季節とわたしのちいさな約束

まさか からだ

第1話 わたしを芽吹かせる、春の風

 冬の名残を頬に感じながら、

 やさしい陽ざしが肩に降りてくる朝。

 どこからか土の匂いがして、

 心の奥の、小さな芽がそっと動き出す。




 長い眠りから目を覚ますように、

 心がふわりとほどけていく。

 寒さの中で縮こまっていた想いが、

 やわらかく、あたたかく、外の世界へ伸びていく。

 「また歩いていこう」

 そんな気持ちが、内側から生まれる季節。




 冬の間に溜めこんだ重たさを、

 春風がやさしくほどいていく。

 少しずつ体が軽くなって、

 呼吸が深くなるのを感じる。

 あくびのように、大きく伸びをして、

 新しい空気を胸いっぱいに吸い込むと、

 からだも、春を受け入れる準備が整っていく。




 春の苦味は、目覚めのしるし。

 ふきのとう、菜の花、たらの芽…

 そのどれもが、冬の間にたまったものを

 外へと流してくれる味。

 ほろ苦さの中に、希望がある。

 食卓にも、わたしにも、

 小さな春が芽を出す頃。




春のちいさな約束

 「今のわたしを、やさしく整えてあげる」

 心も、体も、食も、

 全部つながって、芽吹く季節。

 そのはじまりを、丁寧に味わうこと。

 それが、春の風と交わす約束。

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