「話しかけ」

 …びっくりした?こっちもだよ。


 おどろいたでしょ。

 こんなせまいところで。


 通り過ぎざまに。

 声をかけられて。


 どこから…あ、いや。

 応える必要は無いから。


 あっちの学園からだね?


 こえるんだよ。

 ここにいるとさ。


 あいにく、通ったことは無いね。


 生まれてから、

 そういう生活だったから。

  

 教育も受けたことが無くてね。

 見聞きした知識ちしきぐらいだし。

  

 …まあ、話をする程度ていど


『衣』『食』『住』のうち。

 出来ているのも『じゅう』くらい。


 つまりは、そういうことで。


 を見るかい?

 グロテスクなんてものじゃ無いだろうけど。


 とっくの昔に。

 ごはんも口にしていないし。


 分かるのは。

 伝わってくる微細びさい振動しんどうくらい。


 人の声、道を歩く足音。

 遠くの車、建物の大体の位置とか。


 …だからさ。


 キミたちが学園から来たことも。

 知っていたわけで。


 バカに出来ないからね。

 反響音はんきょうおんってのは。


 それとも、こっちの聴覚ちょうかくが良すぎるのか。

 ま、確かめようが無いのだけれど。


 にしても、面倒めんどうな道で来たね。

 まともに戻れるかもわからない。


 …ん。ビビってるの?

 顔は見えないけどさ。


 まあ、対面して。

 話していないだけマシだから。 


 ねえ、ボクとキミら。


 へだてているのは。

 小さなロッカーの板一枚だ。


 時間があるのなら。

 もっと、じっくり話そうよ…

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