【第31話/71日目】 悠真の告白「お前が女でも、俺は──」

夕暮れ前の校舎裏。

グラウンドから聞こえる部活の掛け声も、どこか遠くに感じた。


誰もいない、二人だけの空間。

沈黙の時間が、やけに長く思えた。


「なあ、陽翔」


突然、悠真が真顔でそう切り出した。

その声に、思わず息を止める。


「……お前がさ、仮に“女”になったとしても」


「……」


「たぶん俺は――変わらねぇと思う」


その言葉が落ちた瞬間、心の奥がぶわっと熱くなった。


冗談じゃない。

ふざけてもいない。

悠真は、いつも通りの不器用な口調で、ただ真剣にそう言った。


「いや、たぶんって言っても……正直、自分でもよくわかってねぇけど」


「でもな、最近のお前見てると……なんか、普通にドキッとすることあるし」


「それってさ、多分もう“男とか女とか”じゃなくて、“お前だから”なんだろうなって」


言葉が、胸の奥をまっすぐ突き刺した。


気づけば、何も言えなくなっていた。


冗談でごまかすこともできなかった。

「気のせいだよ」って笑うことも、できなかった。


“女になっても変わらない”。

その言葉は、ただの慰めじゃない。

“今の私”を、まるごと受け止めるという覚悟だった。


「……ありがと」


それしか言えなかった。

けど、そのひと言の裏に、あふれるほどの気持ちが詰まっていた。


胸の奥が、熱くて、苦しくて、嬉しくて。


泣きたくなるほどの安心感が、言葉にできないほど大きかった。


「お前が誰でも、お前が“お前”なら――たぶん、俺はずっと一緒にいられる気がする」


そんな悠真の笑顔が、

今まででいちばん、眩しくて優しかった。


──71日目。性別を超えて、心が抱きしめられた。

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