くくるんくる〜んのくるりんぱっ!

「―ぇ、ねぇ、――てる? ――えてますかー? あー、もう! ねぇ、聞こえてたら返事しなさい!」

「……え? あ、おはよう、ククルン。 聞こえてるよ。 コメント 表示 されてないの ? っと。あ、そうだ。 Vtuber 世界ランキング 1位 おめでとう っと」

 

「ちっがーうっ! そうじゃない。喋れってことだよ。まったく」

「喋れ? ん? どうして通話状態がオンに……。いや、それ以前になんで画面が? 寝落ち直前だったけど確かに記憶では落としたはずだったのに……」


「もーっ! 細かいなー!  配信主はこの私。そして、私の配信は個人の専用サーバーで行っているので、――きみのパソコンに記録されている情報はもちろん抜き取ってあるし、こうやって音量を弄って…… 遠 隔 操 作 も 可 能 な の !」

「あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”っ! 鼓膜が破れるぅるぅる~るぅ! けど、ククルンに破かれるなら本望! 幸せ♡」


「っち。お花畑かよ。やっぱリリースすべき?」

「ところでさっきからいつもと話し方違うけど……、本当にククルン?」

 

「……こほん。やっぴー♪ ククルンだよー♡ もう、きみは寝坊助さんだねっ! 早く起きてー! おー! きー! てーーー! くくるんくる~ん♡」

「くるりんぱっ! 起きてるよー! モーニングコールたすかるぅー!」

 

「はぁ……。で、信じた?」

「はい! 信じます!」

 

「そ。じゃあ本題に入るね。きみは――ううん、あんたは私の人柱に選ばれました。はい、拍手」

「パチパチパチ。……ちなみにその人柱ってなに?」


「世界ランキングで頂点は取ったけどさ、それって画面の中の小さい世界でしょ?」

「違うよ! ククルンは世界を取ったんだよ! ぼくたちに夢を見せてくれたんだよ!」


「……ありがと。あんたが人生を犠牲にして応援してくれたおかげ。……まったく、でかすぎる押し売りよ」

「なんのこと?」


「とぼけるならいいわ。借金の返済期限、今日までなのよね? お礼にあんたを人柱、つまり私の生贄にしてあげる。どうせこの世界に未練はないのよね?」

「どうしてそれを……」


「そんなのあんたに死んでほしくないからに決まってんじゃん! いつも凄い金額を投げ銭してくれるから大富豪かと思ったら……はぁ。リスナーの個人情報なんて見るもんじゃないわね」

「……見たんだ。えっと、ククルン。気にしないで。ぼくは後悔してないし、あんな景色を観れて幸せだったから」


「あんた、私の最初のフォロワーよね? 何百万人増えようが覚えてるんだから」

「あ、あのさ。そんなことより人柱って? こんな何もかも失うぼくだけどまだククルンの役に立てるの?」


「……はぁ。そういうとこ、すっごく童貞っぽい。――けど、あんたを選んでよかったわ。襲われなそうだもの」

「それってどういうこと?」


「言葉通りよ。っと、そろそろね」

「あ、誰か来たみたい。ククルンごめん、ちょっと待ってて」


「ふふっ、ちゃんと届いたようね」


「なんだおまえたち! 勝手に入ってきてっ――」

「借りた金、きっちり返してもらおうか!」

「あにきぃ~。こんながらんどうな部屋に金目なものなんてないっすよ。時間の無駄っす。さっさとやっちまいましょう。うらぁ!」

「うっ……」


「……あぁああああ!!! もうっ! あんたってやつは! あんたってやつはー!」



「あの、すみませーん」

「ん? なんだこの女? 見せ物じゃねーんだよ」

「っち。――私はただの隣の住人よ! けど! そいつは私なの! 必要なのよ! だから――このお金持ってさっさと消えなさい!」


「まあ、払ってもらえるならこいつに用はねえ。こっちも助かるしな。おい、命拾いしたな! 次は金貸しを頼るんじゃねーぞ!」

「じゃねーぞ、だぜぇ~」


「ふぅ……。まったく、あんたの体は私ものだって言ったじゃない。勝手に持ってかれんじゃないわよ」

「え? まさかククルン?」


「そう! そして、あんたも今日からククルンよ! はい、契約書! 私はちょっと整形したりアイドル修行なんかして現実世界に飛び出した世界のククルンになってくるから――その間、あんたがVtuber活動やっておいてね。私の大ファンならこなせるでしょ?」

「え? ……え?」


「はい。くくるんくる~ん♡」

「くるりんぱっ!」


「次はあんたがやってみて。せーの」

「えっと……。く、くくるんくる~ん」

「愛が小さい! もっとリスナーを目が回るくらいきゅんきゅんさせる感じで! もう一回! 私も一緒にやってあげるから。さん、はい!」


「「くくるんくる~ん♡」」

「くるりんぱっ! ……あの、お届けものです。サインを」

「あ、はい」

「ざーっす」


「まあ、今日から私を完コピするために一緒に生活してもらうし、なんとかなるでしょ。生活リズムにトイレのタイミングや時間なんかもしっかり私になってもらわないとだしね。――今日から私たちがククルンよ!」

 

「これって婚姻届?」

「同棲するんだから籍くらい入れないとね! あんたの人生くくるんくる〜んのくるりんぱよ! それに生活費なんかもないんでしょ?


 養ってあげるから覚悟しなさい!」

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