第45話


「……代替わりをしたとは聞いていたが、随分と若い者が多いのだな」

 都の、とある屋敷の庭で膝を突いた僕達に、縁側に現れた初老の男がそう言った。

 この男が、頭領を都に呼び出した神祇官なのだろう。


 それにしても、やっぱり年齢は見られるか。

 一応の対処はしておいて正解だった。


 今、この場にいるのは神祇官の男とその供回りを除いて、頭領、僕を含む側近衆の三人、それから六座と、もう一人年嵩の中忍だ。

 本来なら、頭領と側近衆のみで会うべき相手なのだろうが、残念ながら急な代替わりをしたばかりの頭領は若く、側近衆もその同年代。

 つまり十代半ばか、それを少し過ぎただけの若者ばかり。

 忍びの実力は年齢だけでは測れないとはいえ、これでは侮られたり、頼りなく思われてしまうのも仕方ない。

 敵に侮られるのは、隙を生んでくれるので利もあるが、依頼主やそれに類する相手に頼りなく思われるのは、浮雲の里にとって損しかない。


 故に今回は、……いや、恐らく暫くの間は似たような場では、側近衆以外の年上の中忍も立ち会って、若者ばかりで頼りないという印象を薄めて対処をするだろう。


「この場は、既に人除け、音の遮断の結界を張ってある。浮雲の里の長よ、直答を許す。近頃そなたらが争う舶来衆とは何か、舶来衆との争いで何があったかを、話すがよい」

 神祇官のその言葉に、頭領は舶来衆が何なのか、これまでの戦いでわかった事や、その存在がどれ程に害を撒き散らしているか等を話し出すが、僕は別の事に興味が湧く。

 あぁ、確かに気配を探ってみれば、この屋敷を取り囲むように二重の呪力の膜があるのを感じた。

 これが人除けと、音の遮断の結界か。

 効果は、人除けの方は呪力のせいで何となくこちらに近寄りたくない、近寄るのを気持ち悪いと感じさせるものだと思われる。

 音の遮断は、呪力の膜に音を吸収させてる様子。


 あんまり複雑な仕組みじゃないけれど、使い勝手は良さそうな術だ。

 呪力を使ってるという事は、神祇官かその供回りの誰かが、妖術師なのだろう。


 今回の件に同行し、この場には連れてこられなかった忍び、例えば吉次や茜は、見聞を広める為と称して都を見物してる。

 正直、僕も神祇官のお偉いさんとやらに会うよりは、都見物の方がしたかったけれど、……まぁ、この結界が見られたなら、こちらに来た甲斐もあったかもしれない。

 一定範囲に呪力の膜を作って、拡散して消えてしまわないように固定するというのは些かコツが要りそうだけれど、お手本も見れたし、帰ったらちょっと練習してみようか。

 呪力だけ、法力だけで発動する術を使えば、他の忍びと戦う時に虚を突ける事もあるだろうし。


 僕があれこれ結界に関して考察し、術の内容を探ってる間にも神祇官と頭領の話は進み、

「確かに、その言葉の通りであるなら、舶来衆は神武八州を荒らす害悪であろうな。そして其方の言葉に嘘がない事も、この目で見ればわかる。……しかしな、それでも事が大き過ぎて、簡単に鵜呑みにはできぬ話だ」

 うぅむ、と大きく、神祇官が唸る。

 まぁ、それは別にいいんだけれど、この目で見ればわかるというのは、あの目に法力を集めて使ってる術の事だろうか。

 何をしてるんだろうとは思ってたけれど、嘘を見抜く術を使っていたのか。


 嘘を見抜くというのは、妖怪辺りが偶に持ってる力だという話はよく聞くが、法力でも似たような事ができるらしい。

 ただ、これは具体的にどういう理が働いてそれを成してるのかは、ちょっと見るだけじゃわからなかった。

 法力の使い方の参考にはなるけれど、術を真似るのは無理そうだ。


「其方の話を信じぬ訳ではない。しかし開戸の国の討伐を周辺の国主に命じたり、その舶来の妖怪とやらの退治に法衆を動かすには、目に見える証拠と、幾らかの時間は必要になる」

 ちなみに話の方は、……なるほど、尤もだ。

 忍びの場合は上、頭領が判断して命じれば、下は証拠だのなんだの言わずに即座に動くが、普通の人の世はそう簡単にいかないのだろう。

 言われてみれば当たり前なんだけれど、言われるまで気付かない辺り、僕も随分と考え方が忍びの感覚に染まってる。


 でもこれは、浮雲の里にとっては都合のいい話だった。

 都は動く心算があるけれど、実際に動き出すまでには時間が掛かる。

 ならばその掛かる時間に、舶来衆の幹部を仕留める準備を整えたり、或いは仕留めてしまえるかもしれない。


「ではその幾らかの時間は、これまで通りに我らが戦って稼ぎましょう」

 しかし頭領はそれを聞いても感情を顔に出したりせずに、実に献身的に聞こえる言葉を口にする。

 相手が法力でこちらの言葉の真偽を確かめる術を使ってる事にも、少しも動揺した様子がない。

 庭と縁側、この居場所の違いは、両者の立場の違いを如実に表してるけれど、頭領はそれをものともせずに神祇官と言葉でやり合えているように、僕には思えた。

 多分、他の忍び達も、そんな風に感じただろう。


「わかった。ならばその働きに応じて、幾らかの褒美は約束しよう」

 話の最後に、神祇官は褒美、つまり働きに対する報酬の約束をしてくれて、頭領、それに続いて僕らも、その言葉に頭を下げた。


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