【第三十話】繋がる現在
昔語りは幕を閉じ。記憶の階層は、緩やかに昇り始める。
幾重もの出来事の地層を抜け、遠い昔の影を置き去りにして――昇り切ったその先。再び、現在の時間軸へと舞い戻る。
「――まァ、こんな所だ。へッ、気付きゃ随分と長々語っちまったなァ」
話を結んだ遮楽は、傍らに置いた水筒の残りを一気に呷った。大きく息を吐き、口の端を拭うと、隣へニヤリと笑みを投げかける。
「さて、どうだったい? お嬢さん。あっしが旦那の用心棒やってる理由……これで納得いったかねェ?」
「……そうですね……」
問われたシグレは、神妙な顔つきで言葉を探すようにゆっくりと答えた。既に食べ終わっている数本の木串を、手持ち無沙汰にくるくると指の腹で弄ぶ。
昼を過ぎたミレクシアの広場。石畳には草花の影が短く落ちていた。行き交う人々の声や足音は混ざり合い、穏やかで温かな喧騒となって村を満たしている。
「確かに、命の恩人というのも大げさではなさそうです」
「ただ命を救われたってだけじゃねェさ。暴れ回る事しか知らねェで、終いにゃその意義すら失っちまってがらんどうだったあっしに、新しい生き方をくれたんでさァ。生まれ変わったも同然だぜ」
軽く笑い、遮楽は一度座り直した。胡坐に組んだ足へ一度顔を落とし、そして前を向く。何気ない仕草の奥に、滲む感慨と想い。
「旦那はなァ。頭は良いみてェだが、如何せんそそっかしくていけねェ。一度決めりゃァ猪突猛進。時に見てるこっちがヒヤヒヤするぐれェ危なっかしいんでさ……だが、向こう見ずってのは時に恐ろしいモンでねェ。絶望のどん底で無様に這いつくばってたあっしの手を取って、無理やり光差すほうに引き上げちまうほどの何かが、あん時の旦那にはあった」
そこで言葉を切り、おもむろに布の上から目の傷に触れた。そよ風が背に垂れた布の端を僅かに持ち上げ、シグレが心持ち目を細める。
「するとどうだい。あんだけ打ちひしがれてたってェのに……立ち上がっちまったらもう、歩くしかねェじゃねェか。今あっしがこうしていられんのも、そのお陰って訳だ」
言葉の余韻を噛みしめるように、彼はしばし黙した。広場に差す陽の光は、布の影に隠れた彼の表情を淡く縁取る。そして続けられた声音は、飄々とした調子を含みつつも、どこか真っ直ぐであった。
「だからな、これを言うと旦那は必ず否定するが……あっしの命はもう、旦那の預かりだと思ってんでさァ。残りの生涯、その恩義に捧げるつもりだ。それは今も変わらんぜ」
「それで、あの人の傍に……ふぅん、これまた随分と義理堅いじゃないですか」
肩を竦めたシグレが、片眉を上げて遮楽を見た。言い方は茶化すようでもあったが、そこにほんの僅か、理解に似た温度が混じる。
「ハッ……止せやい。褒めたって何も出て来やしねェよ」
対する遮楽も鼻で笑い、至って冗談のような軽さで返す。二人の間には、過去を共有した者特有の、妙に静かで複雑な余韻が漂っていた。
******
「……じゃあ、この村は遮楽と一緒に作ってきたものなんだね」
一通り話を聞き終えて、あたしはカップを置くとそう言った。底に少しだけ残った紅茶の表面がふるりと揺れる。
「そう。やはり私自身が人間ということもあって、一人だと警戒されてね。保護村と言っても異種族の方々に心を許してもらうのは難しかったから、遮楽が窓口になってくれて本当に助かったんだ」
柔らかく微笑みながら、向かい合って座るクローヴィスさんが答えた。
「それにしても……」
「ん?」
「話に聞いてたらクローヴィスさん、ひょっとして結構無茶するタイプ……?」
「ははは、いやぁ今にして思えば色々と命知らずだった。若気の至りというのは恐ろしい物だよ」
痛いところを突かれたという風に、頭に手をやりながら笑う。そういう仕草はやっぱりどこかお茶目で、堅苦しい研究者のイメージがちょっと遠のく。
「……希望の憩う郷、かぁ……」
一拍間を置いて、ちょっと上を向きながら、あたしはしみじみと口にした。
「きれいな名前の村だなぁって思ってたんだけど、そんな意味だったんだ。なんか……いいなぁ、こう……困ってる人の最後の砦? みたいな感じがして」
この表現が合ってるのか分かんなくて、曖昧に笑いつつ言ったけれども、クローヴィスさんは頷いてくれた。
「そうだな。差別や迫害から逃れて来たり、何らかの理由でまともに暮らせなくなった者達が、安住の地を求めて流れ着く……。此処は、まさしく困窮者達の最後の砦であり、また前を向ける再出発の場所。そう在りたいね」
「そうありたいっていうか……もうなってるんじゃない?」
あたしは窓の外を見て言った。
「ここの村の人達みーんなニコニコして、優しくて、すごく楽しそうだもん。種族がどうのこうのって、そんなのちっとも気にしてなくてさ、仲良しで……。クローヴィスさんが昔から目指してたのって、こういうのでしょ?」
「そう言って貰えるのは嬉しいな」
優しく言ったクローヴィスさんがそっと立ち上がると、壁際の棚に移動する。そこに置かれていたのは、手作りと思わしき、小枝や木の実を組み合わせたブローチ。色や形もバラバラな素材が、ひとつの輪っかにまとめられている。周りの堅苦しげな本や魔道具に比べるとちょっとだけ浮いているそれは、ひょっとして村の子供達のプレゼントなのかな? 愛おしそうに指先で触れながら、彼は静かに続けた。
「だが、まだ始まりに過ぎないくらいだよ。この共存が広まってくれれば、私達の生きる世界は、きっとより良い物になる。理想論だ綺麗事だと散々言われてきたが……この村に出来て、他が出来ないだなんて、そんな道理は無いだろう。異なる者を、異なるままで受け入れる。それが、そこまで不可能に思える事かね?」
生真面目な言い方は、あたしと自分、両方に言い聞かせるようだった。振り返ったその顔に浮かぶのは、朝の授業で見たのと同じ、真っ直ぐで落ち着いた表情。
「先程の話の中でも言ったが、恐怖という感情は多くの場合、無知の裏返しなのだよ。確かに彼らは我々と違う特徴を持っている。鋭い爪や牙を持っていたり、生まれついて力が強かったり……」
腕を組んだクローヴィスさんは、指先をあごに当てる。唇やあごを触りがちなのは、喋る時のクセなのかな。
「だが、それが敵である事とイコールではないだろう? それなのに恐れてしまう。相手について何も分からないから、違う事を恐れてしまうんだ。いつか、自分たちが害されるんじゃないか……そういった根拠も無い恐怖が、在りもしない敵を彼らの内に作り出す。言わば、虚像の怪物をね」
「きょ……ぞう、の……」
ちょっと難しい言葉に気の利いた返答なんて思い浮かばなくて、あたしはただぎこちなくオウム返しするだけ。でも、言いたいことは何となく分かった。それを伝えるためにこくこくと首を縦に振れば、クローヴィスさんは褒めるかのように微笑む。机に両手をついて、あたしと目を合わせた。
「そんな怪物だが、対処する方法は、剣でも魔法でもない。触れて、知って、理解し受け入れる事だ。無暗に傷つけ合っていたのでは、永遠に消えはしないとも。本来ならば手を取り合えるにも関わらず、だ」
「……クローヴィスさんと遮楽みたいに、だよね?」
「ふふっ……本当に君は人を喜ばせるのが上手だな」
照れたように下を向くクローヴィスさん。
「――そう。本来は、争う必要なんか無い筈なんだ」
こつん、と机を一つ叩く指先。
「それなのに……何故」
「……ん?」
それまで柔らかかった彼の声が、ふと、曇ったように少しだけ低くなったことに気付いた。顔が横を向いて、視線がどこかに向けられている。
なんとなく追ってみると、テーブルの隅に無造作に置かれた紙があった。
何あれ……チラシって言うより、新聞? 薄茶色の紙に、びっしり文字が印刷されてる。さすがにこの距離じゃ読めないし、折りたたまれてるから細かい内容は分からないけど、紙面の左右に書かれた見出しが微妙に見える。
――ター発生――を強行。
――和に暗雲――攻の懸念高まる……?
ダメだ、これだけじゃ何の記事だか。
「ああすまない、みくる君」
よく分からないまま目を凝らしていたら、ふと気付いたようにクローヴィスさんが声を掛けてきた。
「紅茶が無くなってしまっていたな。おかわりは要るかね?」
「えっあっ、ううん大丈夫! 美味しかった!」
それなら良かったと言いたげに笑うクローヴィスさん。そしてもう一度対面の椅子に座ると、指を組んであたしを見る。その目は興味深く覗き込むようだった。
「それにしても、みくる君は聞き上手だな。ついつい長く話し込んでしまったよ……。私の話ばかりするのも申し訳無いし、君の事も聞きたい物だね」
「えぇっあたしぃ!?」
いきなりパスを回されて、思いきり焦った。そ、そう言われても何があるかな……!?
最近ハマってるマンガとかソシャゲの話……がこの世界の人達に分かる訳ないし……学校の話も、完全に内輪ネタだし。お兄ちゃんの作ってるゲーム……いやいやそれこそトップシークレットってやつでしょ!?
「そっ、それじゃ、何かトークテーマちょうだい! あ、先に言っておくけど一応NGありまーす!」
あたしの正体とか、どこから来たのかとかに触れられても困るので、手を上げて予防線を張りつつ答えた。するとクローヴィスさんは思案顔で口を開く。
「そうだな……それでは、昨日君達もアムルーナの森へ偵察に行っただろう? 遮楽から進展無しとは聞いているが、一応君からも聞いて良いかね? 違う視点が有れば、また新しい何かが見えてくるかもしれない」
「それならいいけど……でも、多分クローヴィスさんも知ってることばっかりだと思うんだよね。あの赤くて気持ち悪いアメーバとか、瘴気的なのとか」
「何か些細な事でも良いんだ。君の目に気になる物は映らなかったか? ……いや、あの森は何もかも異常尽くしだったな」
自分で言ったことをすぐ打ち消して、額を手に当てると唸るクローヴィスさん。
「うーむ……やはり真新しい発見も難しいか。何せ、森中の全てがすっかり枯れたような場所では……せめて一部でも、無事な所が有れば良かったのだが……」
悩む声を聞いて、本当にね……と当たり障りのない相槌を打とうとして。
(……!!)
直前のセリフを受けたあたしの脳内に、ビビッと電流が走った。思わずあっと小さな声が洩れて、目を見開く。
そうだそうだ……思い出した!
「いや、あったよクローヴィスさん! 全部じゃなかった!」
「む?」
弾むあたしの声を聞いて、クローヴィスさんが顔を上げた。
「あのね、月詠草って知ってる?」
「月詠草? あぁ、知っているとも」
頷いた彼の目が少し細まる。
「月の綺麗な夜に咲く、可憐で美しい花だ。薬の材料にも使われるな……。そういえば、アムルーナの森にも生えていたか。それがどうかしたかね?」
「これがさ、不思議だったんだけど」
あたしは夢中で話した。真っ赤な異変に埋め尽くされて、何もかもが枯れた森。そのただ中で、唯一きれいな姿を保っていた花のこと。あとでアンネから、それが月詠草だと教わったこと。
「そうそう、それでね。月詠草って月の魔力を宿してるって言われてるんでしょ? それが何か関係してるんじゃないかって、オルフェが言ってた」
「成程……それは確かに……」
腕を組んで、ゆっくりと天井を見上げたクローヴィスさんの口が、ぶつぶつと動いた。
「月詠草……月……聖なる力、退けられる瘴気……」
それからしばらく、一人の世界に入り込んだみたいに呟き続けていたんだけれど。
「……はっ……!?」
――いきなりその目に力が戻って、体を強張らせた。
「……そうだ……となると……!」
「え?」
すっかり置いてきぼりなあたしの反応をよそに、クローヴィスさんはパッと立ち上がると、別の机の上に置いてあった手帳とペンを慌ただしく持ってくる。そして開くのももどかしげにそれを広げて、立ったまま大急ぎで何か書いた――と思ったら再び考え込んで、また書いてを繰り返す。
付いていけずにぽかんとしていると……彼はフッと顔を動かして、いきなりこっちを見た。
「みくる君。ひょっとするとお手柄かもしれない」
「はへっ!?」
唐突に落ち着きを取り戻して、あたしの側まで歩いてくる。ペン先であごをつつきながら、静かに口を開いた。
「あんなに荒れた森で、月詠草だけが無事だった事が、まさか偶然ではあるまい。となると、それは何故か……君達の見立て通り、可能性として一番に浮かぶのは、この花が有するとされる月の魔力だ。これは素晴らしい着眼点かもしれない。そして、奇遇な事に……」
言いながらまた移動したクローヴィスさん。今度は地図を持ってきた。この村の周辺地図みたいだ。
「月と言えば、深く関係する場所がこの近くに存在するんだ」
ペンをとある場所に走らせる。赤く丸が付いたそこは――
「湖?」
「その通り。セレフィア湖と言ってね。この湖には“聖月の大精霊”が祀られているという伝説があって……あぁそういえば、大精霊の話は今日の授業の中でも少しだけしたな。創造主が生み出した、精霊達を統率する役割を持つ存在……覚えているかね?」
「えっと、うん、何となく」
あたしの返事によくできましたと言うように頷いてから、彼は言葉を続けた。
「その大精霊の名はセレフィエル。湖の名前の由来にもなっているんだ。そして、この湖自体が聖域とされていてね。月の聖なる力が森の異変に有効ならば……この場所こそ、何か解決のヒントになるかもしれない。調べる価値は大いに有りそうだ」
ひとしきり喋って、ふうと息をつくクローヴィスさん。そして優しい眼差しであたしを見つめた。
「素晴らしい……本当に素晴らしいよ、みくる君」
「い、いやいや! そもそも月詠草を最初に見つけたのはリーリアだし、月の力が関係してるかもって言ったのはオルフェだし、あたし何もしてないよ!?」
「そんな事は無いとも」
柔らかいけれど、確信めいた声音で言う。
「今、君が話してくれた事で私は気付けたんだ。君の存在無しでは、起こり得なかった事だよ。是非、お礼を言わせて欲しい」
「え、えへ……そっかな……」
真剣に言い切られるから、それ以上遠慮も否定もできなくて、あたしは頭をかきながら小さくなった。
すると一度目を伏せて、クローヴィスさんが地図から手を離すと一歩下がる。
「……セレフィア湖ならば、丁度私も採取したい植物が有って、近々赴こうとしていたんだ。こうなるとすぐにでも行きたいが……今はジタン君の具合が悪くて、動けないのだったか。ひとまずはみくる君、今夜パーティーの皆にこの事を伝えてくれないかね? 明日辺り、一緒に行ければありがたいのだが」
「うん、話したらきっと行こうって流れになると思う! これで何か進むかなぁ」
「ああ、きっと……何かしら得られる。希望を持って信じようじゃないか」
まあメタ的に考えても……新しい場所に行って何も収穫無しとか、そんなのありえないに決まってる。それにお兄ちゃんがこの会話に何も反応しないとこからして、セレフィア湖に行くのはシナリオに織り込み済みの展開っぽいし。って、この予想の仕方はちょっと反則かなぁ……?
……すると。
「やっほーぅ!」
鍵の掛かってない裏口のドアが開いて、元気な声が飛び込んできた。見ればリーリアだ。
あ、そういえば裏庭で魔法の練習するってことで一人残してきたんだっけ……。
「みくる! みてー! 花かんむり、じょうずにできたの!」
ご機嫌で突き出した手には、シロツメクサみたいな花で編まれた冠が下がっていた。ふと視線を彼女の後ろに向ければ、二人くらい女の子がいる。この子たちに教えてもらったってことなのかな?
「リーリア……さては魔法の練習飽きて遊んでたね?」
「ちがうもーん! できるようになったからあそんでたんだもん! おじちゃんあとで見てね!」
「はは、勿論。練習の成果が楽しみだ」
急に賑やかになった場を面白がるように笑うクローヴィスさん。
「でもリーリア、いいとこに戻ってきたね。次の目的地、多分決定したよ」
「ふえ?」
きょとんと小首を傾げたリーリアの、丸い目がさらにまん丸になった。
……それから少し時間が経って、その日の夜。
「……んだよ話ってよぉ。手短に頼むぜ……」
ぐでっと壁にもたれたジタンが、全く乗り気じゃない声で言う。
ここは宿屋の男子部屋。みんなと話すのに、夕食を食べた広間でもよかったんだけど、ジタンがこんな調子で部屋から出てこないので、シグレやリーリアと一緒に押しかけた。
「何やらみくるが、アムルーナの森攻略の糸口を掴めるかもしれないと言い出しましてね」
「ほぉ。なんか分かったんか」
シグレの言葉で、椅子に腰掛けたオルフェが興味深そうに身を乗り出す。
「あのね、今日はリーリアとクローヴィスさんの家に遊びに行ってたんだけど、そこでさ――」
あたしは早速、昼間の話をみんなに聞かせた。
「――ってことで、セレフィア湖に行けば、アムルーナの森の奥地まで進む手掛かりが見つかるかもしれなくて」
「そがぁな場所が近くにあったんか……大精霊を祀る湖。確かに気になるわい」
真剣な表情で頷くオルフェ。
「クローヴィスのおじちゃんも、いっしょに行きたいって!」
その隣でリーリアも羽をぴこぴこ動かす。
「へへっ、コレ結構大きな情報でしょ? 君のお陰で気付けたって、あたしクローヴィスさんから褒められちゃった!」
「何を浮かれてるんですか、まだ何かあると決まった訳でもないのに。喜ぶなら何か見つかってからでしょう」
「えーっ、でも手詰まりよりアテがある方が断然イイじゃん。ねぇ?」
冷めたことを言うシグレにそう言い返して、あたしは隣のオルフェに同意を求める。
「…………」
でも、彼はなんだか難しい顔で、下を向いて考え込んでいた。さっきの会話も聞こえていなかったのか、無反応。
「……オルフェ?」
「んっ? お、おぉ。すまんのぉみくる、ちぃと考え事しよったわい」
不思議に思ったあたしが声を掛けると、ハッとして苦笑を浮かべる。
「何です? 気になることでも?」
「いんやぁ……気にせんで。これで進展があるとええのぉ」
シグレの怪訝そうな声にも、軽く手を振ってやんわり言っただけ。うーん? なんかオルフェらしくない反応。
「おい……まさかそれ今から行くとか言わねぇよな?」
首を傾げていると、横合いからどんよりした低音が投げかけられた。起き上がる気なんかこれっぽっちもありませんという姿勢で、ジタンがこっちに視線だけ寄越している。朝見た時からテンションが全然変わってない。
「だから明日だってば。というか今からって言ったって無理でしょ。もー早く元気になってくれないと困るよ?」
「そんならゆーっくり休まねぇと無理だな。報告は済んだろ? もう寝ていいか?」
「今日一日寝てたくせに……」
あたしのジト目も気にせず、手近なクッションを引き寄せて、まだ答えもしない内から寝そべり出した。これホントに一晩で復活できる?
「……ま、ダラダラしてるようなら尻を蹴り飛ばしてでも連れて行けばいいですよ。こんな木偶の坊」
呆れ顔で言い捨てるシグレ。
「まぁいいや。じゃあそういうことで、オルフェもよろしくね」
「勿論じゃ。明日に備えて早めに休みんさいね」
その言葉を締めの合図に、あたし達女子組は部屋を後にした。
ひとまず、明日の予定と目的地は決定。あんまりうかうかもしてらんないよね。何か発見がありますように!
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