帝都東京:金剛戦線 – 未来の兵士たち
すら16
プロローグ: 「帝都の影」
駅へと続く道はいつも通りの午後の喧騒に包まれていた。
人々の笑い声、車のエンジン音、遠くから聞こえる電車のアナウンス――
そんな、なんでもない日常の音たち。
その日は高校の卒業式だった。
校門を出た将人は制服の襟を軽く整えながら目の前に広がる景色を眺めていた。
春の風が吹き抜け、満開の桜が花びらを舞わせる。肩を寄せ合う友人たちの笑い声が何とも言えない寂しさと温かさを胸に染み込ませた。
「お疲れ将人!」
肩を叩かれ軽口を交わしながら別れていく友人たち。将人はその背中を見送ると、式に来ていた両親の元へと歩み寄った。
「卒業おめでとう。さすが父さんの子だ!」
「なにそれ、くさいセリフ〜」
「一度は言ってみたかったんだよ」
笑い合う三人。ありふれた会話。けれど、それはかけがえのない時間だった。
――だが、その平穏は唐突に断ち切られる。
――ガァン。ガァン。
最初は工事現場の音かと思った。遠くで鉄骨がぶつかり合うような重く鈍い金属音。
けれど、それが次第に近づいてくるにつれ周囲の空気が確かに変わっていた。
道行く人々がざわめき出しそして一人、また一人と駆け足になり走り出す。
(……何かがおかしい)
将人がそう感じた刹那、視界に映る風景が一変した。
――異形の兵士たち。
灰色の金属で覆われた身体。目元だけが赤く光る無機質な仮面。歩くたびに足元のアスファルトを軋ませる重量感。
それはまるで人ではなかった。だが、人間の形はしていた。
「……な、なんだ……あれは……」
目の前をまっすぐに歩いてくる金属の兵士たち。
その姿を見た瞬間、将人の脳裏にある知識が蘇った。
歴史の授業で聞いた“戦争”。
今も形式上は停戦中の日本とロシア。
ロシアが投入した――人道に背く兵器、機械兵。
頭部だけを人間として残し、それ以外をすべて機械化した恐るべき存在。
「まさか……本当に……」
将人は立ち尽くしたまま、ただその光景を呆然と見つめていた。
逃げ惑う人々の中で自分だけが動けない。
足がすくんだように体が言うことを聞かなかった。
「将人っ!」
背後から聞こえた母の声。その瞬間、我に返って振り返る。
父と母が必死にこちらへ駆けてくる。父の腕は将人に手を伸ばしていた。
だが――。
パァン、と金属的な破裂音が響いた。
次の瞬間、父の身体が前のめりに倒れた。
将人の目の前で父の胸から何かが閃いたように見えた。鋭利な、光る破片のようなもの。
「お父さんっ……!」
叫んだ声が乾いた空に吸い込まれる。父の身体は静かに地面に崩れ落ち二度と動かなかった。
そして――。
「お父さん……っ! やだ……!」
母が叫びながら駆け寄ろうとした、その瞬間。
母の腹部に何かが当たった。音は聞こえなかった。ただその表情が凍りつき、ゆっくりと、その場に崩れ落ちていった。
「かあさん……かあ、さ……」
将人の口から声にならない声が漏れる。
目の前に広がる地獄のような光景。
頬を伝う涙。喉の奥を焦がすような叫び。
――動け。動けよ俺……!
しかし、体は硬直したままひとつも動かなかった。
そのとき別の音が耳に届いた。今度は違う、乾いた命令の声。
「走れ!」
振り返るとそこにいたのは――一人の男だった。
白い軍服。短く刈られた髪。鋭い目つき。
その男は将人の姿を確認するなり素早く周囲を警戒しながらこちらに近づいてきた。
「島さん、犠牲者は……二人のようです」
どこかで別の隊員の声が聞こえた。その言葉に、男――島孝一は小さく眉をひそめた。
「こっちだ。早く来い!」
将人に向かって手を差し出す。
その声に将人は何も言わずに手を伸ばした。
倒れた両親に振り返ることすらできなかった。
ただ、目の前の現実から逃げるように――足を前へと運んだ。
軍の基地に到着するまでの道のりがどれほど長かったのかはわからない。
時間の感覚は消え、視界は白くぼやけていた。
「ここで少し休め。あとで話を聞かせてもらう」
そう言い残して島は部屋を出て行った。
将人はただ呆然と椅子に腰を下ろした。
心に空いた穴が何もかもを吸い込んでいくようだった。
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