「カクヨム甲子園2025」の作品を読んで:ロング部門

snowdrop

傾向と対策

◆歴代の受賞作の傾向


『ロング部門』

・大賞

 二〇一七年 高校生の恋愛

 二〇一八年 現代ドラマ・過去回想

 二〇一九年 現代ドラマ・青春もの

 二〇二〇年 恋愛×ホラー・異類婚姻譚

 二〇二一年 現代ファンタジー・セカイ系っぽい

 二〇二二年 恋愛・ラノベ主人公っぽい

 二〇二三年 現代ドラマ・ジュブナイル的

 二〇二四年 現代ドラマ・兄妹や彼女、家族や人間関係


 恋愛要素、あるいは現代ものが選ばれる傾向がみられる。



・読売新聞社賞

 二〇一七年 ガンで父を亡くした主人公の現代ドラマ

 二〇一八年 大学生の恋愛×ミステリー

 二〇一九年 恋愛ミステリー×ホラー

 二〇二〇年 コロナ禍の現代ドラマ

 二〇二一年 現代ファンタジー×ホラー・現代版人魚姫

 二〇二二年 シングルマザーの現代ドラマ

 二〇二三年 現代ドラマ×LGBT恋愛

 二〇二四年 現代ドラマ×部活・友情もの 


 現代もの、時代性や時事、話題になったものなど選んでいる。



・協賛賞

 二〇一八年 食と大学生の恋愛もの

 二〇一九年 SF要素のありそうな現代ファンタジー

 二〇二一年 後天色覚異常と色聴の二人の恋愛

 二〇二二年 コロナ禍の現代ドラマ

 二〇二三年 先生と生徒の現代ドラマ

 二〇二四年 現代ドラマ・ミステリ要素・家族愛

※二〇一七年と二〇二〇年は協賛企業はなかった。


 毎年テーマは変わるが、大多数の人が抱いている高校生らしい青春を感じさせるものが選ばれている。


※二〇二四年に限り、出版社四社(KADOKAWA、幻冬舎、新潮社、スターツ出版)合同にて、故・浅原ナオト氏の担当編集者が選考する『浅原ナオト特別賞』が設置。

 吉野なみさんの『声を紡ぐ』が受賞。現代ドラマ・恋愛要素


※毎年、数作の奨励賞が受賞されている。



■高校生にしか書けないものを書く

 カクヨム甲子園は、高校生しか応募できません。

 いまを生きる高校生の生の声、生の体験、いましかもっていない感受性を込めて書くのが良い気がします。

 大人は、子供の頃を忘れてしまうものです。

 書くときは、上手く書くための技術(他人の視線を意識した文章の書き方)を一旦忘れて、他人のためではなく自分が楽しむために書いてみてください。



■文字数を守ろう

 ロング部門の応募規定文字数は、今年から『五〇〇〇文字以上、二〇〇〇〇文字以下の作品』と変更されました。

 これまで四〇〇〇字以上六〇〇〇字未満だったばかりに応募できなかった作品も、応募できるようになったわけです。今回の変更により、さらに多くの作品を応募しやすくしてくれたと思って励んでください。

 四百字詰め原稿用紙換算だと五十枚ですが、余白のことを考えると八十枚くらいと推測。大雑把にいえば、原稿用紙百枚の一般的な短編だと思ってください。

 一時間アニメやドラマをイメージされると、書きやすくなると思います。


★二万字の場合の構成

 二万字のやや長めの短編小説では、複雑なプロットや複数のキャラを扱えます。コンテストで目立つ物語にするため、次のようにわけて書くとバランスがいいです。


・導入部:二〇〇〇字(一〇パーセント)

 メインキャラを魅力的に紹介します。 

 物語の舞台や世界観を丁寧に描きます。

 物語のテーマをチラッと示します。


・展開部前半:六〇〇〇字(三〇パーセント)

 後で驚きを作る伏線をいくつか置きます。

 キャラ同士の関係を深めます。

 物語の中心となる問題や葛藤を出します。


・展開部後半:六〇〇〇字(三〇パーセント)

 伏線を少しずつ回収します。

 問題や葛藤を大きくします。

 脇役の小さな物語を進めます。


・クライマックス:四〇〇〇字(二十パーセント)

 中心の問題が最高潮に達します。

 キャラの大事な決断や行動を描きます。

 伏線を大きく回収します。


・結末:二〇〇〇字(一〇パーセント)

 問題の解決を描きます。

 キャラの成長や変化を見せます。

 読者に余韻を残します。



■推敲を楽しもう

「……」三点リーダーや「――」ダッシュの引き方、「 」の使い方、文章頭のひとマス明けなどなど、文章の書き方としては正しくないからといって、読まれないことはありません。

 書きたいもの、伝えたいもの、作者の書きたい熱量のこもった、読んで深く味わえる作品ならば、多少のことは目をつぶってくれます。

 パソコンやタブレットを使う人もいるでしょう。でも多くはスマホで書いて投稿していると考えます。横書きに慣れているため、文書の書き方を守った入力は手間に感じると思います。

 でも、正しい文章の書き方のほうが読みやすいです。

 大事なのは、作者が作品に込めた熱量です。

 多少の間違いを恐れる必要はありません。

 あくまで、「多少」です。 

 誤字脱字衍字はしないように、書き終えたら声に出して読み、おかしなところがあれば直してください。

 国語的に読点を打つと平坦になり、文章の隙間が一気読みの障害となります。長すぎるセンテンスも緊張感を損なうため、箸休めにセリフを入れたり、漢字ばかり続くと目が疲れるのでひらがなを増やしたりしてください。

「そして」「それから」「それ」「あれ」などの接続詞や指示代名詞は間延びの原因となるので極力減らし、二つ以上あれば見直します。

 強調は傍点(文字の横に打つ点)を使うよりも、前後の文章調整で表現し、ひらがなの後に難解な漢字を置くなど工夫をしてください。

 推敲してない文章は、伝えたいことも伝わりにくくなります。



■人をむやみに殺さない

 昨年のカクヨム甲子園で選考委員をされた、はやみねかおる先生のコメントを抜粋して紹介します。

「世界設定が甘いです。作品に書かない部分にまで気を配らないと、読者を自分の世界に引き込むことはできません」

「命を扱う覚悟が足りません。原稿の上とはいえ、殺人を書くには覚悟がいることを知ってほしいです」

 主人公自身はもちろん、恋人や幼馴染や友達、ときにはジュースが自殺する作品まで、死を扱った作品が毎年数多く応募されています。

 今の高校生は希死念慮を抱いているものだから、先行きが不安な時代だからというのはわかります。

 登場人物が死ぬ作品を書くな、とは誰も言いません。あってもいいです。

 ただ、「感動させるにはキャラを殺せばいい」と安直に考えるのはやめたほうが良いと思います。

 主人公やその人物に読者を感情移入させ、印象的な死ぬ場面を描いて感動させるのは一つの方法ですが、誰もが思いつく方法です。

 読者を感動させるためだけに殺されるキャラクターは、迷惑に思っているでしょう。

 描きたい物語に必要ならば構いません。

 他の人が思いつかないような展開を考えてみてください。

 死を描きやすいジャンルは、ホラーやSF、悲恋ものでも描けるでしょう。



■異世界転生ものは選ばれていない

 小説は新規性、つねに新しいものが求められていますから。

 すでにある作品よりも、新しい作品を選んで書いたほうが良いです。

 ただ面白いだけではなく、異世界ものに何かを混ぜるのも一つの方法かもしれません。

 ファンタジーも、内容次第だと思います。

 昨年は、幾作か中間選考を通過されていました。

 とはいえ、受賞に至ったことはまだありません。

 ファンタジーは受賞されています。が、未だに異世界転生ものが受賞されてません。



■各賞についての傾向

 現代ドラマでホラー、ファンタジーホラー、あるいはSFで恋愛など、複数のジャンルをかけ合わせて書かれた作品が、これまで選考に残られています。

 ありふれた視点をちょっとずらすために別の要素を取り入れると、他作品との差別化もでき、オリジナリティを増すこともできると考えます。

 大賞は、ジャンルを問わず、恋愛要素のあるアイデアやオリジナリティのある尖った作品が選ばれる傾向があると考えます。

 尖ったとは、他作品と比べて抜きん出たものです。同じ題材を描きながら、他の人とは異なる視点で描き、「この書き方があったか」と思える作品。

 応募する時、大勢の人が書くジャンルを選ぶより、選ぶ人が少ないジャンルの方が、選ばれやすくなる可能性があると考えます。

 選ぶ側が求め、なおかつ尖った作品である必要があります。


 今年の選考委員は、あさばみゆき(深雪)先生。「あさばみゆき」は主に児童文庫、「あさば深雪」はライトノベルの名義。

 早稲田大学第一文学部卒業後、会社員をへてフリーランスとなり、第25回「ニッサン童話と絵本のグランプリ」童話部門大賞作品『鉄のキリンの海わたり』で絵本作家としてデビュー。

 第12回角川ビーンズ小説大賞奨励賞を受賞し、『百花の守り主さま』(受賞作改題改稿)にてデビュー。また、あさばみゆき名義で第二回角川つばさ文庫小説賞で金賞もW受賞し、『いみちぇん!』(受賞作改題改稿)で児童書作家としてデビューしました。この作品は角川つばさ文庫から刊行され、十九巻にわたる人気シリーズとなりました。

 著作は次のとおり。

・角川つばさ文庫からは、『星にねがいを!』シリーズ、『サバイバー!!』シリーズ、『歴史ゴーストバスターズ』シリーズ。

・ポプラキミノベルから『歴史ゴーストバスターズ』シリーズ。

・野いちごジュニア文庫からは『都道府県男子!』シリーズ。

・ポプラ文庫ピュアフルから『大正もののけ闇祓い』

・角川文庫から『茶寮かみくらの偽花嫁』、『ただいま、ふたりの宝石箱』。

・角川ビーンズ文庫から『後宮の天華』シリーズ、『嘘恋シーズン』シリーズ、『花に嵐』シリーズ、『かりそめ子爵と秘密の駆け引き』シリーズ、『百花の守り主さま』シリーズ。

・ポプラキミノベルから『超人物伝 紫式部 毎日が楽しくなる、天才作家の神格言!』、『1話10分 恋愛文庫』に短編「あまい宝石」、『ダメ恋? でも、好きになっちゃった』に短編「こえられない壁の向こうに」。

・角川つばさ文庫から『おもしろい話、集めました。』(3)(G)(D)(S)に『いみちぇん!』で参加。(S)は『いみちぇん!』『星にねがいを!』のコラボ。

・Gakkenから『介護の花子さん』

・一迅社文庫アイリスから『 奥様は伯爵家の宝石士 ~魔法の王冠を納品するまで離縁は無理そうです~』

・文藝春秋『おてつだい忍法ドリル』

・自由国民社から『遺言ワークブック「わたしが死んだら読んでください」』

・合同フォレスト『空飛ぶITピカソ』※詩を寄稿


 小中学生向けの児童文学、ライトノベル、一般文庫、童話、実用書まで幅広く手掛ける作家で、友情・恋愛・冒険・歴史ファンタジーを軸に、ユーモアと読みやすさを重視した作品が特徴です。

 シリーズ化やキャラクターの魅力を活かすのが得意で、和風や時代物を背景にしたロマンスやミステリーも強みといえます。

 はじめは童話作家としてデビューされています。詩や童話にも精通しているのが伺えます。子ども向けに明るく教育的で、友情や成長を描く作品を得意とされていますので同様に、親しみやすい主人公と個性的な脇役が織りなす軽快なエンタメ作品が応募されてくるのではと想像します。

 だけれども相手はプロ。得意とするジャンルで挑むのは、よほどの自信家か正直者です。受賞を目指すなら、相手の得意ではないジャンル、書いたことのない作品世界を選ぶのも方法の一つです。

 苦手と思われるのは、重厚な文芸、ハードSF、ダークホラー、長編ノンフィクション、実験的形式の作品で、エンタメ性や明るさを優先する作風と合わない可能性があります。ただし、先生の多才さから、新たなジャンルに挑戦する可能性も否定できません。


『カクヨム甲子園』開始からずっと選考委員をされている河野葉月氏は、SFとミステリーが好きであり、編集長という立場上、これまで多くの作品に触れ、精通していると考えられます。


 読売新聞社賞は、時代性や時事、話題になったもの、あるいは新聞社として発信したいメッセージを代弁するような、文学的で読みやすい作品を選ぼうとするかもしれません。



◆最後に

 大賞を目指す方は、昨年の受賞作とかぶらない作品を書いてみてはいかがでしょうか。同じような作品が二年連続で選ばれるのは、選考側も避ける傾向があるからです。これはカクヨム甲子園だけでなく、他の文学賞でも同じことが言えます。

 恋愛要素が必ずしも必要なわけではありませんが、独自の物語を意識しましょう。できれば、受賞作の傾向が似ないよう、隔年で挑戦するのもおすすめです。

 ご参考までに。




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