戦闘開始!

『ルールを説明します! 使用する武器は機関砲ガンのみ! 1回限りのドッグファイト真剣勝負! まず、相手の機体は正面からやってきます! すれ違った瞬間、交戦開始! 先に撃墜判定を与えた側が勝者となります!』


 タイガーアイが説明する。

 模擬戦としては、至って基本的な流れだ。

 正面から向き合って勝負を始めるのは、まるで決闘のようである。

 ただし、ツルギはひとつ疑問に思った事をストームに聞いていた。


「えっと──機関砲ガンを使うって、どういう事?」


 テキサンは練習機なので、当然ながら丸腰である。

 故にツルギは、単なる追いかけっこの延長線上みたいなものを考えていたのだが、思いの外本格的な模擬戦をするらしい事に、少し驚いたのだ。


「シミュレーションだよ」

「シミュレーション?」

「このテキサンは、武装を使うシミュレーションができるから、リアルな模擬戦ができるの」


 丸腰は、ツルギの杞憂だった。

 最新鋭のこの練習機には、ある程度ならが武装の使用を再現できるシミュレーションシステムが完備されていた。

 つまり、この練習機は「戦える」のである。


「ああ、そういう事か……ありがとう」


 どうやら思い違いをしていたようだと、ツルギは気付く。

 技術は、想像していた以上に意外な方向へ進歩していたのだ。


『よろしいですか、レインボー2?』

「レインボー2、よろしいです!」


 確認の問いかけに、答えるストーム。


『はいー! それでは、模擬戦を始めます! 兵装解禁ウェポンズ・フリー!』

「ウィルコ! マスターアーム、オン!」


 ストームが入れたマスターアームというスイッチは、武装のセーフティを解除するスイッチだ。つまりこれで、機体は戦闘態勢になる。

「──」

 じっと相手がやってくる正面を見据えるストームを見て、ツルギも気を引き締める。

 美しいインド洋の上空に似合わぬ緊張が、コックピットを包む。

 間もなくして、水平線の彼方から小さな機影が見えてきた。

 こちらと同じテキサンだ。

 まるで決闘を始める時のように、こちらと向かい合っている。恐らく向こうも、マスターアームスイッチを解除して、戦闘態勢を整えているだろう。

 姿が次第に大きくなってくる。

 まっすぐ向かってきたもう1機のテキサンは、こちらの右側を一瞬で通り過ぎた。


戦闘開始ファイツ・オン!』


 タイガーアイが、勝負開始を告げる。

 2機のテキサンは、同時に右へ急旋回。相手の姿を追い始めた。


「ぐ──!」


 急旋回のGに耐えるツルギ。

 もちろんそれはストームも同じだが、彼女は耐えながらも頭上を見上げ、相手の姿を探している。

 恐らくは相手も、こちらを探して急旋回中だろう。

 それはさながら、背後を追いかけ合う犬の喧嘩のよう。

 これが、『ドッグファイト』と呼ばれる理由である。


「いた!」


 ストームが、相手のテキサンの背中を見つけた。

 さらに旋回を強め、機体を向かわせる。

 相手のテキサンが正面に見えてくる。

 そして、背後を取らえた。


「よーし!」


 追いかける側になり、主導権を握ったと確信した様子のストーム。

 しかし、相手も気付いた様子だった。

 すぐ振り払おうと、急旋回。

 もちろん、こちらもその後を追いかける。

 相手は狙いを定めさせまいと、左右へ何度も切り返してくる。

 その後を追うこちらも、機体が左右に激しく揺れる事になる。

 当然ながら、乗り心地もへったくれもない。後席でひたすら左右にぶん回されるツルギは、気分が悪くなってくる。

 空中戦ってこんなにきつかったっけか、と思ってしまうほどには。

 だが、弱音は吐けない。己の力を直接ぶつけ合う空の肉弾戦である以上、先に音を上げた方が負けだ。

 ツルギはじっと、勝負の行方を見守る事しかできない。


「これなら行けるっ!」


 一方で、ストームは純粋に勝負を楽しんでいるようだった。

 激しい操縦を物ともしていないが、自分の意志でやっているのだから当然か、と気付く。

 気分が悪くなるのは、自分で操縦しない乗客だから。経験豊富なパイロットでさえ、自分で操縦しない戦闘機の後席では酔ってしまいやすい、という話をツルギは思い出した。


「この──っ!」


 ストームが左右へ逃げ回る相手を追い回している内に、相手との距離が、どんどん近くなってくる。

 このままでは、追い越してしまいそうなほどに。

 空中戦で相手を追い越すのは、攻守の逆転を意味する。絶対に避けなければならない。

 しかも、何度も切り返しを繰り返したせいで、速度も相応に落ちている。

 どんな時でもそうだが、速度は飛行機の命だ。速度を出さないと安定して走れない自転車と同じで、速度がなくなれば飛べなくなって失速してしまう。


「ストーム……! このままだと、追い越すぞ!」


 声を絞り出して、ツルギは呼びかける。


「く──っ!」


 さすがのストームも、これ以上は無理だと気付いたようだ。

 ストームは追跡をあきらめ、操縦桿を押して機首を下げる。

 こうすれば、急降下で速度を稼ぎつつ、仕切り直す事ができる。


「もう一度──」


 数秒の急降下の後、ストームは改めて、相手の姿を確かめようと頭上を見上げた。

 だが。


「あれ?」


 相手のテキサンの姿が、いつの間にかなくなっていた。

 ツルギは、どこに行ったのかすぐに気付く。


「ストーム、前!」

「うわっ!?」


 相手のテキサンは、いつの間にか正面から向かってきていた。

 勝負が振り出しに戻った瞬間だった。

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