来る気がなかった俺の異世界冒険記 ~転生させた女神が承認欲求モンスターだった~

@hajimari

第1話

「ほら、まもりましたよ」


 そういってバスケットをかかえ、にこにこと笑う泥だらけの美しい少女が俺の目の前にいる。


「はぁ......」


 俺はそれをみてため息をついた。


「......まじでこいつと魔王を倒す旅をこれからするのか」


 そう俺は今後を思い天をあおいだ。



「ここは......」

 

 そこは白い宮殿のようだった。


 目の前に杖をもった美しい金髪の少女がいる。 


「......誰だ」


「私はティティファ、女神です」


 その少女は大きな金の瞳でこちらを見つめながら静かにそういった。


「女神...... そうか、おれはあの時」


 こんな突拍子もないことをすぐ受け入れられたのは、あのときのことを思い出したからだ。


「そう松上 令二まつかみ れいじさん。 あなたは川に落ちたこどもを助けようと溺れました」


 そう悲しげに女神ティティファはうつむく。


「そうか...... それはしかたない。 それで子供は」


「ええ助かりました。 あなたが最後のちからで川からひき上げましたから」


「......犬死にじゃなかっただけましか」


「まだ死んでいません。 仮死状態のまま、あなたの世界にいます」


「えっ? 仮死状態」


「今は私の力でその姿を保っています」


「もしかしてもとにもどれるんですか!!」


「ええ、そのためにもあなたにお願いがあるのです」


「お願い......」


「これを」


 女神が杖をつくと空に映像が現れる。 そこには異形の化物が人間を襲い町を破壊している映像が映し出された。


「なんだ!? 化物が人間を襲っている!」


「ええ、ここはあなたの世界とは異なる世界、この世界は魔王が復活し滅ぼされてしまうかもしれないのです......」


「魔王!?」


「はい、あなたにはその世界に向かい、魔王を討伐してもらいたいのです」


「......いや、俺は普通の高校生だから、そんなことは無理ですよ」


「私の力であなたを生き返らせるにはある力が必要なのです」


「ある力......」


「ええ、神の力とはすなわち人々の信仰心、あなたがこの世界を救えば、守護している私の力がまし、その力で生き返らせることができるはずです」


「生き返るにはあなたの力が増す必要がある...... でも俺にはあんなモンスターと戦う力なんてないですよ」


「私の残りの力を使い、あなたに特別な神の力を与えましょう。 何卒お願いします」


 そう女神は頭を下げた。


「......とは言われても」


「あの世界を救いたいのです! モンスターの驚異から人々を! 力を失った今の私の力ではもはやどうすることもできないのです!」


(ここまで必死に懇願されるとな...... 確かに助けられるものなら助けたいが)


「助けてください! この世界の人々のために! そして私のために!」


「ん?」


「私は信仰心がほしいのです!」


「んん?」


「そしてマイナーな神からメジャーな神へとなりたいのです!」


「んんん!?」


「ティティファさますてきー サイコー! わが至高の女神! うふふふふ」


 女神は恍惚の表情を浮かべる。


「ふざけるな! 自分のためにおれを使おうってのか!」


「いいじゃないですか! 子供のために命をかけられるなら、世界のためにちゃっちゃっと命をかけてくださいよ! チョロいヒーロー、チョローでしょ!」


「誰がチョローだ! いやだわ! おまえの承認欲求のために誰がいくか!」


『わかりました。 この無駄な命、美しき女神に捧げます』


「ありがとう」


「誰が無駄な命だ! 勝手にアテレコすんな!」


「私はマイナー神で力もない! 人気もない! お賽銭も! お供え物もないんです! 助けてください!」


「おまえの承認欲求などしらん!」


「確かに私が人から認められたいのは事実です」


「認めるのかよ!」


「ですが、あの世界を救いたいのも本当なのです......」


 そううつむいた。 映像をみると人々が蹂躙されている。


「しかし......」


「わかりました...... もうかってに送っちゃお!」


「なに!?」


 女神が杖をつくと光がおれの体をつつむ。 


「やめろ!! てめえ!!」


「がんばってくださーい! 私の信仰心をあげてくださーい! あとかえるときはお土産お願いしまーす。 名産品はやめてくださーい! 意外にがっかりするのでー」


「この期に及んで要求おおっ! ふざけんな! 絶対にもう一度会ったら......」

 

 そのまま目の前が暗くなった。



「ここは」


 目を開けるとそこは森のようだった。


「まさかここが異世界か! くそっ! あの女神! 本当に送りやがった! 今度会ったらただじゃおかねえ!」


「あーーー!」


「なんだ!!?」


 後ろをみるとさっきの女神があわてふためいている。


「なんか私もきちゃった! どうしよう!? どうする!?」


「そうだな。 まずは詫びろ......」


「えっ?」


 おれは女神の頭をむんずと捕まえた。


「やってくれたな貴様......」


「ひぃ! ご、ごめんなさーい! いだだだだだ! 割れるぅ! 頭われちゃうぅ!!」


 逃げながら謝る女神をおれは捕まえ、その頭蓋を握りつぶそうとした。

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