2章07 星の記憶

その夜、リュカは、不思議な夢を見た。

――空がなかった。

けれど、目の前には、光がゆらいでいた。

それは言葉ではなく、音でもなかった。

けれど確かに、胸の奥に届く“何か”だった。


(ここは……どこ?)

霧のようなものが、ゆっくりと流れていた。

それは森の朝靄とも、教会のロウソクの煙とも違う。

あたたかくて、やわらかくて、でもどこか切ない。


「……ありがとう」

誰かが、そう言った気がした。

声はない。音もない

けれど、確かにそう“感じた”。

(ぼくに……?誰……?)


目の前で、霧がたくさんの人の形を作っていく。

それはエミルに似ていた。でも少し年上で、服も違う。

その隣には、アレンに似た少年がいた。


やわらかな笑みで、リュカの方を見ていた。

その二人の周囲には、ほかにも何人かの“面影”があった。


かつて、リュカの元から離れていった人たち。

けれど彼らの眼差しは、あまりにもやさしかった。


「気づいてくれて、ありがとう」

「伝えてくれて、ありがとう」

誰が発したかわからない、

声ではない“言葉”が、リュカの中に流れ込んでくる。


(……これが、ゆるしの世界?)

何かを“してあげた”のではない。

ただ、気づき、まっすぐに向き合っただけ。


それが、誰かの魂に光を灯すことになるのだろうか。


リュカは、少しだけ息を吸った。


気がつけば、霧が晴れて、星が見えていた。

きらめく光の粒の中に、懐かしい気配がいくつもあった。


自分は、ひとりじゃない。

この空の向こうで、たくさんの“ありがとう”が、

自分を、そして誰かを支えている。

夢が、やさしく終わっていく。

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