わんわんとさっちゃん

遠坂 爾枝

第1話 出会い 〜ひとりと一匹〜

 4月も下旬ではある。

 しかしそれにしても暑い。暑くて溶けそう。一体このお天気は何なの……もう夏なんじゃないの?

 しかし3歳の皐月には陽射しなど関係ないらしい。早くお散歩に行きたくて、黄色い帽子を自分で被って玄関のドアノブをガチャガチャしている。

「はいはい。さっちゃん。日焼け止め塗ったらお外出ようね」

 しかしもうお外に出る気満々なのか、日焼け止めを塗る時間など惜しいらしい。「キィーッ」と金切り声を上げて地団駄を踏み始めた。

 どうしたもんか。そう思っていると去年漬けた紫蘇ジュースを片手にお義母さんが顔を出した。

「七海さん、さっちゃん、どしたの?」

「皐月がお散歩に行きたくてたまらないらしくって。日焼け止めを塗る時間も惜しいって」

 目からほろほろ涙をこぼしている頬はぐにゃりと真っ赤に歪んでいる。

「あらー? さっちゃん、日焼け止めはイヤなの?」

 すると、「うぅー」と首を横に振る。私はお義母さんと顔を見合わせた。

「そっか、さっちゃん。日焼け止めがイヤなんじゃなかったら、何がイヤなの?」

 しゃがみ込み、皐月と目線を合わせたお義母さんに、さつきは「わんわん」と言ってドアを指差した。すると、ドアの向こうから、ワンッ、と大きな犬の鳴き声が。

「あぁ、そう。さっちゃんはワンワンに会いたかったのね」

 頷く皐月の顔に笑顔が戻ってきた。

「それじゃぁ、そうね。わんわんにとりあえずご挨拶だけしよっか」

 それからのことは、後で考えよう。日焼け止めは塗らないといけないとして。

 うーん。今日はどこへ行こうかな?

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