも量を優先しているが、健康的な食事を大量に摂取することができるようになる。


「それは羨ましい!私もこんな生活をしているからもっと筋肉をつけたいんだけど全く身にならないから最近諦めてるよ」

「羨ましいことないよ。優衣さんにはすでに完璧な外見があるんだから」

「完璧だなんて……それほどでも……ありますけど」


 この言葉のチョイス久々に聞いた気がする……

 そんなことを言うと優衣さんは照れたようにニコニコしながら恥ずかしがっている。

 そんな様子に僕の心が締め付けられているかのように心臓が高鳴る。


「それに筋肉がついてしまうと今ある最高のプロポーションが崩れて逆に弱くなってしまうかもしれないよ」


 これは……自虐か?

 困った……僕は学校では僕の会話下手を理解してくれている友人たちが、適当な相槌で何とかなるような話題を出しつ図けてくれるから何とか楽しい会話が継続するけど……自虐ネタが出された時の対処法なんて知らんて。


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