第41話 ヴィヴルの挑戦
『カズマ! 右腕よ!』
「ああ!! ガイストクラッシャー!!!」
ヴィヴルの巨大な右腕。その肘装甲がガパリと開き、ノズルからマナ粒子が噴射される。一気に加速したヴィヴルは、崖を背にしたツィルニトラへ拳を放った。
『潰れなさい!!!』
彼女の拳が届く直前、ツィルニトラがポツリと呟く。
「ユウ」
『格闘機か! 面白れぇ!!』
ツィルニトラの搭乗者、ユウ・シライがコクピット内で立ち上がる。ペダルを踏みこみ、操作魔法陣を思い切り引き込むことで、ツィルニトラの機体を制御。漆黒の機体はヴィヴルの頭上へと飛翔し、彼女の一撃を紙一重で回避した。避けられたれた拳が崖に叩き付けられる。轟音が渓谷内に響き渡り、ヴィヴルの視界が粉塵に包まれる。
一瞬の静寂。次の瞬間、粉塵を切り裂いて漆黒の竜機兵がヴィヴルの元へ飛び込んだ。
『一撃は大したものだが……』
「モーションがデカすぎるぜ!!」
ツィルニトラが両手の実体剣を構え、ヴィヴルの首を狙う。
『甘いわ!!』
「スピニングフィスト!!」
ヴィヴルとカズマが叫んだ直後、ヴィヴルの右前腕が高速回転し岩壁を削る。削られた岩壁は
『ほう、元から隙を生じさせぬ技であったか』
ツィルニトラが身をひるがえして礫を避け、反撃の技を放つ。
『
マナ粒子の斬撃がヴィヴルに向かう。咄嗟に岩壁を蹴って回避するヴィヴル。岸壁に波動斬が直撃し、再び粉塵が舞い上がる。
そこから現れたヴィヴルは、右肘から下が無くなっていた。
『く……っやっぱり速いわね……』
ヴィヴルが右肘を押さえて身構える。ツィルニトラから見れば最大の攻撃チャンス。しかし、彼女は攻撃することなくヴィヴルを見据えていた。
『攻撃しないなんて……私の事、舐めすぎじゃない?』
『下手な芝居はやめよ。貴君の声色にはまだ余裕がある。罠であろう?』
『バレるの早いわ……ねぇ!!』
ヴィヴルが避けんだ直後、岸壁を突き破り高速回転した前腕が飛び出した。
『うぉ!? スーパーロボット系の機体かよあの竜機兵!?』
ユウ・シライが驚いたような声を出し、飛んできた右腕を回避する。ツィルニトラに生まれた僅かな隙。それを狙うようにヴィヴルが左拳を構えて突撃する。
「ヤツの搭乗者は何を訳の分からんことを言っとるんや!?」
『どうでもいいわそんな事! 早く次の攻撃を!!』
「あー!! 分かっとる! スピニングフィスト!!!」
左腕でもう一度技を放つカズマ。ヴィヴルの左腕が高速回転し射出される。ほぼ同時に空中の右腕も軌道を変え、ツィルニトラを挟み撃ちするようにスピニングフィストが襲い掛かる。
ツィルニトラが二対の実体剣で襲いかかる拳をはじき返すものの、はじき返されるたびにスピニングフィストが軌道を変えてツィルニトラへ向かう。その速度は徐々に増していき、やがて彼女の体をかすめるようになっていった。
『埒が明かぬ。ユウ、
『オッケー!!』
ツィルニトラの機体全体に紫の光の線が入り、全身へ紫色の線が走る。それが眩く光ったと思った次の瞬間、ヴィヴルの眼の間にツィルニトラが現れた。
『速い!?』
驚愕の声を上げるヴィヴル。そんな彼女へ向け、ツィルニトラは二対の実体剣を振り上げた。
『自ら腕を捨てるという行為。それがいかに愚かなものか……知るがいい』
振り下ろされる剣。共鳴接続によって加速された一撃は、ヴィヴルの両肩を切断した。
『ぐぅ!? 腕が!?』
「マズイ! 流石に撤退するでヴィヴル!!」
ヴィヴルが後方へ飛ぶ。それを追うように彼女へ突撃するツィルニトラ。帰える場所を失ったヴィヴルのスピニングフィストが盾となってツィルニトラを迎撃するが、実体剣の前にあっけなく破壊されてしまう。なすすべもなくなったヴィヴル。彼女の懐に飛び込んだツィルニトラが剣を構える。
『終わりだ』
二対の刃がヴィヴルの首に向けられる。急速に速度を落とす世界。その世界の中で、ヴィヴルは叫んだ。
『負けられないのよ……!! 天国のお父さんとお母さんに絶対に勝つって約束したんだからああああああああ!!!』
彼女の叫び。それに呼応するように、コクピットにいたカズマも叫び声を上げた。
「出し惜しみしとる場合やない! 奥の手使うで!!」
竜核の証である左胸の装甲ごとヴィヴルの胸部装甲が弾ける──そして、その中から「2本の赤い腕」が現れた。両手にストーム・ブレードを装備した赤い腕は、ツィルニトラの実体剣を受け流し、返し刀でその首へ一撃を放つ。
『何?』
『隠し腕かよ!?』
ツィルニトラが身を捩ってストームブレードの一撃を回避する。彼女が後ろへ飛び退いた時、ボロボロになったヴィヴルは、漆黒の竜機兵へ向かって叫んだ。
『私はもう二度と失態はしないって誓ったの!! こんなところで絶対に負けないわ!!』
幼い声にこもる気迫。その様子にツィルニトラが笑みをこぼす。
『……腕を失うことも覚悟の上ということか。面白い。貴君の覚悟、竜核の位置すら分からぬ機体の秘密。解き明かしたくなった』
『うるさい!!』
ヴィヴルが突撃する。彼女の赤い腕がストームブレードの乱撃を繰り出し、ツィルニトラを傷付ける。初めて入った傷。しかし、ツィルニトラは怯む事なくヴィヴルの体を蹴り上げた。
『ぐぅ……っ!?』
『ヴィヴル!?』
体勢を立て直したヴィヴル。その目の前に飛び込んでいたツィルニトラを見た瞬間、ヴィヴルが頭突きを放つ。
『まだあ゛あああああぁぁぁあ!!!』
ヴィヴルが連続で頭突きを放つ。間合いが生まれた瞬間、ストームブレードと実体剣の切先が交差する。鍔迫り合いの向こう側で、ツィルニトラは声を弾ませた。
『なんという気迫。なんと誇り高き魂……ククッ、嬉しいぞ。貴君とは本選で戦いたいものだ……な!!』
力の迫り合いが臨界点を迎える。ツィルニトラが放った横薙ぎを後ろに飛んで避け、ヴィヴルが叫ぶ。
『カズマ!! 今使える全部使っても構わないわ! 絶対に勝つわよ!!!』
「おお!! やってやるで!!!」
彼女の大型な体躯とは不釣り合いな細い腕を構え、ヴィヴルは漆黒の竜機兵へ突撃した──。
◇◇◇
──数分後。
『これにて予選を終了する』
渓谷に運営の放送がこだまする。谷底に落下したヴィヴルは、ボロボロの体でその声を聞いていた。首は切断され、頭部からバチバチと電流が流れる。四肢を切り裂かれたその体では身動きすら取れない。コクピット内のモニターは真っ暗となっており、ヴィヴルの視界が死んでいる事を告げていた。
『はは……流石に優勝候補……強すぎたわね……』
「しゃべるなヴィヴル」
ツィルニトラと一騎打ちをしたヴィヴル。あの後、ヴィヴルは共鳴接続の力に成すすべなく蹂躙されてしまった。そして、首を切断された挙句、この谷底に叩き落とされ、予選終了の時を待っていたのだ。
竜機兵にとって、首の死守は絶対。首を失ったヴィヴルの胸には、失格の二文字が突き付けられていた。
『いいの……予選ではこの姿でしか挑めなかったんだもん。私達は全力を尽くしたわ……』
ヴィヴルがかすれた声を出す。
「お前のせいやない。俺が……不甲斐なかったからや……」
カズマの胸に悔しさが込み上げる。彼らハーモラは本選を勝ち抜くために切り札を用意していた。それを使えばツィルニトラに勝てたかもしれない……しかし、その装備はまだ完成していない。装備が使えるのは本選でのみ。だからこそ、予選はどんな手を使っても勝つつもりでいた。しかし出来なかった。
ツィルニトラに挑まなければ……しかし、そんな事を考えても、今では全てが遅かった。
消え入りそうな意識の中で、ぼんやりと空を見つめるヴィヴル。その耳に運営の声が響く。
『これより結果を通達する。1位はトルテリア代表、竜機兵ツィルニトラ。10800pt、2位、アシュタリア代表、竜機兵ティアマト。9600pt、3位、ヲルス代表、イルムガン。9500pt、4位──』
『あ──……やっちゃったな……」
ヴィヴルが誰にともなく呟いた。彼女の中ではティアマトと戦う約束をしていたことが思い起こされていた。その約束を破ってしまうことに、彼女は申し訳なさを感じた。
『ごめんなさい、ティアマト姫……』
ぼんやりとした意識の中、最後の本選出場者の名が告げられた。
『4位、ハーモラ代表竜機兵ヴィヴル、9000pt』
『……え?』
「おい!? 聞いたかヴィヴル! もしかして……!?」
カズマが声を弾ませる。彼が急いでコクピットから外へ飛び出す。そして、何かを確かめると、あらんばかりの声で叫んだ。
「繋がっとる……!! ヴィヴル!! お前の首、無事や!! 失格になってないぞ!!」
カズマの言うとおり、切断されたはずのヴィヴルの首は「細いケーブル1本を残して」繋がっていたのだ。
『な、なんで……? 首を飛ばされたと思ったのに』
「もしかしたら……ワザと首を残したのかも……ヴィヴル、お前と本選で戦うために」
ヴィヴルの脳裏に漆黒の竜機兵の言葉が浮かぶ「本選で戦いたい」といった言葉が。
『……う』
「ヴィヴル!? 聞いとるんか!?」
『う、うるさいわね!! ちゃんと聞いてるわよ!』
ヴィヴルの視界が滲む。その涙には、悔しさ以外の別の感情も混じっていた。
────────
〜ティアマト〜
ウ゛ィ゛ウ゛ル゛さ゛ん……!! 無事で良かったです……!!
わ、私が泣いていてはいけませんよね……!? ここからが本番です! 私とも素晴らしい闘いをしましょうね、ヴィヴルさん!!
次回、予選を終えて、ショウゴと私は戦艦竜ヨルムンガンドへ帰還します。私が機体の修理を受ける中、ショウゴはお姉さまやハインズと言葉を交わします。一体何を話すのでしょう?
次回 自分達のために
絶対見てくださいね♡
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