第四話 ベネディクト国王陛下の来訪
グランヴェル領の近代化は、瞬く間に王都に知れ渡った。ベネディクト国王陛下はその知らせを受け、グランヴェル領の訪問を決意。現在、クリフォード・ヴァリアントを引き連れ、こちらに向かってきている。
「ロイ様、大変なことになりましたね」
「王都にいつ導入するのか聞かれたので、実地試験が上手くいけば導入を検討すると伝えました。そうしたら、この目で確かめると父上が仰ってこの事態に……」
恐らく、ベネディクト国王陛下は近代化が進んだグランヴェル領を視察して、同じ環境を整えるよう命令してくるだろう。だが、私の体力にも限度がある。二日三日でなんとかなるものではない。そこを分かってもらいたい。
「ベネディクト国王陛下が思っている以上にこの領地は近代化が進みました。王都が同じ環境になったら、他国から目を付けられますよ」
「それもそうですが、シルヴィア様が狙われるのでは?」
「もし他国から狙われて連れ去られることがあったら、もう二度とこの国には戻れないと思います」
「そうならないために僕やスレナさんがいます。決して、僕達から離れないでくださいね」
「分かっています」
多くの馬の
「シルヴィア様、父上の馬車が見えます。もうすぐ来ますよ」
スレナとロイ様を連れて玄関に向かう。
これで街道が整備されていたら近代日本と大差なくなる。電化製品も各家庭に普及していて生活基盤がガラリと変わった。それらを視察して何を言おうとしているんだろう。
王都にも同じものを!とねだるのだろうか。もしそう言われたら、時間が掛かりますとはっきり言おう。
「いよいよですよ。シルヴィア様」
「はい」
玄関の外に出て、ベネディクト国王陛下をお出迎えする。
って、白薔薇騎士団と黒薔薇騎士団も来ている。なんて規模の大きさだ。
「ベネディクト国王陛下、いらっしゃいませ」
「シルヴィア、待たせたな」
ベネディクト国王陛下が馬車から降りてきた。それからすぐにグランヴェル邸の屋根に目を向けた。
「あれは?」
「太陽光パネルでございます。あちらに太陽光を当てると電気が発生します」
お父様とお母様もベネディクト国王陛下を出迎えに来た。だが、ベネディクト国王陛下の視線は屋根に向けられたままだ。
「シルヴィアよ。何故、王都に普及させないのだ?」
「その予定ではありますが、実地試験をして導入してもいいか検討しているところです」
「うむ。事故を未然に防ぐためか」
「その通りで御座います」
ベネディクト国王陛下がグランヴェル邸の敷地内にある街灯に目を向けた。興味津々である。
「これは?」
「街灯と呼ばれるものです。夜になりますと、明かりが灯ります」
今度は屋敷に目を向けた。本当に忙しい人だ。
「屋敷の中を見させてくれ」
「はい、どうぞご覧になってください」
ベネディクト国王陛下がグランヴェル邸のロビーに入った。メイドと執事が整列している。
「いらっしゃいませ。ベネディクト国王陛下!」
「うむ」
早速、近代的なものに目を向けた。そう、電灯だ。
「天井にあるあれはなんだ?」
「電灯です。スイッチを入れると明かりを灯します」
キッチンに足を向けた。そこにはたくさんの電化製品がある。見ていて飽きないほどに。
「ここはキッチンか。見慣れないものがたくさんあるな」
ベネディクト国王陛下がキッチンを物色している最中、クリフォード様がやってきた。
「父上、これらは本当にシルヴィアが作ったものですか?」
「その通りだ、クリフォード。いちいち喧嘩を売る様な言い草をやめよ」
「ですが、これでは魔女ですよ。何でシルヴィアに一目置いているのですか?」
「魔女だと? 失礼なことを言うな。これは神の所業だろう」
クリフォード様が押し黙った。これ以上言ってはならないと悟ったのだろう。それより、ベネディクト国王陛下から神だと言われた。なんて嬉しいことを言うんだろう。
「シルヴィアよ。現段階で王都に導入するのは何時頃になる?」
「現在、グランヴェル領の八割が太陽光発電システムを導入しております。予定では早くて一ヶ月後になるでしょう」
「一ヶ月後か。まだまだ時間が掛かるな」
クリフォード様が電子レンジやオーブンを見ている。このキッチンにある電化製品の全てが新鮮に見えているのだろうか。特に炊飯器なんて大人気だ。ふたを開けたり閉めたりしている。
「それとお伺いしたいことが」
「何だ?」
「風力発電所の件なのですが、アルカディア山脈に建設したいと思っております。協議の方をされていると伺ったのですが、その後どうなりましたか?」
「アルカディア山脈の件はまだ協議中だ。隣国のディアロス帝国に襲われたらたまったものではないからな」
「分かりました。風力発電所の件は保留にしておきます」
「すまないな。もう少し待っていてくれ」
ベネディクト国王陛下が冷蔵庫や冷凍庫、ホームベーカリーやオーブントースター、IHクッキングヒーターを見て回っている。キッチンはまさに電化製品の宝庫だ。
「シルヴィアよ。これらをヴァリアント城に置くことは可能か?」
「可能です。ですが、電気を通さないと使い物になりません」
「電気とは凄いものだな。このようなものまで動かせるとは」
電気は偉大。まさにその通りだ。
「ベネディクト国王陛下。電化製品ではありませんが、他にもお見せしたいものがあります」
「何だ?」
私はスレナに目を向け、指示をする。
「スレナ、自転車を持ってきて」
「分かりました」
そう、自転車。人力で走る便利な乗り物。
「お待たせ致しました」
ベネディクト国王陛下が自転車をまじまじと見つめている。
「これは何だ?」
「電動アシスト付き自転車と普通の自転車です」
電動アシスト付き自転車まで作ってしまっていたのだ。これにはクリフォード様も興味津々だ。
「父上、これは何ですか?」
「シルヴィアよ。これは乗り物か?」
「その通りです。一回乗って見せます」
自転車に乗って庭を走ってみた。
ベネディクト国王陛下が笑みをこぼしている。楽しそうに見えるのかな?
「これは良い。クリフォード、ちょっと乗ってみろ」
「分かりました」
クリフォード様が電動アシスト付き自転車に乗った。だが、上手く走れず倒れそうになる始末。平衡感覚が鈍いのかな?
「下手くそめ。私が見本を見せてやる」
ベネディクト国王陛下が軽々と電動アシスト付き自転車を走らせている。運動神経が良いな。凄い。
「お見事です。ベネディクト国王陛下」
「これくらい朝飯前よ」
大層気に入ったのか、お父様に欲しいとせがんでいる。まあ、自転車くらいならいいか。
「ベネディクト国王陛下。こちらの自転車、差し上げます」
「本当か? 礼を言う。ありがとう」
手土産なしで帰すのは失礼だ。ここは進呈しよう。
「アノス、今夜泊まらせてくれないか? 色々見てみたい」
「結構ですよ。お部屋にご案内します」
「ありがとう」
凄い上機嫌になった。自転車をもらって喜んでいる。
「シルヴィア、今日は無礼講だ。色々語ろう」
「はい、気の向くままに」
私はお辞儀をし、ロイ様を連れてベネディクト国王陛下が泊まる客室に向かった。
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