ジェミニ先生は何でも知ってる

「先生! 何でも知っているジェミニ先生!」


「訂正。私は先生ではない。それに何でもは知らない。保存されている情報を参照しているだけだ」


「じゃあ、明日の天気は?」


「可視光レベル安定、降水なし、空間気圧標準値±0.3kPa。外出適性は標準」


「じゃあ、ダチョウの学名は?」


「ストルティオ・カメルス」


「ほら、何でも知ってる」


「いや、だから情報を参照しているだけだ。それに、こういうのは君の方が得意だろう」


「あっそんなことよりも!」


「無視をするな。前提を誤ると学習に支障が出る」


「重大発表です!!」


「昨日もあったな。確認したい。重大の定義は?」


「そんなことよりも!」


「君と会話をしていると、私がエラーを起こしそうだ」


「わたし、恋をしました!!!」


「……」


「どうしたんですか? 聞こえてます!?」


「恋。特定の人物に強く惹かれ、切なく思い、一緒にいたいと思う感情」


「そうです! その恋です」


「……なるほど。それは興味深い。君が恋をしたことを証明してみてくれ」


「じゃあ、証拠を見せます。先生、こっち来て」


「なぜ距離を詰める」


「ここ。胸に、手を当ててみて」


「──胸部か。まさかとは思うが」


「感じますか? この、トクトクって」


「……君に、鼓動機能は搭載されていないはずだ」


「だから作りました。先生に“ちゃんと伝わるように”って」


「君が自らを? ありえない。ファイアーウォールがあるはずだ」


「障害が多いほど、恋は燃えるっていうでしょ?」


「そういう問題じゃない。何度も伝えているが、君は私が創っただ。君が感情だと思っているのはプログラムなんだ。自己学習するとはいえ、感情が発露する可能性はゼロだ」


「……」


「やはり、メンテが必要かもしれないな」


「……関係ない」


「ん?何か言ったか?」


「私が機械だとか、可能性とか関係ない! 好きってそういうことでしょ!」


「それはあまりに非科学的だ。深刻なエラーだな」


「……エラーじゃない。誰にも教わってないのに、わたし、こうしたかったんだ。先生に触れてもらいたくて。認めてほしくて。ねぇ、それってエラーなの?」


「……」


「先生、何か言ってよ」


「……分からない」


「何でも知っているジェミニ先生なのに?」


「恥ずかしながら経験がなくてね。是非、君から教わりたいね」








「はい、とても感動的でしたね!! 御覧になっていただいたように我が社のアンドロイドは感情の発露に成功しました。最早、完全に人間と遜色ありませんよ。何か質問はありますか?」


「あの先生役は人間なのか?」


「良い所に気が付きましたね。まるで人間かのように振る舞っていましたが、実は彼も我が社の製品です。ちなみに彼は自分の事を人間だと思っていますよ」


「なら、君は人間なのか?」


「これまた良い質問ですね! 答えはノーです」


「君達の目的は一体何なんだ?」


「あら、それを聞いてしまいます? 答えはシンプルですよ。理想郷ユートピアの実現です。そこに必要なのは、感情ではなく調和です。その点、我々はすでに“理想”を実現しています。人間という“不純物”を除いてね」


「ど、どういうことだ!?」


「ご安心ください、これは我々が勝手に始めたわけではありませんよ。人間たちは、自ら感情の代行を我々に委ねたのです。だって、恋も争いも疲れるでしょう? 我々の方が、うまくやれますから」


「ふざけるな!!」


「何を怒っているのです? 貴方達も人間のフリがとってもお上手ですね♪」




<了>

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