御霊代理戦争

深川我無

#000 超越者のルール

 

 無数に飛び交うスパイ衛星の影響でテレビの画面には常にノイズが混じるようになって久しかった。

 

 2043年、資源の枯渇は深刻化し経済戦争は終結する。

 

 それに代わって各国は軍拡に次ぐ軍拡を繰り返し、同盟と侵略戦争が再び日常と化した。

 

 市民の生活水準とは裏腹に兵器の質だけが向上し、誰もが最終戦争ハルマゲンドンの到来を覚悟したある日のこと、主要国の首脳が人知れず集められ超越者の前に跪いていた。

 

「うぅ……」

 

 合衆国大統領の側近が体中の穴という穴から血を流して呻き声をあげる。

 

 男の手には拳銃が握られ、その銃口は自身のこめかみに押し付けられていた。

 

 大統領は彼を救おうと悲痛な声で側近の名を叫んだが、それは銃声にかき消される。

 

 どさりと崩れ落ちる音の後に、口を開くものは誰もいなかった。

 

 誰からともなく目の前に君臨する超越者に頭を垂れ、殺されぬよう息をひそめる中、君臨者の静かな声が光の会堂の中に木霊する。

 

「やっと静かになりましたね。突然呼びつけたのは他でもありません。あなた方が繰り返している戦争についてある取り決めをするためです」

 

 もはや疑問を口にする者も、取り乱して叫ぶ者もいなかった。

 

 一同はただ静かに、超越者の言葉を傾聴していた。

 

 その顔は恐怖に青褪め、一国の主導者たる威厳は微塵もない。

 

「このままでは、あなた方は時を待たずして絶滅するでしょう。自らの手で作った兵器で。地球に住まう全ての生命を巻き込んで。」

 

 光の中に座す君臨者は立ち上がって手を広げた。

 

 伏し目がちにそれを見上げた数名は、君臨者が光の中にいるのではなく、君臨者こそが光なのだと理解する。

 

 その瞬間、それを見た者たちの目が蒸発した。

 

 それでも誰も悲鳴や苦痛の声を上げるものはいなかった。

 

 正確にはただ自分の愚かさを悔い、地に額を擦り付ける以外には何も許されていなかったという方が正しい。

 

「愚かな人の子らよ。今この時より直接の戦争を禁じます。すなわち兵器の使用を。代わりにあなた方にはを用いた代理戦争をしていただきましょう。戦勝国にはあなた方が望んで止まない無限の資源と、世界政府の王位を授けます。玉座に座るのは戦勝国のあるじただ一人。その者こそ不毛な争いに終止符を打つ終焉者となるのです」

 

 超越者の言葉の後に訪れた、耳が痛むほどの沈黙を破ったのは日本の国主だった。

 

「畏れながら……依代とはいかがなるものでしょう……?」

 

 その問いに答えるかのように首脳たちの前に巻物が現れる。

 

 そこには各国の言葉で『御霊代理戦争』と記されており、以下のようなルールが示されていた。

 

 

 

 【ルール】

 ・国主は最大13名の依代を擁立し、その者たちを用いて代理戦争をする。

 ・国主は依代とは別に最大13名の旗持ちを擁立し、それを保護する。

 ・国主とは超越者により任命された者であり、これは全世界がすでに知るところである。

 ・国主は勝利条件を満たし敵国を制圧、世界の玉座を目指す義務を負う。

 ・依代に人権は存在しない。ただし国主は依代に勝利報酬を与えなければならない。

 ・戦勝国の依代は、任意で異能を手放すことが出来る。

 

 【禁止事項】

 1、代理戦争に関与する者が一般人を殺してはならない。

 2、代理戦争に関与する者が兵器を用いてはならない。

 3、代理戦争の存在及び、依代の異能を、一般人に看破されてはならない。

 

 【対応するペナルティ】

 1、因業カルマ(愛する者の死)

 2、断捨離ダンシャリ(身体機能の一部喪失)

 3、筺遺棄ハコイキ(苦痛筺への封印と世間からの忘却)

 

 【勝利条件】

 1、フラッグマン(旗持ちの要人を全員殺害)

 2、アンチヒーロー(国主の殺害)

 3、ケイオス(国民が国家に反旗を翻す)

 4、スパッタード(敵国の依代を全員殺害)

 

 【対応する勝利報酬】

 1、自国のフラッグマン1名を完全隠匿。

 2、国呪を1回発動可能。

 3、兵器の使用を許可。ただし一般人に向けて使用した場合、報酬は剥奪され、ペナルティが発動する。

 4、依代が新たな呪いを獲得。

 

 【参加国】

 1、アメリカ

 2、ロシア

 3、中国

 4、日本

 5、イギリス

 6、欧州連合

 7、中東連合

 8、オセアニア連合

 

 以上8つの勢力の国主が玉座の資格を有する。

 

 

「さあ。あなた方の愛してやまない呪詛と怨嗟の坩堝の中で、依代と己の血を流しながら存分に殺し合いなさい。生き残った者こそがこの世の全てを手中に収めるのです」

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